「ビーチマネー」という活動で見直した、わが家の暮らし

伊豆下田で暮らすフォトグラファーの津留崎徹花さん。『Beach Money Guide』という冊子の撮影をきっかけに、海で拾い集めたビーチグラスを地域通貨として使える「ビーチマネー」の活動について知ることに。このビーチマネーによって、徹花さんが気づいたこととは。

短い夏休みは海へ。でもそこには……

例年だと夏休みのうちの半分は東京の実家に帰省するのですが、今年の夏は下田でのんびりと過ごしました。娘の夏休みが大幅に短縮されたことと、新型コロナウイルス感染を考えると今年は難しいと断念。「夏休みが短いなんてヤダヤダー!」と娘は何度も言っていました。

そりゃそうだよね、小学生にとって一番の楽しみと言っても過言ではない夏休みがあっという間に終わってしまうんだから。「本当にやだよね、寂しすぎるよね」と私も同調していたのですが、あんまり同調してばかりいると学校に行くのを嫌がるようになるのでは? と心配に。

中盤からは「学校ってほら、行けば楽しいじゃん!」と盛り上げ、始業式にはモチベーションを保ったまま登校できたので、ひとまずよかった。

下田の砂浜で遊ぶ我が娘

シュノーケリング中

地元でのんびり過ごした今年の夏、天気のいい日には海に行かないともったいないというくらい頻繁に海水浴に出かけました(夏休みが短いだけに)。娘の肌はすっかり小麦色(日焼け止め塗っても焼けるなぁ)。

海中を泳ぐカゴカキダイ

須崎恵比須島。海中にはこんなにたくさんの魚! 娘も夢中で魚を追いかけていました。

私たちの住む伊豆下田は、周辺にいくつも海水浴場がある観光地です。今年の夏、海水浴場を開設するかしないか、どの海水浴場も苦渋の決断を迫られました。結局、一部の海水浴場は駐車場や売店などの施設は閉鎖しましたが、過半数の海水浴場は開設。

そして、下田市は独自の取り組みとして「下田モデル」を打ち出し、観光客にも意識を持って下田を訪れてほしいと訴え、観光業に従事する地元民にも対策を呼びかけました。例年より客足は少なかったものの、海水浴場には色とりどりのテントがひしめいていました。

人でにぎわう白浜大浜海水浴場

白浜大浜海水浴場。

わが家がよく出かけるのは、自宅から自転車圏内にある外浦海岸と、車で10分ほどの恵比須島です。普段はとても美しい海なのですが、この時期になると残念なことに海水浴客の残していったゴミの山ができます。海岸に漂着してきたゴミとはまた明らかに違う、さっきまで使っていたであろうペットボトルや遊具などの山。

そのゴミの山を見て、娘が「なんでゴミ捨ててくの?」とシンプルに問うてきたのですが、私も夫も答えが見つからず悩んでしまいました。「なんでだろか?」

岩場で休憩中の子どもたち

小さなカニ

別の日にこんなこともありました。近所の外浦海岸で、波に揉まれながら遊んでいたときのこと。水面にキラッとひかる物が見えたので、あれ? と思ったら、なんとガラスの破片。それも結構な大きさでかなり鋭利に尖ったもの……。それが無邪気に遊んでいる娘のすぐそばに流れてきたのです。

本当に何事もなくてよかった……もう心臓がつかまれるような思いでした。

このガラスの破片、いったいなぜここに流れ着いたのだろうか。ひょっとしたら、どこかの海辺で誰かが捨てた飲み物の瓶?

下田の海の綺麗な水面

海をきれいにしたいという想いから始まったビーチマネー

ちょうどそんなことがあったときに、『Beach Money Guide』という冊子の撮影を依頼されました。ビーチマネーというのは海辺でビーチグラスを探し、それを加盟店に持っていくとサービスが受けられるという仕組みです。

ビーチグラスを手に取る

ビーチグラスというのはもともとは尖っていたガラスの破片が、海の中で長年揉まれて角が取れたもの。

海でビーチグラスを探すことによって自ずと海のゴミや汚染へ目が向き、海の美化への関心が高まるのではないか。そうしてひとりひとりが行動することによって世界中の海がきれいになっていく、そんな願いが込められています。

冊子『Beach Money Guide 2020』

『Beach Money Guide 2020』の表紙と裏表紙(裏表紙は娘にモデルをお願いして、私が撮影しました)。

飾られたビーチグラスアート

加盟店には、このビーチグラスアートと同じイラストが描かれたステッカーが貼ってあります。加盟店の方々は海を想い、善意でこの活動に協力しています。「お店の方に感謝の気持ちを込めて、ビーチマネーを使用してください」とのことです。この写真を撮影したのは下田市にある加盟店〈spice dog〉。店内で食事をされた方のみ、日替わりドリンクを1杯サービスしていただけます。

ビーチマネーの活動は今年で13年目を迎えます。この活動を運営しているのは、湘南から南伊豆に移住をされた堀直也さん。堀さんは〈エコサーファー〉という会社を立ち上げ、サーフィンやシュノーケリング、サバイバルキャンプなどのネイチャーガイドを行っています。

さらに、環境に配慮した洗濯用洗剤〈All Things in Nature〉の企画・運営にも関わっていて、現在はその洗剤の売り上げ金がビーチマネーの活動資金となっているのです。立ち上げ当初は堀さん個人の資金で運営していたそうで、苦労も多かったそう。

浜辺の堀さんご家族

堀さんご家族。エコサーファーについてはこちら。

そもそもビーチマネーの始まりは、この洗剤の製造を手がけている〈がんこ本舗〉の木村正宏さんからの発案でした。

茅ヶ崎の海の近くにある会社を訪れてくれた人たちに「自分たちはなかなか海に行くことができないから、僕らの代わりにビーチクリーンをしてくれないか。ついでにビーチグラスを拾ってきてくれたら、自分の店の商品を割引してあげるから」と木村さんが言ったのが発端で、このビーチマネーの活動は始まったのだそう。

ビーチマネーを紹介したブックレット

そうして、海のゴミ拾いのついでに拾ってきたビーチグラスによって、商品の割引が行われ、このアクションが世の中に広がれば海の美化につながるのではないかと、木村さんの横で堀さんは考えたのです(堀さんは当時、がんこ本舗の社員でした)。

〈All Things in Nature〉のボトル

〈All Things in Nature〉は、100%植物由来の成分で、リン、蛍光剤、防腐剤不使用。すすぎなしで使用できるので節水にもなるという、環境にも人にもやさしい洗濯洗剤です。

世界に広がるビーチマネー

2007年4月、まずは湘南エリアで独自の地域通貨としてビーチマネーが42店舗でスタートしました。その後、年々地域を拡大し、加盟店も徐々に増え、現在アメリカや台湾も含め180店舗のお店がこの活動に協力しています。

ビーチグラス

世界的にもビーチクリーンという文化が大きく育ってきている一方で、漂着するゴミも年々増え続けているという現実もあります。今後の活動について堀さんにうかがいました。

「最近ではペットボトルやビニールなどの海洋プラスチックが大きな社会問題となっています。海でゴミを拾うことだけでなく、普段の生活でひとりひとりが“自然への心配り”をすることが大切なんです。

例えば家の排水は川、海へとつながっています。油のついたお皿を新聞紙で拭き取って排水溝へ流さないようなひと工夫とか、いま使っている洗剤を見直してみることもそのひとつです。ひとりひとりが普段の生活でできることを心がける、それが海をキレイにすることにつながります」

娘がビーチグラスを手にする

ビーチグラスはそもそもまちや川や海に人間が捨てた瓶のかけら。「人間が捨てたものが自然の力であんなにもキレイなものに変わるのだからすごいですよね! けれど、いくらキレイと言ってもゴミはゴミ。ビーチグラスがなくなることが僕らのゴールです」と堀さん。

海洋プラスチックの多くは、実はまちなかで放棄されたゴミが川へ流れ、さらにその先の海へと流入したものだそうです。たとえば都会のまちなかでポイ捨てされたペットボトルや弁当のパックだって、その後海へ流れる可能性があるのです。

浜辺にたどり着いたプラスチックごみ

世界経済フォーラムによると、2050年にはプラスチック生産量はさらに約4倍となり、海洋プラスチックゴミの量が海にいる魚を上回るという予測を発表しています。

7月1日から全国の小売店でプラスチックレジ袋の有料化が義務づけられました。それによって海洋プラスチックゴミが圧倒的に減少するかというと、難しいのかもしれません。

けれど、レジ袋を通じて「こんな問題がいま世の中で起きているんだ」ということを大人はもちろんですが、一緒に買い物に行った子どもも初めて知るかもしれません。

ビーチグラスを拾うことがきっかけで、ゴミにも意識が向くはずです。そうしたら、下田の海にも都会のまちなかにもゴミを捨てる人が減るのでは?

わが家の暮らしももう一度見直してみよう、そんなことを感じた下田の夏でした。

下田の海

『Beach Money Guide』の最後に書かれている一文です。

一人の一歩ではなく、一億人の一歩。海がキレイになれば、ビーチマネーもキレイに無くなる。それがゴール!

浜辺を走る我が娘

水面から見上げた太陽

information

Beach Money Guide

Web:ビーチマネー公式サイト

Webショップ:All things in Nature|スローヴィレッジ

入手したい方は、ビーチマネーのHPに載っている加盟店へお問い合わせください。または、洗濯用洗剤〈All things in Nature〉を購入する際に「ビーチマネーガイドをください」と備考欄に記入すれば、送ってもらえます。

文 津留崎徹花

text & photograph

Tetsuka Tsurusaki

津留崎徹花

つるさき・てつか●フォトグラファー。東京生まれ。料理・人物写真を中心に活動。移住先を探した末、伊豆下田で家族3人で暮らし始める。自身のコロカルでの連載『美味しいアルバム』では執筆も担当。