かつての長屋のような暮らし

静岡県袋井市に、住宅メーカー〈BESS〉の「G-LOG」というモデルのログハウスが2軒並んでいる。それはまったくの偶然だという。G-LOGは三角屋根で、広いベランダ「NIDO(ニド)」が特徴的。1階にもウッドデッキがあり、外と内がゆるやかにつながっているような感覚で暮らすことができる。

道路に面した玄関側から脇を抜けて、庭側に回ってみると、茶畑が目の前に広がる庭があった。そして後ろを振り返ると、まるで双子のように同じ家がかわいく並んでいるのがわかった。

先に家を建てたのは萩田秀樹さん、美紀さん、瑚菜ちゃん、登羽くん一家。2019年8月に完成した。

茶畑が見えるNIDOからの眺望。

茶畑が見えるNIDOからの眺望。

「この土地にBESSのG-LOGを建てようと決めたときは、当然、となりは何も建っていない更地でしたので、どんな家が建つかわかりませんでした。妻とは、「BESSユーザーが来たらおもしろいね、なんて冗談は言っていたんですけどね」と言う萩田さん。

萩田秀樹さん、美紀さん、瑚菜ちゃん、登羽くんの4人家族。

萩田秀樹さん、美紀さん、瑚菜ちゃん、登羽くんの4人家族。

一方で、となりに家を建てたのは竹本忠弘さん、真奈美さん、灯里ちゃん一家。候補の土地を見て回るうちにこの場所を見つけて気に入った。そのときはまだ萩田邸は建っておらず、となりに自分が建てようと思っていた同じG-LOGが建つことを知ることになる。その情報はすぐにとなりの萩田さんに伝わり、浜松のLOGWAY(BESSの単独展示場)で初対面。即座に意気投合、交流が始まった。

竹本忠弘さん、真奈美さん、灯里ちゃん。

竹本忠弘さん、真奈美さん、灯里ちゃん。

「同じ土地で同じ家なんて、絶対に感覚が近い人が来るはずなので楽しみしかありませんでしたね」と笑う萩田さん。

竹本さんは建築中に何度も現場に足を運んでいるが、すでにとなりに住んでいた萩田さんは、頻繁に建築中の家の写真を竹本さんに送り、現状報告などをしていた。ときには現場監督からの報告よりも早いくらい。SNSを通じたやりとりや、竹本さんが見学に来た際に情報交換するなど、暮らす前から交流を深めていった。

こうして2020年3月に竹本邸も完成。かつてはひとつの建物を壁で仕切って複数の家族が生活する、長屋というスタイルがあった。あくまで個別でありながらも、ゆるいつながりを持つ暮らし方だ。この2家族はまったく同じ建物に住み、暮らし始めた時期も7か月しか変わらない。悩みやライフステージも近しいものがある。いろいろなものがつながりながら、不思議な「となり暮らし」のコミュニティが育まれていった。

同じG-LOGだが、竹本家(奥)は壁をオレンジにした。

同じG-LOGだが、竹本家(奥)は壁をオレンジにした。

SNSより前に、一番近い「おとなりさん」から倣う

期せずして新型コロナウイルス感染拡大のタイミングもあり、家で過ごす時間が増えたタイミング。しかしBESSユーザーの多くがそうであるように、両家族にとっても、家具などのDIYや庭作業など、家で過ごす時間はむしろウェルカムなのだ。

「家を建てたときの端材があるので、DIYせざるを得ない」と笑う竹本さん。「薪棚をつくったり、毎日のように家でDIYしていました。お互いがつくったものを見て、すごいなーって褒め合ったり」

萩田さんも「これまでDIYはほとんどやったことはありませんでしたが、ここに住んでからは、自分たちでつくれるものはつくるようになりました。圧倒的に家にいる時間が増えましたからね」と言う。

「僕も、家でやりたいことがたくさんあるので、早く帰宅するために、仕事もメリハリをつけるようになりましたよ」と竹本さんは仕事での変化もあったようだ。

BESSオーナーはSNSなどで、家でのDIYや暮らしぶりなどを発信し、仲間と交流している人が多い。SNSは時と場所を選ばず、スピーディにつながれることが大きな利点だが、それと同じことをおとなり同士で気軽にできるのは、原点回帰の生のコミュニケーションといえる。

三角屋根は内側から見てもかわいい。こちらは萩田家。

三角屋根は内側から見てもかわいい。こちらは萩田家。

バーベキューや焚き火を楽しむのは“柵のない庭”

感性も世代も近い2家族が並んでいると、遊びも共有するようになる。お互いの庭を行き来しながら、毎週末のように行っているのが、バーベキューや焚き火だ。

「大体言い出しっぺが先に自分の家で準備しているので、そっちの家が会場になりますね。あとは何かギアを買ったときに、それを使ってみたかったりするから」と萩田さん。

正直にいってどちらの家で開催しても変わらないのでは? と思わせるのは、お互いの庭の境界線に塀やフェンスの類いがまったくないからだ。一応、足下にブロックの仕切りだけ埋めて「あとで考えよう」と思っていたが、結局、柵は必要ないね、とつくらないことに。

この日はランチバーベキュー。大人はビールでカンパ〜イ。

この日はランチバーベキュー。大人はビールでカンパ〜イ。

日中のバーベキューは、もちろん子どもたちも参加する。萩田登羽くんと竹本灯里ちゃんは同い年の1歳。一番お姉さんは萩田瑚菜ちゃん(5歳)だ。

美紀さんが「灯里ちゃんが瑚菜のいい遊び相手になってくれます。瑚菜は保育園から帰ると“あーちゃんいた!”って手を振ったり」と言えば、真奈美さんは「うちはひとり目なので、子育ての相談ができて助かっています」と返す。社会問題になっている「孤育て」とは無縁の、ちょうどいい関係性が築かれているようだ。

灯里ちゃんと瑚菜ちゃんは実の姉妹のように仲良し。

灯里ちゃんと瑚菜ちゃんは実の姉妹のように仲良し。

「自分の子どもはもちろん、灯里ちゃんも小さい頃から見ているから、自分の娘のように成長が楽しみです」と萩田さんが言うように、これだけ密接だと、家族を超えて4人の大人で3人の子どもを育てているようにもみえる。

そして夜の部は、大人4人で開催される。

「子どもを寝かしつけて、だいたい夜9時くらいからですね」という竹本さん。そこからは焚き火の時間だ。お酒も飲みながら、G-LOGの三角屋根越しに見る星空は最高なのだとか。ときに日付をまたいでしまうこともある。

お互いの庭はほとんどつながっている。

お互いの庭はほとんどつながっている。

こうしたことは「日常」であり、特別に約束をしたり、気合いを入れて準備するようなことではない。

「ウッドデッキで洗濯物を干しているととなりにいたりして。連絡取り合うというよりはそこでね」と美紀さん。真奈美さんも「大体気配を感じるので」と笑う。

影響を与え合う両家族

同じ家に住み、お互いがお互いに影響を受けている。例えばインテリアは、竹本さんが先輩・萩田さんの家を見て参考にしている。逆に萩田さんが竹本さんから一番影響を受けているのが庭だという。

萩田家のキッチン。

萩田家のキッチン。

「最初は何も植えていなかったんですけど、竹本さんの庭の木を見て、うちもやりたいなと。自分たちで木を3本植えました。あと家庭菜園もあります。夏にはナスとキュウリがすごくたくさんできたので、竹本さんにおすそ分けできました。ほかにパプリカやオクラも育てています」

ちなみにご近所づき合いは、両家族だけで完結しない。周囲には畑をやっている人も多いので、できたものをあげたりもらったりすることも多い。

竹本さんは萩田さんだけに限らず、「近所の人たちと積極的に交流するようになった」ことが、この家に住み始めてからの大きな変化だという。ログハウスでの大らかな暮らしにはコミュニケーションスイッチが自然とオンになる不思議があるのかもしれない。

竹本さんの趣味である植物。

竹本さんの趣味である植物。

竹本さんの趣味は、多肉系の植物。2階のNIDOを「ジャングル」にすることが野望だという。買い集めたものもあるが、竹本さんは自分の手をかけ、種から育てる「実生」も行っている。

「実生から育てていく過程が楽しくて。予算も安く済みますしね。毎日見ていると、ちいさな葉っぱが出てきたりして、どんどん愛着が増します」

種から育てて発芽したかわいい塊根植物。

種から育てて発芽したかわいい塊根植物。

“双子のログハウス”には大きな違いがひとつある。竹本さんの家には薪ストーブが設置されていることだ。焚き火をしないときは、竹本さんが「薪ストーブの会」に招く。

「寝る前に、芯までポカポカするんですよね。お風呂に入ったような感じで。そのままおやすみって家に帰ってすぐに寝ます」と萩田さんが言うように、自分の家の布団に入るまで30秒もかからない。リビングから寝室に行くくらいの感覚である。

竹本家に設置されている薪ストーブ。

竹本家に設置されている薪ストーブ。

竹本家では当然、木を集めて薪を切る、いわゆる「薪活」が必要になってくる。萩田さんも、竹本さんと一緒に薪集めに参加したことがあるという。

「薪ストーブを持ってないのについていって、めちゃくちゃ疲れました。みんなこんな大変な思いをして薪集めしているんだなって。でも薪ストーブ、いいなあと」

どうやら萩田家に薪ストーブが導入される日も近そうだ。

「通常だと、焚き火も薪ストーブもおとなりさんに気を使ってやりにくいですよね。でもこの環境のおかげでそれが容易にできてしまうので、ほかのBESSオーナーよりも2倍は楽しんでいるのではないでしょうか」と胸を張る竹本さん。それに対して、「いや2倍以上、10倍は楽しんでいると思いますよ」と、萩田さんはもっと胸を張る。

全体的にすっきりとまとめている竹本家。

全体的にすっきりとまとめている竹本家。

この暮らしが始まって、まだ1年も経っていないとは思えないほど、お互い自然体で接している萩田一家と竹本一家。同じ家、同じ土地を選ぶほど価値観の近い2家族だからこその心地良さがあるのだろう。

「いろいろな人から“となりと同じ家なんて嫌じゃないの?”と今でも驚かれますが、何の問題もありません。自分たちが一番楽しんじゃっているので!」と笑う萩田さんのひと言に、この「現代版長屋暮らし」の本質が集約されているようだ。

information

BESS 

https://www.bess.jp/

writer profile

Tomohiro Okusa

大草朋宏

おおくさ・ともひろ●エディター/ライター。東京生まれ、千葉育ち。自転車ですぐ東京都内に入れる立地に育ったため、青春時代の千葉で培われたものといえば、落花生への愛情でもなく、パワーライスクルーからの影響でもなく、都内への強く激しいコンプレックスのみ。いまだにそれがすべての原動力。

photographer profile

Ryosuke Kikuchi

菊池良助

きくち・りょうすけ●栃木県出身。写真ひとつぼ展入選後、雑誌『STUDIO VOICE』編集部との縁で、INFASパブリケーションズ社内カメラマンを経てフリーランス。雑誌広告を中心に、ジャンル問わず広範囲で撮影中。鎌倉には20代極貧期に友人の家に転がり込んだのが始まり。フリーランス初期には都内に住んだものの鎌倉シックに陥って出戻り。都内との往来生活も通算10年目に。鎌倉の表現者のコレクティブ「全然禅」のメンバー。http://d.hatena.ne.jp/rufuto2007/