(画像:『ほんものにっぽんにのへ』ウェブサイト内動画より)。

ウェブサイト『ほんものにっぽんにのへ』公開

岩手県二戸市が、南部美人や浄法寺漆など、土地の資源や気候を生かし、持続可能な産業を育むことで培われてきたテロワールの魅力を紹介するウェブサイト『ほんものにっぽんにのへ』を公開しました。

ウェブサイトでは、国産漆生産の70%を占める浄法寺の漆で器をつくる塗師・岩舘巧さんや、世界40か国・地域に輸出され、国内外のコンペティションでも数々の受賞歴がある南部美人の5代目蔵元・久慈浩介さんなど、二戸で生きる人々の魅力を伝える記事や動画が掲載されています。

南部美人の久慈浩介さん(画像:『ほんものにっぽんにのへ』ウェブサイト内動画より)。浄法寺漆と南部美人については、こちらの記事でも紹介しています。

南部美人の久慈浩介さん(画像:『ほんものにっぽんにのへ』ウェブサイト内動画より)。浄法寺漆と南部美人については、こちらの記事でも紹介しています。

その土地に適した、無理のない方法で育まれてきたからこそ価値があり、世界的にも誇れる素材となっている二戸のテロワール。首都圏の30代〜40代の知的好奇心の高い女性や、インバウンドの富裕層をターゲットとした観光プロジェクトですが、新型コロナウイルス感染症の拡大により、県外との行き来は困難に。

それでも二戸では、辛抱強く、力強く、ほんものの営みが続けられています。

7月に開催されたウェブサイトのお披露目会では、二戸のテロワールを育むつくり手が登壇し、これからの観光産業の展開を考える意見交換会が開催されました(左から浄法寺うるしび合同会社代表社員三角裕美さん、株式会社南部美人代表取締役社長久慈浩介さん、二戸市観光協会会長中田勇司さん、株式会社小松製菓執行役員青谷耕成さん、おぼない旅館若女将大建ももこさん、藤原淳二戸市長)。

7月に開催されたウェブサイトのお披露目会では、二戸のテロワールを育むつくり手が登壇し、これからの観光産業の展開を考える意見交換会が開催されました(左から浄法寺うるしび合同会社代表社員三角裕美さん、株式会社南部美人代表取締役社長久慈浩介さん、二戸市観光協会会長中田勇司さん、株式会社小松製菓執行役員青谷耕成さん、おぼない旅館若女将大建ももこさん、藤原淳二戸市長)。

「このコロナは絶対乗り越えられる」

そう話すのは国税庁が酒類製造免許の取得手続きなどを簡素化したことを受け、いち早く消毒用エタノールの代替品となる〈南部美人アルコール65/77〉を製造した南部美人の久慈浩介さん。「スペイン風邪やペストを乗り越えて、今この世界に私たちがいる。ここに生きながらえている人たちは、世界の疫病を克服してきた末裔です。だから絶対乗り越えられる」と熱く思いを語りました。

二戸の魅力をもう一度学び直す作業を始めたのは、開湯380年の金田一温泉郷にある〈おぼない旅館〉。

おぼない旅館の若女将大建ももこさん(画像:『ほんものにっぽんにのへ』ウェブサイト内動画より)。

〈おぼない旅館〉の若女将大建ももこさん(画像:『ほんものにっぽんにのへ』ウェブサイト内動画より)。

金田一温泉郷の従来の宿泊は、関東関西九州が主流。「日ごろ日帰り温泉を利用しているおじいちゃんおばあちゃんたちを守らなければならない」という思いから4月末からゴールデンウィークにかけて温泉郷全体で休業を決意します。(おぼない旅館はこちらの記事でも紹介しています)。

緑美しい金田一温泉郷の景色(画像:『ほんものにっぽんにのへ』ウェブサイト内動画より)。

緑美しい金田一温泉郷の景色(画像:『ほんものにっぽんにのへ』ウェブサイト内動画より)。

「ずっと営業していた明かりが消えて、源泉も天然資源なので一回止めて、温泉にお湯が入っていない状態を1か月過ごしたんです。真っ暗い金田一温泉郷のなかから外に出ないで、気持ちも落ち込んでいたときに、常連さんからぽつぽつメールが来るようになって」と教えてくれたのは、おぼない旅館の大建ももこさん。

メールに書かれていたのは、「もうちょっと頑張っててね」「待っててくださいね」という励ましの言葉。それもいろんな国の言葉で。

待ってくれている人のために

ももこさんはじめ、おぼない旅館では「そうだよね、待っててくれる人がこんなにいるんだから、この時間を無駄にする必要はない」と決心。「今できることは自分たちが今までやってきたことをもう1回見直して、自分たちの住んでいるまちの魅力が滞在時間数時間の間で完全に染み渡るくらいの大きい感動を生み出すこと」とスタッフで話し合い、夕食・朝食の内容を二戸でしか食べられないものに変更します。

二戸の三元豚佐助のバラ・カタロース・ロースを食べ比べできるしゃぶしゃぶや、二戸の熟レ鶏で出汁をとった郷土料理のひっつみ汁などが並ぶ夕食(一例)。テーブルの上にのるのは、魚も野菜もお酒もすべて二戸で育まれたものです。

二戸の三元豚佐助のバラ・カタロース・ロースを食べ比べできるしゃぶしゃぶや、二戸の熟レ鶏で出汁をとった郷土料理のひっつみ汁などが並ぶ夕食(一例)。テーブルの上にのるのは、魚も野菜もお酒もすべて二戸で育まれたものです。

食器もメインを陶器から約150年前につくられた浄法寺漆器に変更。器が変わると料理人の意識も変わり、「美しい漆器に何を盛り付けたらお客さまが喜ぶだろうか」という思いから、なかなか手に入らない食材や、旬の食材を活用したメニューが次々と生み出されました。

国産の漆があることは、二戸の強み。南部美人の久慈さんも「テロワールという言葉は世界で使われていますが、世界のテロワールの中で二戸でしかできないテロワールがあります。それは、器までふくむテロワールです。二戸には浄法寺の漆器があります。お酒を飲む器、料理を盛る器までテロワールとして考えることができる。それができるのは二戸だけです」と話します。

浄法寺での漆掻きの様子(画像:『ほんものにっぽんにのへ』ウェブサイト内動画より)。

浄法寺での漆掻きの様子(画像:『ほんものにっぽんにのへ』ウェブサイト内動画より)。

わずか3%の国産漆生産の70%を占めているのが、二戸市浄法寺地域です(画像:『ほんものにっぽんにのへ』ウェブサイト内動画より)。

わずか3%の国産漆生産の70%を占めているのが、二戸市浄法寺地域です(画像:『ほんものにっぽんにのへ』ウェブサイト内動画より)。

食材の育まれ方を学びに

さらにおぼない旅館では、休業中にスタッフで地元農家を訪問。「ゼロからおいしいものはこうしてできているところを勉強させてもらいました。それを知ってお客さまに食材の説明をするのと、知らなくておいしいですよというのでは、伝わり方はまったく違うと思うんです」

「それに、コロナの影響を受けて、私たち宿は休業すれば済むけれど、いつもいろんなものを育ててくれている農家さんは(作物の成長は止まらないので)ストップが効かない。農家さんに支えられて、みんなが一緒になって二戸のテロワールができているから、できるだけ会いに行くようにしていました」

おぼない旅館から徒歩圏内にあるブルーベリー農園。朝晩の寒暖差が激しく、ミネラル豊富な土壌の二戸は果物栽培に適した土地。甘いブルーベリーは、おぼない旅館でも朝食で提供されます。

おぼない旅館から徒歩圏内にあるブルーベリー農園。朝晩の寒暖差が激しく、ミネラル豊富な土壌の二戸は果物栽培に適した土地。甘いブルーベリーは、おぼない旅館でも朝食で提供されます。

営業を再開してからは、できるだけゆったり過ごしてもらえるよう、利用場所や時間に制限をかけるのではなく、館内の至る所に椅子を増やし、利用者同士の距離を自分たちで好きなように離してもらうことで密を避ける工夫もしています。

接客方法も変更。「これまでは『どこから来たんですか?』というスムーズな会話ができていたんですが、今はそういう会話はお客さんにとっては、“してほしくないこと”なのかもしれないと思うようになったので、なるべく話さなくてもいいように、こちらから伝えたいことをあらかじめ紙に書き留めるようにしています」とももこさん。

ももこさんが描いたおしながき。「料理の前でずっと話して説明するのも申し訳ないかなと思った」と、毎日その日のメニューを描いて、お客さんの手元に置くようにしています。

ももこさんが描いたおしながき。「料理の前でずっと話して説明するのも申し訳ないかなと思った」と、毎日その日のメニューを描いて、お客さんの手元に置くようにしています。

現実に向き合い、さらに二戸の魅力を深め、今最適な方法で伝えていく。「ほんもの」のつくり手によって、変わらずに二戸のテロワールが育まれていくことを予感させてくれます。

今は往来は叶いませんが、二戸のつくり手の言葉に耳を傾けていると、「ほんもの」とは何か、誰しものそばにあるはずの魅力を見つめ、学び直す大切さに気がつかせてくれます。

私たちが今できること……。ウェブサイト『ほんものにっぽんにのへ』を見ながら考えてみませんか?

information

ほんものにっぽんにのへ

Web:honmononinohe.jp

writer profile

Haruna Sato

佐藤春菜

さとう・はるな●北海道出身。国内外の旅行ガイドブックを編集する都内出版社での勤務を経て、2017年より夫の仕事で拠点を東北に移し、フリーランスに。編集・執筆・アテンドなどを行なう。暮らしを豊かにしてくれる、旅やものづくりについて勉強の日々です。