勝亦丸山建築計画 vol.3

静岡・東京の2拠点で、建築設計、自治体や大学との取り組み、都内のシェアハウスの運営などの活動をする〈勝亦丸山建築計画〉の勝亦優祐さんの連載です。

商店街エリアの不動産を流動化させる「富士市まちなか再起動計画」

vol.1では、立体駐車場を舞台に2013年から3年連続で行ったイベント「商店街占拠」を紹介した。吉原エリアでのスモールビジネスや人が集まる場、公園や休憩スペースなどパブリックスペースの疑似体験をまちの人々と共有することを目的としていた。

イベントで確信したのは「商店街で商いを起こす人々はいる」という単純なことだった。2015年にはvol.2で取り上げた〈マルイチビル〉が完成し、私も含めた商いをする人々のための空間が始動した。

「商店街占拠」と〈マルイチビル〉を経て、新たな課題が浮かび上がってきた。それは、新しく事業を始めたい人に場を提供し、中心市街地に人が集う新たな循環を生み出すためには、不動産情報に出ていない、使われていない空間を掘り起こす必要があるということだ。

今回は、2016年に実施した不動産調査プロジェクト「富士市まちなか再起動計画」について紹介したい。

そもそも、なぜ中心市街地への取り組みを始めたのか

富士市の吉原商店街。

富士市の吉原商店街。

吉原商店街はかつて、東海道の吉原宿という宿場町として栄え、周辺が市街地化していくにつれ、まちの商業や産業、人々の生活の中心であり続けてきた。

そして、ここ数十年の社会状況の変容(車社会化、コンビニやショッピングモール、スーパーなど郊外への出店、インターネットショッピングなど)によって、まちの中心という認識は薄れつつある。

私自身、Uターンして、いまあらためて富士市で生活をしてみても、ここには“人が集い、お店の集積する雑多なエリア”の雰囲気を感じない。車でロードサイドショップや職場、家をめぐるような生活では、その移動中に新たな発見をしたり人と出会うことは少ないだろう。

そこで、現在の吉原商店街に残る、地理的な中心という合理性や、数少ない公共交通のハブ機能、豊富な空き空間資源の要素を元手に、このエリアの本来の役割を実現していきたいと考えたのだ。

空き物件が多いのに、なぜ不動産情報に載らないのか?

商店街のエリアの資源は、建築や空間そのものだと思う。しかし、建築物は長年の雨や風にさらされ劣化する。メンテナンスの状況によって、再活用する際、修繕にコストがかかってしまうと、継ぎ手の事業が成立しづらくなり、選ばれにくい不動産となってしまう。

放置されたまま時間は経過し、オーナーは高齢化、相続した世代は、お荷物のような不動産に固定資産税を払い続ける羽目になる。この負のサイクルをなんとか断ち切ることはできないだろうか、と考えていた。

使われなくなってメンテナンスが行き届かない外壁や屋上。

使われなくなってメンテナンスが行き届かない外壁や屋上。

吉原商店街において、不動産情報として誰でもアクセスできる情報量と、実際の空き物件の量との乖離が大きいと感じていた。物件の探し手としては、やはり多くの情報量から条件を絞る方法で検索したいはずだ。

現代の多くの不動産は「不動産仲介業」というプロが情報を扱っている。彼らは営利事業として活動しているので、もちろん社会貢献的な活動をされている不動産業の方々もたくさんいるが、多くの不動産業者は利益が見込める物件でないと扱うのが難しいのが現状だ。

右に見える白いビルがリノベーションした〈マルイチビル〉。

右に見える白いビルがリノベーションした〈マルイチビル〉。

リノベーション後のマルイチビル。(撮影:干田正浩)

リノベーション後のマルイチビル。(撮影:干田正浩)

マルイチビルで実践したように、一見利益を生みにくそうな古い物件でも、工夫次第でいい活用ができる。しかし、一般的な不動産仲介業ではそのような物件を掘り起こすのは難しいのではないか。つまり、不動産を流動的にするには、物件との出会いの仕組みから変えなければいけないのではないか、と考えた。

そこで、富士市にUターンした友人の鈴木大介くんとともに、遊休不動産活用・再生に向けた実地調査の企画を練った。私と同い年の彼は大学を卒業後、大手の建設コンサル会社に勤務していた経験を持つ。

結果的に、中心市街地再興戦略事業として、富士商工会議所から委託を受けるかたちで「富士市まちなか再起動計画」がスタート。富士商工会議所、鈴木くんの〈富士山まちづくり株式会社〉、〈勝亦丸山建築計画〉、工学院大学木下庸子研究室、常葉大学大久保あかね研究室というチームで、遊休不動産の実態調査とニーズ調査、それをもとにした活用・再生案の検討を行った。

遊休不動産の調査。物件オーナーにヒアリング

お茶屋さんの石蔵。

お茶屋さんの石蔵。

「不動産オーナーは、テナントとして貸し出せばお金になるのでは?」と思うだろう。しかし、それを選択しないオーナーの事情が存在する。なぜオーナーたちのモチベーションが低いのか。商店街の不動産オーナー達の話を聞いて回ることで、いくつかの理由が見えてきた。

1階の店舗部分ではもともと自分でお店をやっていて、現在はお店をたたみ、自分が上階に住んでいる。1階を通らないと上階に行けない構造であり、自分の家の直下を人に賃貸するのは不安。

長い間放置したため廃墟状態。使えるようにするまでには費用がかかるので気が進まない。

過去に賃貸していたが、家賃の滞納やさまざまな問題があり、揉めごとの種になるようなことをしたくない。

などの話をうかがった。

元料理教室。

元料理教室。

商店街の賃貸ニーズは下がっており、賃料もそこまで高くない。よって不動産オーナーたちの「他人に貸したい、売りたい」というモチベーションは低くなっている。それに加え、オーナーたちは高齢化しており、また、すぐに決断を迫られるような資金問題があるわけでもない。もはや賃貸してもメリットが少ないのだ。

法律とコストのハードルを下げるために

法律とコストの問題も不動産事業に大きく関わっていることがわかってきた。ここはやや専門的な話になるが、これから物件を借りる可能性がある人や物件オーナーが事前に理解しておくと、建築コストを抑えられたり、物件選びの参考になるので、その概要をお伝えしようと思う。

マルイチビルを改修設計したとき、建築基準法、消防法などの法律のハードルに直面した。古い建物を直して、使い方を変えたり、増築したり、大規模に改修するならば、最新の法律に適用させなさいよ、ということだ(法律は改正され続けている)。

もし法律に違反した場合は「違反建築物」となってしまい、建物オーナーに大きなリスクが伴ってしまう。

近年、国は古い建物の活用を促進しようと法律の緩和が行われている。それでも、慎重に計画をたてないと、思わぬところでコストが増大し、工事費などの初期コストが膨れ上がり、事業自体が成り立たなくなってしまう。

産官学連携で行ったワークショップ。

産官学連携で行ったワークショップ。

まちにはたくさんの建物があり、事業に合った建物を選ぶことができたら、初期コストが低くなり、事業スタートのハードルが下がると考えた。最初にチェックすべきは以下の5つのポイントだ。

1 建築確認済証の有無。

2 検査済証の有無。

3 設計図(竣工図)の有無。

4 建築台帳への記載の有無。

5 新耐震基準に適合しているか。

上記のポイントをチェックすると、この時点で計画できる限界が把握できる。この状態を知らずに物件を決めてしまうと、後々計画が違法となり、実現不可だった、ということになってしまう。

改修計画は一般的に以下3点の範囲で行うと、改修のハードルが低く、コストも抑えることができる。

1 建築基準法上の「用途」を変更しない。

2 「増築」をしない。

3 建築物の主要構造部(壁、柱、床、梁、屋根または階段)の

一定規模以上の修繕や模様替えをしない。

マルイチビルは3点すべてに当てはまる。コストを最小限とするために、用途変更の確認申請が不要の範囲でリノベーションした。元の用途である店舗・旅館宿泊業の範囲で新店舗と事務所を設置し、一定規模以上の修繕や増築はしない。法律に適応させるため、要項に細かく沿いながら改修を行った。

商店街の300棟の建物を調査し、データ化へ

調査は富士市のふたつの商店街、富士商店街、吉原商店街を対象に行った。

調査は富士市のふたつの商店街、富士商店街、吉原商店街を対象に行った。

今回の調査プロジェクトでは、上で説明した5つのポイントを、吉原商店街にある建物約300棟を調べあげ、そのすべてをデータ化した。

不動産登記簿や自治体が保管する建築台帳など、誰もがアクセス可能な情報と、オーナーへのアンケートとヒアリング結果をまとめてデータを作成。さらに、データと照合できる商店街の模型を作成した。

調査の過程。

調査の過程。

模型の側面の色は用途、上面の色は新耐震適合、文字は階数などの情報が書き込まれている。

模型の側面の色は用途、上面の色は新耐震適合、文字は階数などの情報が書き込まれている。

商店街の不動産を調べていくうちに、典型的な3つの課題が浮かび上がってきた。

1 うなぎの寝床型の敷地と建物。

2 敷地にまたがって建てられた共同ビル。

3 1階テナント部分を通らないと2階に行けない導線の重複。

これら3つの課題に対して、具体的な活用案も作成した。それらのひとつは、後に完成するゲストハウスへと発展する。

江戸時代から現代の土地割の変遷。細分化され南北に細長いうなぎの寝床状になっている。

江戸時代から現代の土地割の変遷。細分化され南北に細長いうなぎの寝床状になっている。

調査物件からゲストハウスがオープン

2020年3月、調査プロジェクトから3年が経過し、調査の対象物件のひとつで築50年の〈澤田ビル〉がリノベーションされ、ゲストハウス〈14GuestHouse Mt.Fuji〉となってオープンした。調査をともに行った鈴木大介くんが代表を務める〈吉原マネジメントオフィス〉がゲストハウスの運営を行っている。

鈴木くんは調査プロジェクト以降も、吉原商店街の営業マンのような動きをしている。常にまちの人々とコミュニケーションをとり、オーナーさんたちの困りごとに耳を傾けて、今年度から物件に関する「電話相談窓口」も開設したそうだ。彼には「マルイチビルから半径100メートル圏内の物件を掘り起こす」という構想があり、私も強く共感している。

鈴木大介くん。〈14GuestHouse Mt.Fuji〉のドミトリーにて。

鈴木大介くん。〈14GuestHouse Mt.Fuji〉のドミトリーにて。

本プロジェクトで作成した不動産データは、現在は役所にて限定展示公開されており、データの所有者である自治体に、データ活用のさらなる提案が必要だと思っている。ただし不動産情報の公開は個人情報の問題に絡むので、慎重に進めなければならない。

当面は電話相談窓口にて条件や要望を聞き、僕や鈴木くんが物件探しに同行したり、提案したいと思っている。将来的にはウェブで誰でもアクセスできるように一般公開するなど、このデータを多くの人が活用できる仕組みを考えていこうと思う。

調査によって掘り起こされた物件が新たな事業につながり、中心市街地に人を呼び寄せる新たな装置としてゲストハウスが誕生した。これからさらに不動産データがアップデートされ、まちの人々に開示されれば、それはまちの可能性を可視化することでもある。このデータが新たな事業を起こす人の後押しとなり、中心市街地の人の流れにつなげることができたらと思っている。

見えてきた自分の課題。運営スキルを身につけたい

vol.1〜3にかけて、「商店街占拠」、〈マルイチビル〉そして「富士市まちなか再起動計画」と、静岡県富士市の吉原商店街をテーマに、地方の中心地を再定義するための活動をしてきた。

これらの活動を経て、身につけたい技術や知識が広がっていくのを感じている。設計のセンスやスキルはもちろんだが、建物の企画やお金のこと、事業の運営についてだ。相方の丸山裕貴とたくさんの時間をかけて議論し、私たちが30歳の年に自社が事業主の建築ビジネスを試してみることになった。

次回は、都内で展開するシェアハウス事業について紹介したい。

profile

Daisuke Suzuki 鈴木大介

〈吉原マネジメントオフィス〉代表取締役。〈富士山まちづくり株式会社〉、NPO法人〈東海道・吉原宿〉代表理事。

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Yusuke Katsumata

勝亦優祐

かつまた・ゆうすけ●〈勝亦丸山建築計画〉代表取締役。1987年静岡県富士市生まれ。工学院大学大学院工学研究科(木下庸子研究室)修了。静岡県富士市と東京都北区の2拠点で、建築、インテリア、家具、プロダクトデザイン、都市リサーチ、地域資源を生かした事業開発等の活動を行っている。http://katsumaru-arc.com/