アワビやサザエなどをとる潜り漁に密着

伊豆下田に移住したフォトグラファーの津留崎徹花さん。下田で暮らしていると、漁師さんにサザエやアワビをいただくこともあるそう。それらをどうやってとっているのか、漁師さんに頼んで、貝をとるための潜り漁に同行し、撮影させてもらうことに。初めて目にする光景に、徹花さんはとても感動したようです。

下田のおいしい貝類はどうやってとる?

下田で暮らすようになってから、以前はあまり意識していなかったことに気づくようになりました。

それは、農作物や魚介類などの食べ物が季節や天候ととても密接に関わっているということ。当たり前といえば当たり前なのですが、スーパーでなんでも手に入る便利な暮らしをしていると、ついその感覚を忘れがちです。

さつまいもを掘り起こす

下田で暮らし始めてから通うようになったのが農産物直売所。地元の農家さんが店に直接卸しているので旬の野菜しか並ばないうえに、天気が悪い日には入荷が減り品薄になります。

まちの魚屋さんでは時化(しけ・風雨のために海が荒れること)が続くとショーケースはすかすかになり、お刺身の盛り合わせをお願いしても「今日は魚がないからできない」と断られる。

食材の先をたどれば農家さんや漁師さんがいる、そんな当たり前のことに少しずつ気づかされています。

下田の海で獲れた地金目など

今日は海がおだやかだな? という日を狙って魚屋さんをのぞくと、とれたてピチピチな魚に出会えます(5月に撮影)。

たとえば下田の夏を代表するアワビやサザエ、とこぶしなどの貝類。私は幼少期の頃から夏になると下田に海水浴に来ていたのですが、そのときのメインイベントは貝類を食べることでした。祖母はアワビがとても好きで、うれしそうに頬張っていた姿が記憶に残っています。

けれど、この貝類がどうやってとられたものなのか知らずにいたのです。

サザエを七輪で焼く

いただいたサザエ、炭をおこして壺焼きに。

アワビの肝焼き

こちらも漁師さんにいただいたアワビを肝焼きに。日本酒といだたけばもう、たまらんです。

下田で暮らすようになってからは、なんと漁師さんにサザエやアワビをいただくこともあります。そしてこの夏、いままで見たことのなかった貝の潜り漁に同行させてもらったのです。

貝の潜り漁の様子

潜れない…けど、撮影したい!

地方によって漁の時期は異なるのですが、下田で貝の漁が盛んに行われるのは5月から9月初旬頃まで。その時期のうち数日間だけ漁が口開け(解禁)になります。口開けのタイミングは潮の満ち引きや天候、貝の生育具合によって各地区で判断されます。

私がよく撮影をさせてもらっている須崎地区の場合、漁の手法は3種類、時期によって分かれています。5月にまず岡磯(おかいそ)が口開けし、そのあと潜り漁が9月初旬まで、冬から春先まではつきん棒。

岡磯というのは水中眼鏡とウェイトの装着不可、つまり潜っちゃダメということ。箱メガネという道具を使って、潜らずに手が届く範囲だけで行う漁です。

岡磯漁に出ていた森英一さん

春先、岡磯漁に出ていた森英一さん。右手に箱メガネ、左手には大きなアワビ。

潜り漁は水中眼鏡とウェイトの装着がOKなので、海底の貝までとることができる、漁獲高が一番望める手法です。

つきん棒というのは竹竿の先にするどい銛(もり)をつけた道具を使い、船上から貝類や魚などを突いてとる方法。伊豆でもこの漁は珍しく、須崎地区でも行っているのは数隻程度だそう。

箱メガネで海底をのぞく漁師の飯田竜さん

箱メガネで海底をのぞきながら貝類や海藻、魚を突きます。写真は3月にわかめ漁を行っている漁師の飯田竜さん。

サザエは一年中漁が許可されているのですが、アワビに関しては産卵期となる10月から12月は禁漁と決められています(静岡県の条例)。そうした漁の手法や禁漁の期間などが決められているのは、海洋資源を持続させるためです。効率よい方法だけで一気にとってしまうことのないように。

収穫したサザエ

昨年は、ちょうど岡磯を行っている写真を撮影させてもらいました。白波が立つなか、勇しく挑む姿に感動し、限られたその日に立ち会えたことがすごくうれしかった。

岡磯に向かう

つきん棒で貝類をとる

獲った貝類を岩場にあげる

そして今年。友人の漁師さんが潜り漁をしている姿をSNSにアップしていました。潜り漁の様子を見たのはそれが初めてで、「こんな風に漁をしていたのか!?」と衝撃を受けたのです。

いままでも陸や船上では漁の写真を撮らせてもらっていたのですが、海中で撮影することは考えてもいませんでした。その写真を見て、「自分もこんな写真を撮影してみたい!」と熱い気持ちが湧き上がり、漁師さんに撮影させてもらえないかお願いしてみました。すると、「波が荒いからな〜、難しいんじゃない? 潜れないでしょ?」と。

アワビなどの貝類は水のきれいなところで生育するため、漁が行われるのはたいてい波の荒い場所なのだそう。正直潜れない……、けど撮影してみたい! ので、「邪魔にならないようにするので……」とお願いをしてみる。

漁師さんによると今年は例年に比べて波が穏やかだから、危険じゃない場所での漁ならと承諾してもらいました。そうして、潜り漁の口開けの日を迎えたのです。

森武一さんと英一さん

親子2代で漁を行っている森武一さん(右)と英一さん(左)。

潜ってみてわかる漁のハードさ

海中で貝を探す漁師

全身ウェットスーツで漁を行う

昨年購入した水中カメラと、撮影用に今年購入したウェットスーツに身を包み準備万端。先に漁を始めていた漁師さんを急いで追いかけ、まずは漁の一連の動作を眺めます。

その後、潜っていく漁師さんについて自分も潜ろうとするのだけれど、初心者すぎるゆえ思うように動けない……。ので、今回はほとんど海面からしか撮影できませんでした。

海中を縦横無尽に動き回る

獲った貝は網かごに

再び一直線に海底へめがけ潜る漁師

貝を探し中

息を静かに整えてから、一直線に海底めがけて潜っていく姿がまず美しい。いままで培ってきた経験から「あのあたりにアワビがいるだろう」という予測をたて、貝を探し当てます。

時には海底の大きな石をゴロンとひっくり返したり、危険を察して岩にへばりつくアワビを先の尖ったノミで剥がしたり。

真っ青な小魚

今回獲れた貝類

実際に素潜りしてみるとわかるのですが、水圧がかかった状態で息を長くとめ、さらにハードに体を動かすというのは並大抵のことではありません。

実際、漁師さんも水面でひと休みしながら「は〜疲れた、しんどい……」と漏らしていました。いままで漁をしてきて危険を感じたことは? と聞くと、「岩と岩のあいだに体がはさまって抜けなくなったことがあったかな〜」と……。怖すぎるじゃないですか……。

けれど、それも経験を積んでいれば冷静に危険を回避することができるらしく、ことなきを得たそうです。

さらに海中で漁を続行

腰に巻くおもり

アワビを手にする漁師

下田でとれるアワビは黒アワビ、メガイ、マダカと呼ばれる種類。一番おいいしい季節は夏だそうです。

初めて撮影させてもらった潜り漁。思うような写真が撮れない悔しさは残りましたが、とにかくいままで見たことのない光景にひたすら感動しました。「こんなふうにしてサザエやアワビをとってくれていたのか……」と。

「潜り漁を初めて見て、すごく感動したよ〜」と漁師さんにお礼を伝えると「僕も自分が漁してるとこ初めて見たよ」と、少しうれしそうな声色でした。

もっと潜れるようになって、いい写真をたくさん残したい。来年の夏が待ち遠しいです。

漁が終わり岸で漁師と談笑中

その場でウニを割る

赤ガジの身

撮影後に「これ食べてみ」といただいた赤ガジ(ウニ)が最高においしかった! 来年も食べたいなぁ。

文 津留崎徹花

text & photograph

Tetsuka Tsurusaki

津留崎徹花

つるさき・てつか●フォトグラファー。東京生まれ。料理・人物写真を中心に活動。移住先を探した末、伊豆下田で家族3人で暮らし始める。自身のコロカルでの連載『美味しいアルバム』では執筆も担当。