播州織とは、“日本のへそ”と呼ばれる兵庫県の西脇市を中心とした北播磨地域で生産されている生地、テキスタイルのこと。しかしコロナ禍によって、注文数が激減するなど多大な影響を受けた。

そこで伝統的なものづくりを守り、その品質を広めていくため、大丸・松坂屋が手がける「Think LOCALー買って、食べて、参加して!キャンペーン」にて「北播磨地場産業開発機構」を支援する活動が始まった。

まずはこの地で続く分業制の生産の流れ、工場の技術力と伝統を受け継ぎながらもいま生まれつつある播州織の新たなチャレンジと可能性に注目してみたい。

播州織ならではの表情豊かなテキスタイル

播州織には約230年の歴史がある。京都の西陣織の技術がこの地にもたらされ、閑散期の農家が機織りに従事したことが始まり。最盛期の1980年代には約9割が海外輸出され数多くの世界的なアパレルブランドにも愛されてきた。

その特徴は、先染め織物。先に糸を染めてから織り上げるため、複雑な格子柄など自由自在に表情豊かなテキスタイルをつくり出すことができる。そして、糸を染める、糸を織る、生地を加工する、完成までの工程すべてを同地域内で行えることは、全国の産地でも稀である。播州織はどのようにできあがるのか? そしてその現状とは?

播州織の発色の良さは、北播磨の水から

「やはり水です。豊富な軟水があること」と話すのは、糸の染色を行う〈多可染工〉の橋本義仁さん。北播磨を流れる加古川、杉原川、野間川の水が発色の良さを生み出す軟水だったことが、播州織がこの地で発展した理由のひとつ。現在、北播磨地域に染色工場は6社ある。

染色はまず、調合試験機で染料を組み合わせ、ニュアンスや感覚を数値化し、さまざまな色を設定する。それをもとに巨大な釜で染色を行っていく。

天然繊維や化学繊維など糸の種類に合わせ、染色方法は変わる。紙の平面印刷とは異なり、シャツなどの立体物になると、光の加減でその表情が微妙に変化するため、数多くの色サンプルが必要になるという。

「発色の良さや、色が落ちないなどの堅牢度を高めるため、現在も試行錯誤し技術を追求しています。私たちは染色ですが、ほかのそれぞれの工場がお互いに切磋琢磨しています。それは多くの工場があるこの北播磨地域ならでは、ですね」

大量のサンプルをバックに語る〈多可染工株式会社〉代表取締役社長、橋本義仁さん。

大量のサンプルをバックに語る〈多可染工株式会社〉代表取締役社長の橋本義仁さん。

織地のバリエーションは無限大

染色された糸は織布工場へ。向かったのは昭和の初めからこの地で織布を行っている〈遠孫織布〉。現在、北播磨地域には約130の織布工場がある。

「播州織の伝統ももちろん大切ですが、近くの工場がこれまでと違うことを始めたら、こっちも負けてられない! という気持ちが出てきますね。ライバルが同じ地域にいることは刺激になります。今はお互いの技術を共有することもありますが、昔は、誰にも工場の中を見られたくない、というところも多かったですね」と5代目の遠藤由貴さん。

工場の一番奥にあるシャトル織機を紹介してくれた〈遠孫織布株式会社〉代表取締役社長の遠藤由貴さん。

工場の一番奥にあるシャトル織機を紹介してくれた〈遠孫織布株式会社〉代表取締役社長の遠藤由貴さん。

工場内には昔ながらのシャトル織機、模様を立体的に編み込むジャカード、そしてデータで生地のパターンを読み込ませる電子ジャカード、と新旧の織機がところ狭しと並んでいる。染められて持ち込まれた糸は、まずサイジング(糊づけ)、畦取りなどの作業を経て、生地の柄に合わせそれぞれの織機で仕上げられる。

ひとくちに播州織といえど、染色同様に織地のバリエーションも千差万別。遠孫織布では特に、カラフルで素材感を生かした「クセの強い」テキスタイルを得意としている。現在は、昔ながらのシャトル織機で織られた、生地の表面にやさしい風合いが出る織物も再び人気なのだそう。

撥水からクラッシュ加工まで、高い加工技術

続いて大正14年に設立された生地の加工場〈播州織工業協同組合〉へ。現在、北播磨地域には2社の加工場がある。織られた生地はここへ運ばれ、最終的な加工・検査が行われる。全長120メートルにも及ぶ加工機のある場内では、基本的な生地処理からさまざまなアレンジ、機能加工が施されている。

織られた際に出る小さな糸を焼く「毛焼き」、糸についた糊を大量の水で除去する糊抜加工、それぞれ生地の用途に合わせたシワ加工や起毛加工、そして撥水、防臭、UVカットなど、時代の要望に合わせたさまざまな機能加工が行われている。

〈播州織工業協同組合〉営業企画部の宇高辰也さん。

〈播州織工業協同組合〉営業企画部の宇高辰也さん。

播州織工業協同組合では、クラッシュ加工というオリジナル加工を行っている。織物のよこ糸を上下に移動させ、波のような隙間を開ける加工法で、透け感とやわらかな風合いが特徴だ。ストールやカーテンなどによく使用されている。

営業企画部の宇高辰也さんに聞くと、「現在はアパレルだけではなく、これまでの播州織の技術を応用して壁紙などの資材まで」生産しているそうだ。そうした新規の展開には「昔からここで培われた職人の技術と経験は大事」と定年後の再雇用者も少なくないという。

それぞれの工場による自主発信が始まっている

さまざまな洋服はもちろん、生活雑貨にまで使用されてきた播州織。その汎用性の高さは染色、織布、加工の技術力の賜物である。これまではメーカーからの注文を一括で受ける「産元」(産地の元請け商社)を中心に仕事が回っていた。

しかし90年代以降は、輸入製品の影響などで苦境に立たされている。そこでそれぞれの工場が自社発信でオリジナルブランドを立ち上げるなど、新しい動きがあることに注目したい。

「播州織は分業が特徴ではありますが、私たちも糸染めだけではなく、ブラウスやマスクなど自社企画の製品を〈TAS:TO(タスト)〉というブランド名で発売しています。これからはそれぞれ自分の守備範囲だけでなく、地域の産業を維持していくことが大切」と話すのは多可染工の橋本さん。

遠孫織布の遠藤さんも10年前から自社発信でオリジナルの生地を生み出している。

「昔とは時代が変わってきました。産元さんからの仕事を待っているだけではなく、自分の工場発信で企画したり、展示会に出展したりしています。まだこのやり方をしている工場は少ないですが、個々ががんばっていけば、結果的にこの産地が盛り上がると思う。最近は、小口ですが、直接の問い合わせが増えていてありがたいことです」

カラフルな遠孫織布の生地サンプル。

カラフルな遠孫織布の生地サンプル。

そして播州織工業協同組合は自社ブランド〈BOK〉でシャツなどを販売。工場の一角にはショップを設けている。

「実際にシャツなどをつくっています。加工の技術を伝える目的ですね。直接アパレルさんとのやり取りがしやすいということもあります。生き残るために、これからは工場も自分たちで発信していかないと。それが今の動きでもあります」と営業企画部の宇高辰弥さん。

〈BOK〉の加工シャツ。

〈BOK〉の加工シャツ。

それぞれの発信が未来の播州織の原動力になる

「この地域には播州織バカが多い(笑)。つまり、この仕事が好きで好きで、誇りを持っているということです」と話すのは〈北播磨地場産業開発機構〉理事長の齋藤太紀雄さん。

開発機構では地場産業ブランドとして「播州織」の認証制度を取り入れている。条件は、生地の50%以上が北播磨で染められていること、そして北播磨で織られて加工・検査されていること。開発機構は、この地域を見渡しながら播州織の振興に尽力している。

〈公益財団法人 北播磨地場産業開発機構〉理事長の齋藤太紀雄さん。

〈公益財団法人 北播磨地場産業開発機構〉理事長の齋藤太紀雄さん。

「今は、これまで培われた技術を使って、それぞれの工場が自分たちでなんとかしようと、いろんなものをつくってアパレルメーカーや消費者に直接、提案しているところです。それを我々は応援しています。まだ自ら発信している工場はそこまで多くはありませんが、これからはそうした動きがこの地場産業の原動力になっていけば、と考えています」

播州織がただの“守られる伝統工芸”になってしまう前に

播州織の先染めという特徴、そして高度な分業化によって北播磨地域内ですべて完結できるという強み。播州織は、これまで「産元」からのさまざまな仕事で技術が培われ、伝統が受け継がれてきた側面がある。しかし時代が変わり、不況や新型コロナウイルスの影響を受けている現在、従来のシステムにとらわれ過ぎて、産業自体が立ち行かなくなっては本末転倒。伝統を守るという以前の問題になってしまう。

染色、織布、加工、それぞれの工場が新しいブランドなどを自ら立ち上げる背景にはそのような現状がある。

「播州織がただの伝統工芸になってしまう前にどうにか盛り上げていかないと」とは多可染工の橋本さん。

未来を見据え、柔軟な発想で自分たちが今できることを最大限行いながら、まずは仕事を回して産業を守る。そのなかから生まれる現在形の技術や製品もまた、これからの時代の「播州織」なのではないか。伝統は時代に合わせて進化し受け継がれるもの。播州織は現在もまだまだ進化中。これからの播州織に注目だ。

〈北播磨地場産業開発機構〉が「Think LOCAL」を通じてやりたいこと

〈大丸・松坂屋〉の社会貢献「Think LOCAL」の一環として今回実施する「買って、食べて、参加して!キャンペーン」にて、支援先である公益財団法人〈北播磨地場産業開発機構〉はこのサポートをどう捉えているのだろう。

「コロナ禍において播州織全体の注文数が減少し、各工場も苦境に立たされております。そんな状況において、地元の産業を守る支援をしていただけることをありがたく感じております。支援金は、播州織のさらなる振興のために、大切に使用させていただきます。特に、今回取材していただいたような播州織の新しい取り組みなどの宣伝や広報に充てていきたいと思っています」

information

Think LOCAL 

Think LOCALとは日本の各地に店舗を構えている大丸・松坂屋が、それぞれの地域のまちや人々の課題をお客様と一緒に考え、応援していく社会貢献への取組みです。

2020年9月2日(水)〜9月29日(火)の期間中、特設サイトでは「買って、食べて、参加して!キャンペーン」を展開。全国各地の名産・名品を大丸松坂屋オンラインショッピングで(一部は店頭でも)販売します。また、9月16日(水)〜9月29日(火)は各地域の支援先をお客様ご自身で選んでチャリティできるコンテンツも用意。皆様からのご参加、お待ちしております。

特設サイトはこちら

https://dmcampaign.jp/thinklocal_cp/

information

公益財団法人 北播磨地場産業開発機構

住所:兵庫県西脇市西脇990 西脇経済センタービル内

TEL:0795-22-7676

Web:https://kitaharima-jibasan.org/

information

大丸神戸店

住所:兵庫県神戸市中央区明石町40

TEL:078-331-8121

Web:https://www.daimaru.co.jp/kobe/

writer profile

Yusuke Nakamura

中村悠介

なかむら・ゆうすけ●編集者。京都市在住。このところのルーティンはクラシックな銭湯巡り。サウナではなく銭湯派。https://happenings.cc/

photographer profile

Kaoru Kuwajima

桑島 薫

うどん県東端で映画と雑誌が世界のすべてだった青春時代を経て、単身渡米。サンフランシスコで写真を学ぶ。4年後、日本文化に魅せられ帰国。関西を拠点に食や伝統文化のプロジェクトに携わる。近年は「京焼今展」「Google日本の匠」等で撮影。写真を通じて生まれるご縁とミラクルが好物。http://kaorukuwajima.com/