●東京下町でいただく今宵の酎ハイは…… 母と息子と常連が守り続ける、琥珀の味わい

酎ハイ街道。その名がつけられているのは、東武伊勢崎線鐘ヶ淵駅と京成線八広(やひろ)駅を結ぶ、鐘ヶ淵通りを中心に広がる一帯。結ぶといっても、鐘ヶ淵通りは鐘ヶ淵駅から八広駅まで歩いて15分ほど。広がるといっても、隅田川と荒川に囲まれた、タクシーを使うのも申し訳なく思うほどの距離。そこは、小さな家々が迷路のように誘う、地番だけでは探れない複雑な細い、細い路地。ともに各駅停車しか止まらない、だから残されたのか、とも感じる、昭和、下町という場所と時間。ライトアップされた東京スカイツリー、拡張され区画整理された道路や新しい建物はあっても東京になんとか残されたある種のノスタルジー。そこになぜか酎ハイの名店が揃い、酎ハイを愛する人々が集まってきます。

東京スカイツリー

今回から始まる酎ハイ街道の旅。その1軒目は〈亀屋〉。創業昭和7(1932)年。現在のご主人、小俣光司さんの父である2代目が、時代の先鞭となって亀屋の酎ハイを考案。

2007年に道路拡張などの再開発で現在の場所に移転し、外観内観からは昭和の面影はなくなりましたが、伝統の酎ハイは変わりません。いや、変わらないのではなく守り続けています。さあ、暖簾をくぐりましょう。

鐘ヶ淵通り沿い、八広駅からのほうがやや近いけれど、鐘ヶ淵駅との中間あたり。まさに酎ハイ街道の一丁目一番的な場所。場所は変わっても3代88年、守り続けた亀屋ののれんは今日もあたたかく客を迎えます。

鐘ヶ淵通り沿い、八広駅からのほうがやや近いけれど、鐘ヶ淵駅との中間あたり。まさに酎ハイ街道の一丁目一番的な場所。場所は変わっても3代88年、守り続けた亀屋ののれんは今日もあたたかく客を迎えます。

カウンターと小あがり。大衆酒場というよりきれいな小料理屋の感じもしますが、肩ひじ張らずリラックスできる雰囲気、そして地元の常連さんたちが亀屋と一緒につくり上げるやわらかい空気感もあります。

カウンターと小あがり。大衆酒場というよりきれいな小料理屋の感じもしますが、肩ひじ張らずリラックスできる雰囲気、そして地元の常連さんたちが亀屋と一緒につくり上げるやわらかい空気感もあります。

定番とホワイトボードに書かれた今日のおすすめ。つまみはだいたい400円〜500円とわかりやすい設定。計算というよりも単純な足し算で飲み代がわかるのも下町の酒場らしさ。

定番とホワイトボードに書かれた今日のおすすめ。つまみはだいたい400円〜500円とわかりやすい設定。計算というよりも単純な足し算で飲み代がわかるのも下町の酒場らしさ。

店内に入ってすぐ右手、カウンターの端は、酎ハイをつくる道具が置かれています。ここは3代目の母、女将の美代子さんの指定席にして、伝統の酎ハイが注がれる場所。聖地があけっぴろげに待っていてくれている、なんという贅沢。こうなればさっそく、酎ハイを注文しましょう。

冷えた強炭酸をシュワシュワっと注いでから、琥珀色の焼酎を注ぐ。氷なしでも心地よい喉越しと温度に。これも女将の変わらぬ技術。

冷えた強炭酸をシュワシュワっと注いでから、琥珀色の焼酎を注ぐ。氷なしでも心地よい喉越しと温度に。これも女将の変わらぬ技術。

亀屋のスタイルは「氷なし」。タンブラーの真ん中あたりに厚めに輪切りにしたレモンを入れ、そのレモンに当てるように、まずは炭酸を注ぎ込みます。炭酸は地元墨田区の業者の強炭酸。この炭酸の強弱も酎ハイの味わいに個性をもたらす大切な要素です。そして最後に注ぎ込まれる琥珀の液体。甲類焼酎とお店それぞれの個性あふれる「企業秘密」がミックスされた、この液体こそが、酎ハイの命。もちろんその中身は明かせないですよね?と恐る恐る3代目に尋ねると、ニッコリと柔和な笑顔で「秘密」を少しだけ話してくれました。

「毎晩、店を閉めた後に母が仕込んでいます。私もレシピは知っているんです。でも、隠し味がわからないんですよ」

レシピとして見せてくれたのは、25度の〈宝焼酎〉と、台東区で製造されている梅のエキス。これがなければ亀屋の酎ハイではないし、でも、これだけでも亀屋の酎ハイではない。

「実は……」と明かしてくれたもうひとつの裏話。商品開発のために、やっきになってそのアイデアを求めていた宝酒造の社員が足繁く通い、惚れ込んでいたのが〈亀屋〉の酎ハイ。その熱意に負け、ヒントを教えたのだとか。

やや濃いめの琥珀。梅系のエキスだけではきっとない……そんな「?」も酎ハイの楽しみ。

やや濃いめの琥珀。梅系のエキスだけではきっとない……そんな「?」も酎ハイの楽しみ。〈焼酎ハイボール〉(300円)。

物語にあふれる琥珀の「企業秘密」が、タンブラーにあふれんばかりに注がれます。この「なみなみ」は先代のこだわり。たっぷり飲んでほしいという思い。口元にもってくるのが大変、なんていう幸せな不満をいいながら、口元をタンブラーに寄せていきます。味わえばまったりと、でも心地よいさっぱり感。そして喉を通った瞬間に、小気味よく細やかな強炭酸のパンチ。氷がない分、シャープすぎず、焼酎と琥珀のやさしい味わいも堪能できます。

最初の1杯を楽しんで、そろそろおかわり視野という頃に、おつまみが登場。下町の大衆酒場よりも、下町のおうちに遊びに来たような飾らない家庭的な料理がしみじみと合います。

ホワイトボードから選んだ〈サラミ〉(400円)。キュウリとともにさっぱりとコク。わりあい早めに出るつまみが1杯目にうれしい。

ホワイトボードから選んだ〈サラミ〉(400円)。キュウリとともにさっぱりとコク。わりあい早めに出るつまみが1杯目にうれしい。

下町の生ものといえば〈マグロぬた〉(450円)やぶつ切り。ぬたの酸味と酎ハイが見事に手を取り合います。

下町の生ものといえば〈マグロぬた〉(450円)やぶつ切り。ぬたの酸味と酎ハイが見事に手を取り合います。

亀屋名物の代表格〈ハムエッグ〉(450円)はボリュームたっぷり。3、4人で酎ハイのお供にするのも楽しい。オムレツやにら卵など卵料理のバリエーションはいずれも人気。

亀屋名物の代表格〈ハムエッグ〉(450円)はボリュームたっぷり。3、4人で酎ハイのお供にするのも楽しい。オムレツやにら卵など卵料理のバリエーションはいずれも人気。

秋が深くなればうれしいのがあったかメニュー。〈すいとん〉(450円)は小腹にもうれしい一品。酎ハイの合間にも、〆にも。

秋が深くなればうれしいのがあったかメニュー。〈すいとん〉(450円)は小腹にもうれしい一品。酎ハイの合間にも、〆にも。

気がつけば2杯目。やさしい味わいながら氷がない分、風味は最後まで薄まらず、ここにきて、しっかり焼酎であることを思い出させてくれます。スッキリとまろやかと、次第に飲みごたえ。常連さんが笑いながら耳打ちしてくれたのは「飲めちゃうんだけど、まわっちゃうんだよ」

時代を生き続けてきたこの酎ハイを守る。でもお母さんはもう80歳。3代目が静かに語ってくれたのは、3代目がお店を継ごうと思ったきっかけ。

「私は家業を継がず、印刷会社の営業というサラリーマン生活をやっていました。10年ほど前に父が亡くなった後も、父がつくり、その後も母が守ってきたこの酎ハイが好きで、地元の方、そして遠方からもお客さんが来てくださる。でも、母が高齢で腰を悪くしてしまった。私もサラリーマン生活の節目だったこともあり、そしてなにより、この酎ハイを残さなければ。その思いでした」

酎ハイのサーブ、接客、料理。息の合ったコンビネーションはやはり母子ならでは。3、4年前に美代子さんが腰を悪くしたのをきっかけに継ぐことを決めた3代目ですが、女将の域には「まだまだです」と笑顔で頭を掻きます。

酎ハイのサーブ、接客、料理。息の合ったコンビネーションはやはり母子ならでは。3、4年前に美代子さんが腰を悪くしたのをきっかけに継ぐことを決めた3代目ですが、女将の域には「まだまだです」と笑顔で頭を掻きます。

最初はやれるのかと悩むことばかりの日々も、この酎ハイを求めてくる人々に支えられて続けられてきたと3代目は言います。小俣家のレガシーであり、私たちのエナジーでもある。酎ハイ街道の酎ハイには、たくさんの物語が溶け合っているようです。

では、次の物語を求めて酎ハイ街道へと、また迷い込みましょう。

●チューハイ街道の味と灯りと人情を、家でも味わう幸せ〈タカラ 「焼酎ハイボール」 ドライ〉

ガツンときて、ウマい! も実感。飲み応えも存分。それが下町スタイル。東京・下町生まれの元祖チューハイ(焼酎ハイボール)の味わいを追求。キレ味と爽快感、ガツンとくる喜びを強炭酸、甘味料ゼロのテイストで、うまみと飲みごたえは、宝ならではの焼酎と、7%という絶妙なアルコール度数で。下町の大衆酒場で愛されるスタイルだからいろいろな肴にぴったり。糖質ゼロ、プリン体ゼロもうれしい一缶です。

information

亀屋

住所:東京都墨田区東向島5-42-11

TEL:03-3612-9186

営業時間:19:00〜23:00

定休日:日曜

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Daiji Iwase

岩瀬大二

いわせ・だいじ●国内外1,000人以上のインタビューを通して行きついたのは、「すべての人生がロードムーヴィーでロックアルバム」。現在、「お酒の向こう側の物語」「酒のある場での心地よいドラマ作り」「世の中をプロレス視点でおもしろくすること」にさらに深く傾倒中。シャンパーニュ専門WEBマガジン『シュワリスタ・ラウンジ』編集長。シャンパーニュ騎士団認定オフィシエ。「アカデミー・デュ・ヴァン」講師。日本ワイン専門WEBマガジン『vinetree MAGAZINE』企画・執筆

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撮影:黒川ひろみ