きっかけは「キノマチ大会議」のトークセッション

急に思いたって、2017年につくった『山を買う』という小さな本の続編をつくることにした。実は最近、山を買いたいという全国の方から、小さな本についての問い合わせをいただくことが増えていて、刊行後に取材したことを盛り込んだ本をつくる必要性を感じていたからだ。

2017年に制作した24ページの冊子『山を買う』。岩見沢市になぜ山を買ったのか、経緯をまとめたイラストエッセイ。

2017年に制作した24ページの冊子『山を買う』。岩見沢市になぜ山を買ったのか、経緯をまとめたイラストエッセイ。

ただ、日々の仕事に追われていて、なかなか手を出せないでいたなかで、あるきっかけが訪れた。

〈竹中工務店〉〈Deep Japan Lab〉〈グリーンズ〉による3社共同プロジェクトとして2019年に始まった〈キノマチプロジェクト〉が行う「キノマチ大会議」というオンラインカンファレンスにゲストとして参加するお誘いがあったのだ。

この会議のテーマは「まちと森がいかしあう社会をつくる」こと。建築、まちづくり、林業、デザイン、メディアなどさまざまな分野の人が集まり、5日間にわたってトークセッションをするというイベントだった。

2020年10月5日〜10月9日まで行われたオンラインカンファレンス。都市の木造建築の未来について考えたり、新しい林業のあり方を考えたりと、さまざまなテーマでセッションを開催。

2020年10月5日〜10月9日まで行われたオンラインカンファレンス。都市の木造建築の未来について考えたり、新しい林業のあり方を考えたりと、さまざまなテーマでセッションを開催。

わたしが参加することになったのは、10月7日、3日目の「暮らしからはじめるキノマチ」というタイトルの回で、木のある暮らしを個人がいかに実践するのかを考えるというもの。

自分の家は自分でつくる、そんなDIYという理念を伝えようとする〈つみき設計施工社〉の河野直さん、食べものとお金とエネルギーをつくる〈いとしまシェアハウス〉の志田浩一さん&畠山千春さんご夫婦(コロカルの連載でもお馴染み!)とのセッションとなった。

事前情報によると全国から100名以上が参加するということで、普段、北海道の地元感たっぷりのイベントにお世話になっている身としては、かなり緊張感の高いものだった(しかも、オンラインは苦手)。山を買った話をしてほしいとのことだったけれど、うまく話せるか。

19時からのセッションだったのだが、朝からちょっとソワソワしていたので、いっそギリギリまで山のことしか考えないようにしたらどうだろうと思いたち、ほかの仕事をストップして、突然、『山を買う』の続編づくりを始めた。

以前の連載でも書いたことがあるが、わたしの本づくりは手書き。仕上がりサイズと同じコピー用紙に、ぶっつけ本番で文字を書いていくというスタイルだ。

コピー用紙に鉛筆で描き、これをスキャナでパソコンに取り込んで色つけをする。

コピー用紙に鉛筆で描き、これをスキャナでパソコンに取り込んで色つけをする。

今回、わたしが伝えたいと思ったことは

1 山はどこで買えるのか

2 買うときのポイント

3 整備をする必要があるか

4 みなさんにも山を買ってほしい理由

自分が2016年に山を買ったときは、まったくの手探りで買い方のポイントなどもわからなかったのだが、購入をきっかけにたくさんの山主さんや森林の専門家に話をうかがう機会に恵まれた。おかげで自分なりに「こうしたらいいんじゃないか」という考えが芽生えていたのだ。

HOMEって何だろう? DIYから考える

だいたい6割ができたところで〈キノマチ大会議〉がスタートした。まずはゲストとなった3組が、それぞれのプレゼンテーションを行うこととなった。

トップバッターは、千葉県市川市を拠点にする〈つみき設計施工社〉の河野直さん。「ともにつくる」を合言葉に、地域の人々と一緒に住宅や店舗を参加型のリノベーションでつくりあげており、市川市を中心に10年で400回のDIYワークショップを開いてきたという。

プレゼンテーションの資料より。つみき設計施工社のみなさん。一番右が河野さん。

プレゼンテーションの資料より。つみき設計施工社のみなさん。一番右が河野さん。

河野さんは、これまで各地で行ってきたワークショップの事例を紹介しつつ、ある疑問を参加者に投げかけた。コロナ禍となりSTAY HOMEという言葉をたびたび聞くようになったが、「では“HOME”とはいったい何か?」というものだった。

「ホームという言葉を調べていたら、めちゃくちゃいろんな言葉が出てきました。“我が家”“故郷”“心の拠り所”など、家という場所を表すだけじゃなくて、その場所を愛する人の存在があって初めてホームという概念があると思ったんですね。ならばSTAY HOMEって言葉は聞き飽きた感じがあったけれど、実は悪くないんじゃないか。心の拠り所にいられるいい時間だったと思いました」

住宅を家族でつくったり、お店を仲間とつくったり。みんなで一緒につくることができたら、楽しく豊かな時間を過ごせるに違いない。10年間この活動を続けてきて、河野さんは「ホームという概念をつくりたかったのかな」と思うようになったのだという。

プレゼンテーションの資料より。河野さんの自宅もDIYによってつくりあげた大切な拠り所。

プレゼンテーションの資料より。河野さんの自宅もDIYによってつくりあげた大切な拠り所。

これまで主に住まいのある市川市を中心に活動を続けてきたが、2年前には出身地である広島県三原市でワークショップが実現した。開催したのは鷺島。父と兄とで何百回も釣りに行ったことがあったという思い出の場所。

プレゼンテーションの資料より。「鷺島の食卓を創造する」というワークショップ。アジア10か国からやってきた学生と島の廃材だけで100名の食卓をつくり、島のお婆ちゃんたちには10種類のメニューをつくってもらい、100名でパーティーを行った。

プレゼンテーションの資料より。「鷺島の食卓を創造する」というワークショップ。アジア10か国からやってきた学生と島の廃材だけで100名の食卓をつくり、島のお婆ちゃんたちには10種類のメニューをつくってもらい、100名でパーティーを行った。

心から故郷と思う場所でものづくりをしたことで、もっと大切な場所になっていることに河野さんは気がついたという。さらには、海のそばの家を衝動買い。島のおじいちゃんから「この家買わん?」と言われて、河野さんは即決したそうだ。

「不思議なもので、買うっていう行為によって、さらにホームになったように感じました」

そしてプレゼンテーションの最後を河野さんはこう締め括った。

「人と森の間をつなぐのが家だとしたら、どこまでがホームなんだろう。どこまでをホームと思えることができるだろう。ホームは不思議な言葉で、人と人との間で言えば親友のようなもの。ほってはおけない場所。力になりたい場所だと思います」

里山とまちをつなぐ方法とは?

続いてプレゼンテーションをしたのは、福岡県糸島市の小さな集落で〈いとしまシェアハウス〉を営む志田浩一さんと畠山千春さん。畠山さんによると、横浜で東日本大震災を経験したことにより、自分の暮らしを自分でつくっていきたいという考えがわき、糸島に移住。食べもの、お金、エネルギーを自分たちでつくる取り組みを始めたそうだ。

プレゼンテーションの資料より。いとしまシェアハウスの住人たちと。

プレゼンテーションの資料より。いとしまシェアハウスの住人たちと。

プレゼンテーションでは、いとしまシェアハウスで行われている取り組みについて紹介するとともに、最近、強く感じていることについて参加者に訴えた。

「この里山の木々を守るために何をしていったらいいの?」

九州各地に甚大な被害をもたらした台風10号のように、避難をする頻度がここ数年、激増。気候変動の影響が、年々色濃くなっていくのを肌で感じているという。

さらに、近年、山が荒れていると感じることも増えた。狩猟をする人が少なくなったことで生態系に変化が起こり、柵を越えて猪が田畑に頻繁に入り、今年は大きな被害が出たという。

プレゼンテーションの資料より。柵をつけても、そこを破って猪が田んぼに入ってくる。

プレゼンテーションの資料より。柵をつけても、そこを破って猪が田んぼに入ってくる。

「強く思うのは、ぶっちゃけ自分たちだけじゃ追いつかない。山で起きていることとまちで起こっていることはつながっていると思います。分断されたコト・モノをつなぎ直したい」

ふたりはこれまで、狩猟を行ったり、棚田を引き継いだり、できる限りのことを行ってきたが、もっと仲間を増やす必要性を感じるのだという。観光ではなく、この地に通ってくれる人々、いわゆる関係人口を増やしたいと、棚田のオーナー制度を行ったり、コロナ禍にあっても自宅で糸島の営みを感じられる〈暮らしのDIYキット Be〉をつくったりと、多彩な取り組みを行っている。

こうした取り組みのなかで、「気にかける場所がひとつ増えたら」「楽しくおもしろく自分ごとととらえてもらえたら」とプレゼンテーションを締めくくった。

プレゼンテーションの資料より。〈暮らしのDIYキットBe〉では野草茶や納豆をつくるセットをネットで販売。

プレゼンテーションの資料より。〈暮らしのDIYキットBe〉では野草茶や納豆をつくるセットをネットで販売。

最後にわたしのプレゼンテーションとなり、2016年に岩見沢市に山を買った経緯について説明しつつ、みなさんにぜひ山を買ってほしいと呼びかけた。

自分が買った山についてはこの連載で何度も書いてきたが、年々、山の捉え方は変化している。買った当初は、山にゆくゆくはエコビレッジのようなものをつくりたいという野望を持っていたり、笹を刈って山野草が生える森をつくっていきたいと考えたりもしていたのだが、最近は「特に何もしないでいいのではないか?」という気持ちが高まっている。

何かに活用するのではなくて、山というものを所有することを通じて、これまでどこか遠い出来事であった環境破壊や、それによる気候変動が、いままさに自分の山でも起こっている問題として捉えられるようになった、その意識の変化が重要なのではないかと考えている。

そして最近「山を買うことは、地球の一部を預かること」なんじゃないかと思い始めていて、その気持ちを参加者のみなさんに最後に伝えた。

プレゼンテーションの資料より。紙芝居のようなスライドで、山を買った経緯を紹介。

プレゼンテーションの資料より。紙芝居のようなスライドで、山を買った経緯を紹介。

その後のトークセッションでは、さらに互いの考えを深めようとHOMEとは何かや、自然とのつながりを取り戻すための具体的な方法などについて語り合った。

自然との関係性をいかに取り戻せるか?

セッションを終えて、わたしは本当に勇気づけられた。それぞれアプローチの方法は違っても、参加者のみなさんに伝えたい核の部分が同じであったからだ。

河野さんは、「ともにつくる」という活動を通じて、HOMEという心の拠り所となる場所を獲得していくという話をし、志田さん・畠山さんは、里山とまちをつなぐためのさまざまな仕組みを生み出し、山を自分事として考える仲間を増やしたいという話をし、私も山を買ったことで、気候変動や環境破壊をリアルに考えられるようになったという話をした。

すべてが、つながりの薄くなってしまった自然との関係性をいかに取り戻せるかという、実体験に基づく提案だった。

このセッションの翌日、わたしは『山を買う』の続編の仕上げに取りかかった。山を買ってみて、いろいろなトラブルにも遭遇したが(土地から大量のゴミが見つかったりなど)、それでも買ってよかったということを、まとめに書いた。

そして、昨日のプレゼンテーションで河野さん、志田さん・畠山さんの熱いメッセージを心に握りしめて、わたしは最後をこんなふうに締めくくった。

「メリットデメリットとは別の次元で山を見てほしい。いま山主さんは高齢化しており、次の世代が山を引き継ぐ必要があると思う。海外の資本家が北海道の山々を購入しているというニュースを耳にするが、大規模な開発が行われる前に個人個人が少しずつ山を所有してはどうか。そして山と森の未来を自分事としてとらえられたら……。

皆さんも地球の一部を預かってみませんか?山を買って愛してみませんか?

そして山のこと地球のことをお互いに話しあえたらと思っています」

買った山にはカラマツ、ヤチダモ、ミズナラを植林した。(撮影:津留崎徹花)

買った山にはカラマツ、ヤチダモ、ミズナラを植林した。(撮影:津留崎徹花)

2日間でほぼ大枠は仕上がった。その後、印刷所に入稿するための準備で数日要したが、終わってみればあっという間の時間だった。短時間集中制作ではあったが、山を買って、山に興味を抱き、そこに関わる人たちの取材をする機会に恵まれた3年間を、この本に凝縮できたことがうれしかった。

さて、いよいよこの本の販売を始めることになる。Facebookだけの細々とした告知だが、この記事を読んでくれているみなさん、もしよろしければ実際に本を手にとってもらえたらと思っています。そして、山を買うということに、トライしてもらいたいと願っています!

『続・山を買う』500円 A6サイズ 28ページFacebook ミチクル編集工房にメッセージをいただけたら、本をお送りします。

『続・山を買う』500円(A6サイズ 28ページ)。Facebook ミチクル編集工房にメッセージをいただけたら、本をお送りします。

writer profile

Michiko Kurushima

來嶋路子

くるしま・みちこ●東京都出身。1994年に美術出版社で働き始め、2001年『みづゑ』の新装刊立ち上げに携わり、編集長となる。2008年『美術手帖』副編集長。2011年に暮らしの拠点を北海道に移す。以後、書籍の編集長として美術出版社に籍をおきつつ在宅勤務というかたちで仕事を続ける。2015年にフリーランスとなり、アートやデザインの本づくりを行う〈ミチクル編集工房〉をつくる。現在、東京と北海道を行き来しながら編集の仕事をしつつ、エコビレッジをつくるという目標に向かって奔走中。ときどき畑仕事も。http://michikuru.com/