ミユキデザイン vol.5

岐阜を拠点に建築、まちづくり、シェアアトリエの運営などの活動をする〈ミユキデザイン〉末永三樹さんによる連載です。

初めてのプロポーザルから新たな展開へ

2016年、岐阜市を拠点に空きビル再生を手がけ、エリアが変わっている手応えを感じ始めていた頃、隣町である各務原(かかみがはら)市が「DIY型空き家リノベーション事業」を行う事業者を公募しているという情報が入りました。

各務原市は、岐阜市から車で約30分の距離にあり、航空自衛隊基地があることで全国的に知られたまちです。今年で12年目を迎える東海エリア屈指の音楽フェス〈OUR FAVORITE THINGS〉(OFT)を市役所が主催していることもあり、おもしろそうな自治体だと注目していました(今年のOFTは新型コロナウイルスのため中止だそうです、残念!)。

岐阜を代表する音楽フェス〈OUR FAVORITE THINGS〉。

岐阜を代表する音楽フェス〈OUR FAVORITE THINGS〉。

「DIY型空き家リノベーション事業」とは、DIYリノベによる空き家の流通促進と「生活にこだわりのある若い世帯」の移住定住促進を目的としたもの。「空き家を手放すつもりはないけど、活用したい」というオーナー(大家さん)と、「住宅を購入する気はないけれど、DIYをして自分らしい暮らしをしたい」という借主のマッチングです。

1年間の事業で、市内の空き家調査とオーナーへのヒアリング、賃貸で空き家を活用するスキームをつくり上げること、さらにそのスキームを使って1棟以上に借り手をつけ、一緒にDIYリノベーションを行って住み始めるようにする、という結果を求められていました。

ターゲットの設定や企画内容がおもしろかったし、岐阜界隈でこの事業ができるのは自分たちじゃないかと思い、手を挙げたところ当選。事務所を立ち上げてから5年目、初めてプロポーザルで行政と仕事をするチャンスをつかみました。

行政とチームになる

会社員時代にも公共建築の設計を経験していたのですが、当時は市役所と会社の関係に、発注者と受注者という強い線引きを感じていました。自分たちは「業者」として扱われ、わたしたちは市役所の人を「デザインや発想など話が通じにくい人」と設定していたように思います。

しかし、このプロジェクトでは、初期段階から「お互いに難しい挑戦だから、一緒に考えながら結果を出そう!」という空気があって、仕事の進め方も手探りながら、進めば進むほど、結束力や共感が高まっていたのが刺激的でした。

空き家レポートやセミナー案内、DIY参加者募集など事業の進捗は小さなフライヤーとSNSで発信。

空き家レポートやセミナー案内、DIY参加者募集など事業の進捗は小さなフライヤーとSNSで発信。

空き家リノベにおける行政の役割、民間の役割

当然と言えばそうですが、不動産オーナーとのはじめのやり取りに行政が入ると、安心感から話が進みやすく、早い段階でさまざまな情報を得ることができました。一方、「行政だからなんとかしてよ」という思いも入りやすく、実際に賃貸する際の民民(オーナーと借主)で交わされる契約段階では、コニュニケーションに歪みが生じやすいこともわかりました。

空き家のどの部分が魅力的か、どう活用できるかを見立てて、DIYの可能性、生活にこだわりのある若い世帯に情報を届けることは、わたしたちの得意分野。行政が取り組む空き家対策に課題が見え、最終的には、オーナーと借主、そして民間事業者(DIYをサポートする建築家や工務店、不動産屋さんなどの専門家たち)のマッチングを仕組み化して、現在も継続して稼働しています。

制度の仕組み。借主が原状回復する必要がないことも大きな特徴。

制度の仕組み。借主が原状回復する必要がないことも大きな特徴。

1年で述べ50軒以上の空き家を市役所職員と一緒に巡った。大家さんが立ち会うこともあれば、鍵を預かることも。家には時間や人の思いが重なっているのか、それを受け止めるがゆえに空き家調査のあとは、とても疲れる。

1年で述べ50軒以上の空き家を市役所職員と一緒に巡った。大家さんが立ち会うこともあれば、鍵を預かることも。家には時間や人の思いが重なっているのか、それを受け止めるがゆえに空き家調査のあとは、とても疲れる。

年1回の大型マルシェイベント「マーケット日和」にて、空き家相談窓口を出店。ここで出会ったファミリーが空き家を借りて一緒にDIYすることに!

年1回の大型マルシェイベント「マーケット日和」にて、空き家相談窓口を出店。ここで出会ったファミリーが空き家を借りて一緒にDIYすることに!

とはいえ、地方での賃貸住宅流通の難しさにも直面しました。持ち家志向の強い地方では、賃貸物件への内装投資金額はかなり低い傾向で、わたしたちのような建築士が介入するとコストバランスが取りにくいという事実がわかりました。ここには発明が必要で、いまでも試行錯誤中です。

空き家巡りから、公園都市としての可能性に気づく

市内に点在する空き家を巡りながら、空き家自体におもしろい要素はあっても、単体の住宅がまちを変えたり情報発信していくのは難しいと体感しました。でも、立地や雰囲気の良さなど、各務原らしいこれからの暮らし方とそのエリアが、はっきり見えてくるようにもなりました。

各務原市は、自らを公園都市と呼び、「水と緑の回廊計画」など10数年をかけて市民と共に公園をつくり、守り続けています。その象徴ともいえるのが、各務原市の中心市街地に隣接するふたつの巨大な公園〈学びの森〉と〈各務原市民公園〉。その一帯こそが、エリアリノベーションの核になることに気づきます。

〈学びの森〉は5.8ヘクタール。〈各務原市民公園〉は6.5ヘクタール。この巨大なふたつの公園が隣接し、その周辺には市役所や私鉄の駅、住宅地がある。

〈学びの森〉は5.8ヘクタール。〈各務原市民公園〉は6.5ヘクタール。この巨大なふたつの公園が隣接し、その周辺には市役所や私鉄の駅、住宅地がある。

学びの森・市民公園のエリア内にできた川漁師・平工顕太郎さんの店〈ゆいのふね〉。

学びの森・市民公園のエリア内にできた川漁師・平工顕太郎さんの店〈ゆいのふね〉。

2017年には公園から徒歩3分の場所に、川漁師・平工顕太郎さんの店〈ゆいのふね〉がオープンしました。

改修前の1階。

改修前の1階。

1階は平工さんの友だちの職人たちでチームをつくって改装。

1階は平工さんの友だちの職人たちでチームをつくって改装。

2階ビフォー。

2階ビフォー。

きっかけは、店主の平工さんが「DIY型空き家リノベーション事業」の説明会に参加したこと。元美容院+寿司屋の物件を賃貸、そしてDIYリノベし、カフェ、新鮮な魚料理が味わえる食事処、川文化について学ぶ生涯学習スペースなど、いろんな要素が混在した新たな地域の拠点が生まれました。

改修後の1階。

改修後の1階。

2階はDIYワークショップでリノベーション。

2階はDIYワークショップでリノベーション。

市の担当職員だった廣瀬真一さんは、音楽フェス「OFT」を立ち上げた人でシティプロモーションにも携わる若手オルタナ系公務員。その後も、各務原市最大の商業施設〈イオンモール各務原〉内に移住定住相談窓口を設置し、若者を集め、魅力発信を行う企画を開いたり、『OUR FAVORITE KAKAMIGAHARA』という市民と一緒につくるメディアを立ち上げたりと、課題解決への先手を打っています。

彼のような存在がいること、そして彼を信じてプロジェクトを任せる体制がある各務原市はやっぱりおもしろいなあ、と思います。おもしろい自治体との仕事には可能性しかありません。

事業の紹介を兼ねて、各務原で叶うDIYのある暮らしを発信する『暮らしマガジン』を発行。

事業の紹介を兼ねて、各務原で叶うDIYのある暮らしを発信する『暮らしマガジン』を発行。

空き家DIYリノベチームのみんな。セミナーやワークショップなども一緒に企画してきた。

空き家DIYリノベチームのみんな。セミナーやワークショップなども一緒に企画してきた。

各務原市が仕掛ける、学びの森・市民公園のエリアリノベーション

2018年になると、学びの森・市民公園エリアにある公共遊休地に新たな計画が立ち上がります。民間活力を取り入れながら賑わい創出することを目的に、感性豊かな若い世代をターゲットにした商業施設を誘致する計画です。いまあるエリアの価値を調査・分析し、どんなアンカーを打つか。そんな視点で計画を立て、事業者公募のスキームが組まれていきました。

エリアPRと事業者公募を『暮らしマガジン vol.2』として発行。

エリアPRと事業者公募を『暮らしマガジン vol.2』として発行。

各務原市は、すでに行政と民間が手を取り合って動き始めており、学びの森内にカフェ〈KAKAMIGAHARA STAND〉をオープンさせたり、学びの森と市民公園が舞台となる年一のイベント「マーケット日和」を開催したりと、感度の高い若い世代や子育て世代の女性たちが公園に集まってきています。2019年には事業公募が行われ、オープンに向けて順調に進んでいるようです。

学びの森内にあるカフェ〈KAKAMIGAHARA STAND〉。市の公園施設を〈かかみがはら暮らし委員会〉が賃貸・運営。これができたことによって、学びの森のフェーズが一気に変わった感じ。おいしい食べ物と楽しい企画で若い世代を中心に人が集まっている。

学びの森内にあるカフェ〈KAKAMIGAHARA STAND〉。市の公園施設を〈かかみがはら暮らし委員会〉が賃貸・運営。これができたことによって、学びの森のフェーズが一気に変わった感じ。おいしい食べ物と楽しい企画で若い世代を中心に人が集まっている。

年一イベント「マーケット日和」。市とかかみがはら暮らし委員会が一緒に企画・運営。最近は、公園の使い方の実験も仕掛けていて要注目。このイベントにはびっくりするくらい多くの人が集まってくる。

年一イベント「マーケット日和」。市とかかみがはら暮らし委員会が一緒に企画・運営。最近は、公園の使い方の実験も仕掛けていて要注目。このイベントにはびっくりするくらい多くの人が集まってくる。

「子どもに見せたい風景をつくりたい」市民公園のリニューアルへ

そして2019年には、開園から約30年が経過し、施設の老朽化や公園を取り巻く社会状況の変化への対応など、さまざまな課題が表面化してきている市民公園のリニューアル基本計画が始動。公募型プロポーザルを経て、わたしたちも基本計画の作成に参画することになりました。

学びの森周辺の新しいにぎわいを生かし、岐阜大学跡地という歴史を受け止めたうえでの、さまざまな市民の拠り所=パブリックとしての公園のあり方が求められました。

6.5ヘクタールもあるこの公園では、あえてターゲットを絞らず、主体性のある多様なプレーヤーを巻き込み、公園という場を通じて人と人がつながり、次の世代へ魅力的な風景を引き継いでいきたい。そんな思考のもと「子どもに見せたい風景のある公園」という基本コンセプトを立ち上げました。

「パークリノベミーティング」(PRM)はじまりのフライヤー。計画段階から市民に伝えるプロセスを重要視して、独自のSNSだけでなく、市の公式LINEと連動して情報を発信。

「パークリノベミーティング」(PRM)はじまりのフライヤー。計画段階から市民に伝えるプロセスを重要視して、独自のSNSだけでなく、市の公式LINEと連動して情報を発信。

まずは、公園を使う人たちのリアルな声を聞き、公園で何かやってみたい人たちが関わりやすい仕組みをつくるために「パークリノベミーティング」(以下PRM)を立ち上げることに。公園の先進的な事例を学んだり、市民公園の可能性を見つけるためにフィールドワークを行ったり、「自分なら何がしたい?」というワークショップを定期的に開催しました。

これには述べ約140名の人が参加。SNSなどを活用したアンケートでは、810人もの回答が得られ、市民と共につくりあげるプロセスを順調に進めています。

PRMのセミナーとフィールドワーク。

PRMのセミナーとフィールドワーク。

PRMの様子。みんなのやりたいことを発表してマッピング。子どもからお年寄りまでの幅広い層が参加。

PRMの様子。みんなのやりたいことを発表してマッピング。子どもからお年寄りまでの幅広い層が参加。

最終日には「未来の小さな風景づくり」と題して、やりたいことを実現する一日を企画していった。

最終日には「未来の小さな風景づくり」と題して、やりたいことを実現する一日を企画していった。

今回、コロナによって「未来の小さな風景づくり」は実現できませんでしたが、PRMは市民と共に公園をつくるエンジンとして継続的に行っていく予定です。

こういった、市民の関わりや活動を通して、市民公園をハード、ソフトの両面からアップデートしていく仕組みを、いままさに議論しています。

残念ながら中止となってしまった実証実験イベントのフライヤー。

残念ながら中止となってしまった実証実験イベントのフライヤー。

「つなぐ」ランドスケープデザイン

このように「使う」側の声を拾って、歴史背景のリサーチや人の行動、ニーズなどを把握・分析し、公園をアップデートする仕組みづくりを並走させながら、ランドスケープのデザインを組み立てていきました。

強い図式で計画された公園から、「つなぐ」をキーワードとした公園へ。有機的な形状を持つ広場空間を中心とした、歴史、時間、風景、人をつなぐ新しい公園像が浮かび上がってきました。

PRMで参加者と共有した市民公園のリニューアル全体イメージ。公園を8つのゾーンに分け、性格づけを行う。有機的な広場に沿った園路を巡ることで、多様な活動や風景が見える。それらが程よい距離感で同居するのが、居心地の良さにつながると考えている。

PRMで参加者と共有した市民公園のリニューアル全体イメージ。公園を8つのゾーンに分け、性格づけを行う。有機的な広場に沿った園路を巡ることで、多様な活動や風景が見える。それらが程よい距離感で同居するのが、居心地の良さにつながると考えている。

公園と図書館をつなげ、市民公園の新しい顔をつくる

市民公園の敷地内には、各務原市立中央図書館がありますが、長年にわたって空間的にも運営的にも関係が希薄な状態でした。近年は図書館のあり方が変わり、単に本を貸し出す場ではなく、「課題解決型」「ゆったり過ごす滞在型」「地域コミュニティ形成支援型」など地域を支える情報拠点になっています。

公園と図書館の連携を生み出すことで、新しい居場所が生まれ、互いの場所の価値が上がることは明白で、今回のリニューアルをきっかけに、市役所内で部署を超えた話し合いの場を持つことができました。

今回初めてランドスケープデザインという、大きく流れる自然や時間を相手にするデザインを経験しました。建築士として、建物設計の中に含まれている外構デザインの経験はありましたが、それとは違った視点や多くの気づきを与えてくれました。

これらの基本計画は、今年6月に完了予定。実現に向けて、さまざまなハードルがあると思いますが、多くの人が思いを持って関わっている現状を見ると、良い場所が生まれると、期待に胸が膨らみます。

ゾーンのひとつ、子どもたちが自分で考えて遊べる空間「プレイコート」。

ゾーンのひとつ、子どもたちが自分で考えて遊べる空間「プレイコート」。

仕事を通じて出会う、まちとわたしたちの当事者性

岐阜市は自分たちが活動するフィールドで、当事者性が高いのは当然です。一方でほかの市町はどうなのか、と聞かれることがありますが、自分たちがおもしろそうなまちだと思う瞬間があれば、そこに出向くようにしています。その嗅覚が当たると、魅力的な人との出会いや思いがけない出来事に遭遇することが多く、自分たちもそのまちがどんどん好きになっていきます。

ただ、エリアリノベーションという仕事としてまちに入り込むのは、本当に多くのエネルギーが必要なので、たくさんはできないものだとも思っています。

空きビルのリノベーションから始まり、もうすぐ10年。行政との協業や公園のリノベーションにまでたどり着いたのは、自然な流れのようにも感じています。

次回はそんな嗅覚で関わった、美濃加茂市のお話をしたいと思います。

writer profile

Miki Suenaga

末永三樹

すえなが・みき●1977年岐阜生まれ。一級建築士。明治大学理工学部建築設計卒業。設計事務所勤務を経て2012年に〈ミユキデザイン〉を設立。2016年に〈柳ヶ瀬を楽しいまちにする株式会社〉を共同設立、クリエイティブディレクターを務める。「あるものはいかそう、ないものはつくろう」を理念に、建築的な視点を持って「まちをアップデートし、次世代へ手渡す」ことを目指し、建築にとどまらずデザイン、企画・プロモーションなど包括的に考え実践する。一児の母。http://miyukidesign.com