静岡市の魅力を3つのキーワードで紹介していくシリーズ。今回のキーワードは“ビル”。ビルの一部をリノベーションしたホテル、駅前の高層タワーに入る美術館、模型の情報発信地など、静岡市のビルを舞台にした取り組みをご紹介します。

まちなかのビルを活用した分散型ホテル〈ビル泊〉

いま各地で分散型ホテルが注目を集めている。分散型ホテルとは、地域に点在する空き物件を宿泊用の客室に転用し、それらが位置するエリア全体をひとつの宿として見立てる新しいスタイル。宿泊客がホテルの中を移動するようにエリア内を回遊することで、地域活性化も期待されている。

多くの場合、客室には古民家が活用されるが、ここ静岡市ではひと味違う。今年3月にオープンした〈ビル泊(ビルぱく)〉は、駅前の商店街に面した4棟のビルの一部を客室として再生。現在、7室が稼働している。

1フロアが〈ビル泊〉の3室になっている「YS BLDG.」。写真は、3名まで利用可能な202号室。

1フロアが〈ビル泊〉の3室になっている「YS BLDG.」。写真は、3名まで利用可能な202号室。

水回りも美しくリノベーション。洗面ボウルも2つ備えるなど、大勢で泊まってもストレスはない。

水回りも美しくリノベーション。洗面ボウルも2つ備えるなど、大勢で泊まってもストレスはない。

ビルの入口に設置されたロゴが目印。ありふれたビルのエントランスと客室のギャップに驚かされる。

ビルの入口に設置されたロゴが目印。ありふれたビルのエントランスと客室のギャップに驚かされる。

おそらくは日本で初めての試みとなる、ビルを活用した分散型ホテルの仕掛け人は、〈CSA不動産〉の社長・小島孝仁さん。

「市街地にあるビルの空き物件の活用は、どの地方都市にとっても深刻な問題。それを解消し、中長期的に人が訪れるまちにするためにはどうすればいいかと考えたとき、ビジネスホテルとは違う、滞在することが目的になるようなホテルをつくればいいと思ったんです」と言う。

小島孝仁さん(右)と、ビル泊の内装を手がけたデザイナーの李大英さん(左)。「部屋のどこにいても心地よく過ごせる、居場所をつくることを意識しました」と李さん。

小島孝仁さん(右)と、ビル泊の内装を手がけたデザイナーの李大英さん(左)。「部屋のどこにいても心地よく過ごせる、居場所をつくることを意識しました」と李さん。

静岡駅と地下道でつながるレセプションも、もちろんビル中に位置。ここから各室へは徒歩約2〜7分。

静岡駅と地下道でつながるレセプションも、もちろんビル中に位置。ここから各室へは徒歩約2〜7分。

全7室の客室は、55〜99平方メートルの広さがある贅沢なつくり。コンクリートの躯体を生かした内装で、敢えてビルの一室であることを前面に出している。ふと窓から下を見ると、商店街を行き交う人たち。「まちを感じながら、ビルに泊まる」という体験が、ここでの醍醐味だ。

屋上テラス付きの住居を改修した「MASATOYO BLDG.」301。むき出しの躯体がインダストリアルな雰囲気を醸しだす。

屋上テラス付きの住居を改修した「MASATOYO BLDG.」301。むき出しの躯体がインダストリアルな雰囲気を醸しだす。

小さなテラスに面した「COSMOS BLDG.」401のベッドルーム。リビングルームにはハンモックもある。

小さなテラスに面した「COSMOS BLDG.」401のベッドルーム。リビングルームにはハンモックもある。

静岡ならではの魅力を感じてもらうための工夫も欠かさない。客室には、同市を代表する模型メーカー、タミヤのパーツパネルを飾るほか、地元の布団職人・新貝晃一郎さんが手がけたオーダーメイドの座布団を用意。希望すれば、調味料まですべての食材を静岡産で揃えた豪華な朝食を味わうこともできる。

小島さんが気に入り、各室に設置したタミヤのパーツパネル。レセプションにはビル泊のオリジナルも。

小島さんが気に入り、各室に設置したタミヤのパーツパネル。レセプションにはビル泊のオリジナルも。

一部の客室に置かれた、遠州織物を使った座布団。角までしっかりと綿が入っており、座り心地も抜群だ。

一部の客室に置かれた、遠州織物を使った座布団。角までしっかりと綿が入っており、座り心地も抜群だ。

32種の小鉢がずらりと並ぶ朝食(5,000円)は、レセプション近くの店で提供。端正な重箱は地木工職人・戸田勝久さんが手がけた。(写真提供:ビル泊)

32種の小鉢がずらりと並ぶ朝食(5,500円・税込)は、レセプション近くの店で提供。端正な重箱は地木工職人・戸田勝久さんが手がけた。(写真提供:ビル泊)

information

ビル泊

住所:静岡市葵区紺屋町1-5 協友ビルB1(レセプション)

TEL:054‒292-6800

料金::1泊1名9,900円・税込〜(客室と人数により異なる)

Web:https://birupaku.jp/

駅徒歩3分のビル中にある〈静岡市美術館〉

ビル泊が点在する呉服町通りには、都市型美術館として知られる〈静岡市美術館〉もある。JR静岡駅北口に立つ地上25階建ての高層ビル、葵タワーの3階に位置し、駅から徒歩3分というロケーションのよさが魅力だ。

無料で入れるエントランスホール。左手奥がショップ&カフェ。(写真提供:静岡市美術館)

無料で入れるエントランスホール。左手奥がショップ&カフェ。(写真提供:静岡市美術館)

9月22日まで開催されている展覧会『ショパン―200年の肖像』の展示風景。(写真提供:静岡市美術館)

9月22日まで開催されている展覧会『ショパン―200年の肖像』の展示風景。(写真提供:静岡市美術館)

ここは収蔵品による常設展ではなく、特定のジャンルにとらわれない幅広い内容の企画展を開催するのがなによりの特徴。9月22日まで開催されている展覧会『ショパン―200年の肖像』では、日本初公開となるショパンの自筆譜や手紙を展示する。

エントランスホールを使った『Shizubi Project 3:わた死としてのキノコ』今村源(2013年)の展示風景。(写真提供:静岡市美術館)

エントランスホールを使った『Shizubi Project 3:わた死としてのキノコ』今村源(2013年)の展示風景。(写真提供:静岡市美術館)

同じく『Shizubi Project 5:抽象する場』福嶋敬恭(2015年)(写真提供:静岡市美術館)

同じく『Shizubi Project 5:抽象する場』福嶋敬恭(2015年)(写真提供:静岡市美術館)

ワークショップの一環として、未就学児を対象にした「しずびチビッこプログラム」も実施。(写真提供:静岡市美術館)

ワークショップの一環として、未就学児を対象にした「しずびチビッこプログラム」も実施。(写真提供:静岡市美術館)

また、無料で利用できるエントランスホールや多目的室、ワークショップ室といった「交流ゾーン」では、現代の多様な美術の姿を紹介する「Shizubi Project」や、展覧会に関連したオリジナルの創作プログラムを実施するワークショップ「しずびオープンアトリエ」などのイベントを実施。誰もが気軽に立ち寄れる“ちょっとおもしろい、まちの中の広場”として機能している。

開館10周年を記念して、静岡市初のクラフトビール醸造所〈AOI BREWING〉とコラボしたビールを9月中旬からミュージアムショップ&カフェで提供する。(写真提供:静岡市美術館)

開館10周年を記念して、静岡市初のクラフトビール醸造所〈AOI BREWING〉とコラボしたビールを9月中旬からミュージアムショップ&カフェで提供する。(写真提供:静岡市美術館)

information

静岡市美術館

住所:静岡市葵区紺屋町17-1 葵タワー3F

TEL:054-273-1515

開館時間:10:00〜19:00(展示室への最終入場は18:30)

休館日:月曜(祝日の場合は開館、翌日休館)

入館料:展覧会により異なる

Web:https://shizubi.jp/

〈静岡ホビースクエア〉で模型の魅力に触れる

プラモデルの出荷額が日本一、それもシェアの大半を占める静岡市が標榜するのは「模型の世界首都」。毎年5月に開催される模型玩具の新作見本市「静岡ホビーショー」には、国内外から7万人以上が訪れるという。

静岡市では、戦車、飛行機、自動車といったスケールモデルからキャラクターモデルまで、幅広い模型がつくられている。(写真提供:静岡ホビースクエア)

静岡市では、戦車、飛行機、自動車といったスケールモデルからキャラクターモデルまで、幅広い模型がつくられている。(写真提供:静岡ホビースクエア)

静岡の模型の歴史は、戦前の木製模型飛行機まで遡る。古くより木材加工が盛んだった同地には全国各地から優秀な職人が集まり、家具や建具、小物などをつくっていたが、戦後はそれらの技術を生かして、木製の模型や玩具を生産。1960年代になると、プラスチックを使ったプラモデルへと移行したという。

そんな静岡市におけるホビーの情報発信地として、2011年に完成したのが〈静岡ホビースクエア〉だ。

無料で入れる常設展示室では、各メーカーの最新模型や、静岡の伝統工芸品が見られる。(写真提供:静岡ホビースクエア)

無料で入れる常設展示室では、各メーカーの最新模型や、静岡の伝統工芸品が見られる。(写真提供:静岡ホビースクエア)

1998年に創業したミニチュアモデルメーカー〈エムエムピー〉が手がける〈EBBRO〉の模型。(写真提供:静岡ホビースクエア)

1998年に創業したミニチュアモデルメーカー〈エムエムピー〉が手がける〈EBBRO〉の模型。(写真提供:静岡ホビースクエア)

駅近のビルの1フロアにある同施設には、模型メーカー6社(青島文化教材社、タミヤ、ハセガワ、BANDAI SPIRITS、ウッディジョー、エムエムピー)の模型をブースごとに展示した常設展示室と、月替わりでさまざまな企画を開催するイベントコーナー、オフィシャルショップなどがあり、子どもから大人まで、飽きることなく楽しめる。

各メーカーの人気商品や新商品などが販売されるオフィシャルショップ。(写真提供:静岡ホビースクエア)

各メーカーの人気商品や新商品などが販売されるオフィシャルショップ。(写真提供:静岡ホビースクエア)

購入した模型を組み立てられる工作室。工具の貸し出しもある。奥に見えるのは、常設のミニ四駆サーキット。(写真提供:静岡ホビースクエア)

購入した模型を組み立てられる工作室。工具の貸し出しもある。奥に見えるのは、常設のミニ四駆サーキット。(写真提供:静岡ホビースクエア)

information

静岡ホビースクエア

住所:静岡市駿河区南町18-1 サウスポット静岡3F

TEL:054-289-3033

開館時間:11:00〜18:00(土・日曜・祝日10:00〜)

休館日:月曜(祝日の場合は開館、翌日休館)

観覧料:イベントにより異なる

Web:https://www.hobbysquare.jp/

食とアートが共存するまちづくり「OMACHI創造計画」

ビルという枠を飛び越えて、まち全体を盛り上げようという新たな試みもある。静岡駅から徒歩約15分。かつて映画館が軒を連ねる「シネマ通り」として賑わった七間町(しちけんちょう)、人宿町(ひとやどちょう)エリアで進められている「OMACHI創造計画」だ。

「おまち」とは静岡弁で、中心市街地のこと。老朽化したビルをリノベもしくは建て直すことで魅力的な店舗を誘致すると同時に、店も住人も新旧が融合し調和した新しいカタチの「おまち」づくりを目指している。

大正8年築の〈キネマ館〉の名前とデザインを踏襲し、新築された〈EZAKI SOZOSYA キネマ館〉。(写真提供:デザインオフィス創造舎)

大正8年築の〈キネマ館〉の名前とデザインを踏襲し、新築された〈EZAKI SOZOSYA キネマ館〉。(写真提供:デザインオフィス創造舎)

飲食店やショップに加え、2階には約80人を収容する劇場〈人宿町やどりぎ座〉が入る。(写真提供:デザインオフィス創造舎)

飲食店やショップに加え、2階には約80人を収容する劇場〈人宿町やどりぎ座〉が入る。(写真提供:デザインオフィス創造舎)

2017年から本格的に始動した、この計画を牽引するのは、〈デザインオフィス創造舎〉だ。翌18年4月にお目見えした〈SOZOSYA TERRACE〉と〈人宿町離宮〉を皮切りに、同年9月には、プロジェクトのランドマーク的存在である〈EZAKI SOZOSYA キネマ館〉などを次々とオープン。

七間町通り沿いにオープンした〈OMACHIビル〉。日本料理店やフライドポテト専門店など10店舗が入る。(写真提供:デザインオフィス創造舎)

七間町通り沿いにオープンした〈OMACHIビル〉。日本料理店やフライドポテト専門店など10店舗が入る。(写真提供:デザインオフィス創造舎)

富士山の壁画が印象的な〈SOZOSYA TERRACE〉は、飲食店ビルをリノベーションした。(写真提供:デザインオフィス創造舎)

富士山の壁画が印象的な〈SOZOSYA TERRACE〉は、飲食店ビルをリノベーションした。(写真提供:デザインオフィス創造舎)

今年4月に開業した〈OMACHIビル〉まで合わせると、これまで手がけたビルは20棟、誘致した店舗は50軒に上る。なかには、40年以上続いた純喫茶を引き継ぎ、2階と3階をドミトリーにした〈ヒトヤ堂〉など、ひと味変わった物件もある。

泊まれる純喫茶がコンセプトの〈ヒトヤ堂〉。美大出身の友人ふたりで立ち上げた。(写真提供:デザインオフィス創造舎)

泊まれる純喫茶がコンセプトの〈ヒトヤ堂〉。美大出身の友人ふたりで立ち上げた。(写真提供:デザインオフィス創造舎)

人情祭では、地元飲食店による販売ブースのほか、ステージショーなども行われた。(写真提供:デザインオフィス創造舎)

人情祭では、地元飲食店による販売ブースのほか、ステージショーなども行われた。(写真提供:デザインオフィス創造舎)

2018年10月には、開発の中心となる人情通りで、15年ぶりとなる「人情祭」も復活。「ビル」をキーワードに刻々と変化するまちの表情から、しばらく目が離せそうにない。

information

OMACHI創造計画

Web:http://sozosya.co.jp/omachi

information

静岡市観光・MICE推進課

TEL:054‒221‒1454 (受付時間8:30〜17:15 *土・日・祝日を除く)

「Go To しずおか商品券」で、お得な旅を!

静岡市では、市内に宿泊する静岡・山梨・長野・新潟県の皆さまを対象に、飲食店・土産物屋などで利用できる「Go Toしずおか商品券」を配布します。観光庁が実施する「Go Toトラベル キャンペーン」と併せて、この商品券を使用すれば、とてもお得に静岡市での旅行を楽しむことができます。配布方法など詳しくは「するが企画観光局」ホームページでご確認ください。

*掲載している店舗、施設の営業時間や営業形態は、状況により変更になる場合があります。*各店舗、施設では、営業時には消毒、マスクの着用などガイドラインにそった感染予防対策を行っています。

writer profile

Ai Sakamoto

坂本 愛

さかもと・あい●香川県高松市出身。フリーランスの編集&ライター。建築と食という両極端な2ジャンルが大好物。製麺所(いまは廃業)の孫として、子どもの頃から鍛えられたおかげで、うどんも打てます。

photographer profile

Norio Kidera

木寺紀雄

きでら・のりお●写真家。神奈川県横須賀市出身。役所勤務、スタジオマンを経て、ホンマタカシ氏に師事。2001年独立しフリーとなる。雑誌広告、CMなどで活動中。