撮影:千葉正人

静岡・東京の2拠点で、建築設計、自治体との取り組み、都内のシェアハウスの運営などの活動をする〈勝亦丸山建築計画〉の勝亦優祐さんの連載です。

今回は、建築家による建築物の価値を受け継ぎ、育てながら、自ら場の運営も手がける〈今川のシェアハウス〉をテーマにお届けします。

東京都杉並区にある〈今川のシェアハウス〉。(撮影:千葉正人)

東京都杉並区にある〈今川のシェアハウス〉。(撮影:千葉正人)

プロジェクトの始まり

〈西日暮里のシェアハウス〉を運営して1年が経った頃、東京・杉並区に建つ戸建住宅について、建築と不動産のあいだでさまざまな仕事をする〈創造系不動産〉から相談を受けた。

1976年に竣工し40年以上が経過したその住宅は、外壁や窓周りの経年劣化はあるものの、吹き抜けを中心に考えられた空間構成をはっきりと感じることができた。ラワン(主にアジアの熱帯雨林の木材)の無垢材で仕上げられた内壁は、飴色になりいい味を出していた。

設計は遠藤楽(1927〜2003)。父親で建築家の遠藤新に自由学園で建築を学び、その後、巨匠フランク・ロイド・ライトの日本人最後の弟子といわれた建築家だ。オーナーの夫が友人だったことから、楽さんに設計を依頼したそうだ。

1976年の竣工時の様子。

1976年の竣工時の様子。

時間とともに消滅する建築の価値の問題

最初にオーナーとお会いした際、住宅でのさまざまな出来事や楽さんとの思い出などを楽しそうにお話いただいたことがとても印象的だった。その住宅は、すでにオーナーご家族のための家としての役目は終え、オーナーは使わなくなった建築の処遇に悩んでいた。都内では土地の価値が高く、更地であればそれなりの額で土地を分割売却し現金化できるが、本当にその答えでいいのかを決めかねていたのだ。

本来はたとえ古い建築でも、人が住んで手をかけ続けたものであれば、誰かに引き継ぐこともできるし、元の住まい手の生活の工夫を享受することができる。しかし、いったん空き家になると、一気に劣化が進んでしまう。固定資産税は土地と建物それぞれにかかるため、維持費も積み重なっていく。

静岡県富士市のリサーチ「まちなか再起動計画」では、中心市街地の価値が低下し、古家付きの土地を売却する際に、住み手がつかず放置されるケースを多く見てきた。結果的に建物の解体が決まり、解体費は売却金額から差し引かれて、残る金額はわずかになってしまう。

改修工事中の風景。

改修工事中の風景。

このプロジェクトの場合、土地の値段は都内なのでそれなりに高くつく。しかし、建築物においては、たとえ建築家が建てたものでも、構造や築年数という一般的な指標では市場価値はほぼなくなってしまう。「一般」の価値にとらわれず、「この空間が好きな人々」に対して建物の価値を届けるべきではないのか。

私たちは建物を残し、シェアハウスとして形態を変え、賃貸化することを提案したが、プランニングや工事にかかる費用や運営の負担を考えると、オーナーの手には余ると判断された。

オーナーの建物を残したいという気持ちと、建築家の設計した建築の継承や先輩からの学びを得たいという私たちの興味が同じ方向を向き始め、私たちはデザイン・オペレーション(西日暮里のシェアハウス編を参照)の検討を始めた。

西日暮里のシェアハウスと同様に私たちがオーナーから建物を一括で借り上げ、弊社で改修費用を負担し、シェアハウスとして運営、サブリース(転貸)を行うという企画。その提案は受け入れられ、〈今川のシェアハウス〉のプロジェクトが動き始めたのであった。

血縁家族が暮らした「家」で、他人同士が共同生活することの意味

日本において、戸建住宅(家)やマンションは、家族に向けた間取りとして、2LDKや3LDKなどのLDKタイプを量産し標準化されてきた。漫画やドラマ、映画でも一般的な家族の生活スタイルが、LDKタイプの「家」を舞台に描写され、そこでの振る舞い方は小さな頃から血縁家族と過ごしてきた経験がある日本人の多くは、きっと共有できることだろう。

西日暮里のシェアハウスや今川のシェアハウスは、まさにそんな「家」を改修したシェアハウスで、プライベートな居室が5つある5LDKとも見ることができる。どちらの外観を見ても、明らかに血縁家族が住んでいそうな「家」だ。

今川のシェアハウス外観。(写真:千葉正人)

今川のシェアハウス外観。(撮影:千葉正人)

西日暮里のシェアハウス外観。(写真:千葉正人)

西日暮里のシェアハウス外観。(撮影:千葉正人)

ところがシェアハウスのメンバー同士は、血縁家族でもなければ、恋人でもない、単純に友だちという感じでもない。しいて言えば同居人、もしくは交流が多い隣人というくらいの関係性。そんなメンバーが、血縁家族が住むためにつくられた「家」に住んでいる。

日本人にとっては想像しづらいであろう他人との共同生活。「家」に住むことによって擬似家族のような感覚をもたらし、そこに独立した個人の生活スタイルを重ねることで、共同生活のあり方がイメージできる。自分がどのように振る舞うべきかをイメージすることは、集団においては大切なことだ。

結果的にメンバーは、ひとり暮らしのように独立した生活スタイルを保ちながら、ひとり暮らしでは持てないような庭や水回り設備、家具などを共有し、タイミングが合ったとき、気が向いたときにはメンバー同士が合流している。この「家」の形態が、そんなバランスを保った共同生活を実現させている。

遠藤楽の設計を引き継ぐ改修

平面図(左1階、右2階)。

平面図(左1階、右2階)。

専用住宅からシェアハウスへの用途変更。血縁家族から他者と住む関係性への変化。この課題を受けて、私たちは楽さんの思想を少しだけ延長し、空間に反映していくような設計を行った。

まずは、楽さんの設計のポイントからお伝えしたい。

この住宅は、家族が集まるための暖炉のあるリビングやダイニングを中心に置いて、その周りに和室やキッチン、水回りがある構成になっている。壁や床の素材は、木や石を中心に使われている。つくりつけの照明はとてもシンプルな木づくりで、設置されている壁と素材やデザインを合わせ、存在感はありながら空間に馴染んでいる。

リビングとダイニングの間に少し段差をつけ、ダイニングが高くなることで、ダイニングから2階に上がる階段の高さを低くして、吹き抜けから見下ろすと、1階と2階が近く感じられる。

リビング(手前)よりダイニング(奥)は床が少し高くなる。1階のリビングダイニングは、クロスの張り替えや壁を磨くなど最低限の作業のみで、設計デザインは楽さんのものをそのまま引き継いでいる。(撮影:千葉正人)

リビング(手前)よりダイニング(奥)は床が少し高くなる。1階のリビングダイニングは、クロスの張り替えや壁を磨くなど最低限の作業のみで、設計デザインは楽さんのものをそのまま引き継いでいる。(撮影:千葉正人)

暖炉のあるリビングにはつくりつけのソファーが置かれている。壁の色は経年変化によるいい色合いとなっている。(撮影:千葉正人)

暖炉のあるリビングにはつくりつけのソファーが置かれている。壁の色は経年変化によるいい色合いとなっている。(撮影:千葉正人)

吹き抜けのダイニングからリビング、2階を見る。(撮影:千葉正人)

吹き抜けのダイニングからリビング、2階を見る。(撮影:千葉正人)

家族が集まる場を中心におき、そこから家中の気配を感じとれるような楽さんの設計は、ほかの楽さん作の住宅を見ても基本的な考え方は一貫しているように思う。

そんな楽さんの思想を少しだけ延長するかたちで、改修を進めていった。

個室のプライバシー性を高めるために、できるだけ個室は壁を共有しない、どうしても共有する箇所は二重壁になっている。2階にある個室のひとつは、廊下面の壁を取り除き、廊下を拡張して腰掛けられる小さなライブラリーススペースに変更した。

改修によってできた2階のライブラリー。廊下から直接バルコニーにアクセスできるようになったほか、吹き抜けを介して1階からの自然換気を行えるようになった。また、住宅から寄宿舎への用途変更に合わせて求められる避難動線になっている。(撮影:千葉正人)

改修によってできた2階のライブラリー。廊下から直接バルコニーにアクセスできるようになったほか、吹き抜けを介して1階からの自然換気を行えるようになった。また、住宅から寄宿舎への用途変更に合わせて求められる避難動線になっている。(撮影:千葉正人)

このシェアハウスにて、ときどきパーティーやイベントを行い、気がついたことがある。

楽さんの設計の共用部には、一体の大きな空間の中につくりつけのソファやダイニングテーブル、カウンターや庭のベンチなど、体の向き、そのときの視線、感情などがしっくりくるような、絶妙な配置がされていて、そこに2〜3人で座って話をすると、全体としての一体感を感じながらも、部分的な数人での会話も心地よくできる。小さな集まる場が、共用部のそこかしこにあるのだ。

新しくつくった2階のライブラリースペースも、その一部になっているように思う。

さまざまな場所で会話が起きる共用部分。

さまざまな場所で会話が起きる共用部分。

建築家が設計した住宅の価値を共有し、守っていく

今川のシェアハウスは、荻窪駅から徒歩20分と必ずしも利便性が高いとは言えない。しかし、メンバーの多くはシェアハウスのメリットだけでなく、楽さん設計の住宅であるという建物自体にも価値を感じているようだ。

私たちもこの建築に込められた思いを守っていこうと、常に意識しながら運営を行っている。形式的な賃貸ではなく、改修の際は積極的に手伝いをしてくれ、運営についても知恵を一緒に絞ってくれるメンバーがいる。オーナーはいつも気遣ってくれ、生活に必要なものをときどき贈ってくれたりもする。オーナーとメンバーが集い、食事会を開くこともある。

プロジェクトが始まって2年が経過するが、弊社は賃貸事業の運営と建物の管理をし、創造系不動産には管理という立場でオーナーと私たちの関係性をサポートしていただいている。古い建築ゆえのハードのトラブルが起きることもあるが、メンバー、オーナー、創造系不動産、弊社が連携することで解決できている。

庭の池には水が流れている。(撮影:千葉正人)

庭の池には水が流れている。(撮影:千葉正人)

コロナ禍、シェアハウスの暮らしはどうだったのか

シェアメンバーは、20〜30代のデザイナー、起業家などで、緊急事態宣言下ではほぼ全員がリモートワークにシフトしていた。テーブルやカウンター、ベンチなどが大きな空間にゆったりと配置された共用部では、かなりの距離をとってそれぞれのワークスペースが生まれたようだ。

社会的に対面で人と会えない期間だったが、この共有部は庭の緑も感じられ、池には水が流れている。風通しが良く、メンバーはヨガマットやバランスボールで適度に体を動かしていたそうだ。

この家について、メンバーはこのようにコメントしてくれた。

「壁が木でできていて、ぬくもりを感じます。吹き抜けとリビング、ダイニングは広く感じられ、他人と空間をシェアする生活のなかで、気分によって距離を取りたいとき、近づいて話がしたいときなど、関わり方や距離感が選択できる暮らしを気に入っています」

全体性と部分や個人のあり方。建築当時は想定されていなかった住まいの形態だが、楽さんの哲学を私たちなりに汲み取り、それがポジティブに作用し、住まい手の新しい関係性を育てていると実感している。

次回は、静岡県富士宮市の築70年の旅館をゲストハウスへリノベーションした事例をご紹介します。

information

今川のシェアハウス

事業主・企画・設計・運営:勝亦丸山建築計画

不動産仲介・管理:創造系不動産

施工:I-SPACE(一部DIY)

Web:http://katsumaru-arc.com/02_works/1812_img_share.html

writer profile

Yusuke Katsumata

勝亦優祐

かつまた・ゆうすけ●〈勝亦丸山建築計画〉代表取締役。1987年静岡県富士市生まれ。工学院大学大学院工学研究科(木下庸子研究室)修了。静岡県富士市と東京都北区の2拠点で、建築、インテリア、家具、プロダクトデザイン、都市リサーチ、地域資源を生かした事業開発等の活動を行っている。http://katsumaru-arc.com/