YONG architecture studio vol.3

横浜市の野毛山エリアにて、オフィスや住宅、アトリエなど複数の拠点をつくり活動する〈YONG architecture studio〉永田賢一郎さんの連載です。現在は長野県にも拠点を持ち、2地域で活動を展開しています。

今回は藤棚商店街で始まったシェアキッチンのプロジェクト〈藤棚デパートメント〉の後編。資金集めから工事、オープン後の変化についてお届けします。

実現の方法を考える

藤棚商店街で構想を始めたシェアキッチン計画ですが、果たしてどう実現していくか。最適な物件とやりたい計画はすでにありましたが、手元に活動資金が全然ありませんでした。そこでまずは「野毛山ミーティング」の資料や〈藤棚のアパートメント〉の活動など、新たに商店街でやりたいことを企画書にまとめ、銀行や信用金庫を回ることにしました。

藤棚商店街の中にある横浜信用金庫さん。

藤棚商店街の中にある横浜信用金庫さん。

まだ設計事務所として数年しか経っておらず、融資の実績もなかったので「借りるのは無理でしょう」との声もありましたが、まずは相談。すると、いくつか回るうちに商店街の中にある横浜信用金庫さんが「地域のためになるならぜひ」と快く相談にのってくださることになりました。

事業化することは、設計の幅を広げること

融資を受けるには具体的な事業計画が必要です。家賃の設定、月々の稼働時間、ランニングコスト、設計事務所の営業との両立など、自分が事業者になって初めて見えてきたことがたくさんありました。

特に感じたのは、設計と運営、事業計画を一緒に考えることで設計の幅を広げていける、ということでした。

内装設計をまとめ、見積もりを出して金額の調整をする。そのとき提案の一部が削られても、アイデアを温存しておき、その後の事業展開で再度取り込むことができます。

そこでまた工事が必要になった場合、その資金は日頃の運営で得た収入から捻出するので、使いやすい場所づくりができていれば収益が上がり、新たな工事に投資できる額も増えます。

模型で使い方を検証。

模型で使い方を検証。

どういう場所が使いやすいのか。どれくらいの席数だと居心地がよくなるのか。設計段階で検証したことが、運用されたときにリアクションとなって返ってきます。空間に対するフィードバックが常にあり、その都度使い方や仕様を検証しながらアップデートできる。

つまりは、設計者が事業をすることで、利用者さんすべてをクライアントとして設計し続けているとも言えます。

セレクト書店も参画

さて、信用金庫からの融資の話が無事に進み、設計の中身も固まってきました。2017年夏に計画を始め、融資の話がまとまってきたのは2月。この頃、前回も触れたシェアスタジオ〈旧劇場〉も契約終了の時期を迎えていました。

それぞれ次の場所を検討しているなかで、スタジオメンバーであるライターの斎藤真菜さんが藤棚での計画に興味を持ってくれました。自分の事務所と小さな本屋をこれから始めたいとのことで、計画に参加してくれることになりました。

旧劇場のメンバーの斎藤真菜さん。

旧劇場のメンバーの斎藤真菜さん。

シェアキッチンだけではなく、セレクト書店という新たなコンテンツが追加され、最終的には商店街側をホール空間、奥側にキッチンスペースと建築事務所という配置に。ホールには物販ショーケースや本棚と、商店街や地域の情報を掲示するスペースを設けることで、商店街の延長のような、誰でもふらっと立ち寄れる場所を目指しました。

いよいよ着工へ

計画が固まり、いよいよ工事開始です。

既存の床を剥がし土間まで床を剥がすことで、ホール部分の天井高をさらに高くします。

既存の床を剥がし土間まで床を剥がすことで、ホール部分の天井高をさらに高くします。

奥の半分は既存の床を残すことで、段差を生かします。

奥の半分は既存の床を残すことで、段差を生かします。

既存の床は15センチほどの高さでしたが、剥がして外の通りと高さを揃えることで、店内にいても商店街の延長のような場所になります。床の解体が終わったあとはキッチンカウンター、トイレの壁下地造作です。

壁が立ち上がってくるとだいぶ空間のイメージがしやすくなってきます。

壁が立ち上がってくるとだいぶ空間のイメージがしやすくなってきます。

奥のスペースは左半分がキッチンスペース、右半分が設計事務所スペースです。

奥のスペースは左半分がキッチンスペース、右半分が設計事務所スペースです。

奥は調理をしている人と設計をしている人が同時に視界に入ってくるようになっています。ここにつくる事務所は建築アトリエ的なものではなく、商店街の中にある、気軽に相談に行ける場所としての建築事務所でありたいと考えていました。

白いタイルと黒い塗装で対比的な空間を共存させます。

白いタイルと黒い塗装で対比的な空間を共存させます。

クラウドファウンディングへの挑戦

工事と同時に、クラウドファウンディングを立ち上げました。シェアキッチンの計画に込めた思いや工事の様子を広く拡散し、商店街の人だけでなく、多くの方にプロジェクトを知ってもらうためです。

クラウドファウンディングサービス「FAAVO」に登録。

クラウドファウンディングサービス「FAAVO」に登録。

活動をWeb上でこまめに発信していきます。

活動をWeb上でこまめに発信していきます。

「地域の担い手を増やす」というテーマでの情報発信。1か月半ほどの期間でしたが、商店街の方々や友人、家族、その他から「記事を見て応援したくなりました」という声があり、たくさんの方に支援をしていただきました。

オープン後には「FAAVOの記事を見て取材の問い合わせをしました」というご連絡もあり、やはり拡散力のある媒体でプロジェクトを発信することの重要性を感じました。

命名〈藤棚デパートメント〉

こうして、クラウドファウンディングと並走して工事も無事に終えることができ、そろそろ名前を決めなければいけません。いろいろと候補を出したなかで、本プロジェクトを始めるきっかけとなった藤棚のアパートメントとのつながりを持たせて〈藤棚デパートメント〉という名前になりました。

「デパートメント=百貨店」のように、地域のさまざまな活動がここに並び、紹介する場になることをイメージしています。「アパートメント」ともひと文字違いでつながりが連想がしやすいこともポイントです。

〈藤棚デパートメント〉のロゴ。FとDで舌の形になっている。

〈藤棚デパートメント〉のロゴ。FとDで舌の形になっている。

ロゴのデザインは、事務所のロゴなどでいつもお世話になっているデザイナーの〈hokkyok〉藤井北斗さん。藤棚デパートメントはキッチンが中心となる場所になるので、藤棚(Fujidana)とデパートメント(Department)の頭文字で舌の形になるロゴとのれんを作成してもらいました。

のれんの形、色のパターンを印刷した紙で検討。

のれんの形、色のパターンを印刷した紙で検討。

もともと藤棚のアパートメントは、オーナーの川口ひろ子さんの最初のアパートでもある〈ヨコハマアパートメント〉(ONdesign設計)の「〇〇アパートメント」という名前を引き継いでいる姉妹プロジェクトであり、今度の藤棚デパートメントは親戚のような立ち位置。

同じ地域でオーナー、運営者、設計者、住民が少しづつ重なりながら場所が増えていくことで、地域の関係性に厚みが増していきます。

藤棚デパートメント、ついに完成!

こうして2018年4月、ついに藤棚商店街に藤棚デパートメントが完成です! 黄色とグレーののれんが目立つ明るい空間となりました。室内には商店街のお祭りのときに出店した屋台と同じ形の本棚ワゴンを用いた、斎藤さんの書店も常設となりました。

黄色とグレーののれんが際立ちます。

黄色とグレーののれんが際立ちます。

室内には斎藤さんが運営するセレクト書店も。

室内には斎藤さんが運営するセレクト書店も。

本棚は可動式で軒先や商店街にも出店可能です。

本棚は可動式で軒先や商店街にも出店可能です。

クラウドファウンディングなどで情報発信していたこともあり、オープニングイベントには、支援してくださった方などたくさんの人が来てくださいました。商店街で行うシェアキッチンということもあり、商店街の活用促進にも役に立てることを期待してます。

クラウドファウンディングの支援者の皆さんありがとうございます。

クラウドファウンディングの支援者の皆さんありがとうございます。

地域の担い手を増やすシェアキッチンへ

オープン以降、さまざまな人たちが活動の場として藤棚デパートメントを使ってくれています。初めてカフェをやるという方から、昔カフェを営んでおり、週に1日だけやりたいという方、ワークショップの教室として利用したい方も。時間貸しのレンタルスペースとして利用料金を設定し、予約を受け付けています。

本格的な料理が日替わりで気軽に楽しめます。

本格的な料理が日替わりで気軽に楽しめます。

手話でコミュニケーションができるカフェも。

手話でコミュニケーションができるカフェも。

持続的な活動をしてほしいという思いから、月1日から利用可能にしており、最大で月に30組程度まで場所を利用することができます。商店街の空き店舗1軒に対して、それだけの数の人が関われたなら、かなりの人がこの地域に訪れることになります。

金継ぎの教室は人気プログラムです。

金継ぎの教室は人気プログラムです。

ライブ演奏なども。

ライブ演奏なども。

地元の小学校や商店街のお店との共同企画や、新たにできたコーヒー屋さんに淹れ方の指導をしてもらうなど、商店街ならではの活動も生まれました。

地元の小学校の課外授業として模擬店でも使ってもらいました。

地元の小学校の課外授業として模擬店でも使ってもらいました。

商店街にできたコーヒー専門店〈405 COFFEE ROASTERS〉さんにコーヒーの淹れ方を教わる。

商店街にできたコーヒー専門店〈405 COFFEE ROASTERS〉さんにコーヒーの淹れ方を教わる。

藤棚デパートメントオリジナルコーヒーも。

藤棚デパートメントオリジナルコーヒーも。

書店の斎藤さんによる映画上映会や、古本市、クリスマスマーケットといったデパートメントの自主企画や商店街との連携企画なども行うことで、利用者さん同士の交流や、地元の方々の接点づくりにも活用されています。

斎藤さん企画の映画上映会では、映像作家さんを呼んでのトークショーも。

斎藤さん企画の映画上映会では、映像作家さんを呼んでのトークショーも。

レコードマーケットでは地元のお店や若い人たちが多く参加した。

レコードマーケットでは地元のお店や若い人たちが多く参加した。

クリスマスマーケットでは普段ワークショップなどで利用してくださる方々が出店。

クリスマスマーケットでは普段ワークショップなどで利用してくださる方々が出店。

高齢化、商店街の利用者の減少などが心配された商店街でしたが、リサーチを通じて幅広い層の方々が地域に暮らしていて、多くの人が商店街との接点を欲していることがわかりました。

クラウドファンディングで掲げた「地域の担い手を増やす」というテーマのように、地域の中から次の担い手を掘り起こすための場所として今後も使われていくことを期待しています。

まちづくりや、商店街に関する講座では商店街理事の方々も参加。

まちづくりや、商店街に関する講座では商店街理事の方々も参加。

藤棚デパートメント利用者の声。

藤棚デパートメント利用者の声。

さて、次回は藤棚デパートメントから5分ほどの場所にある元倉庫をシェアアトリエに改装した、〈野毛山kiez〉の事例をご紹介したいと思います。ぜひお楽しみに!

information

藤棚デパートメント

住所:神奈川県横浜市西区中央2-13-2

Web:藤棚デパートメント

writer profile

Kenichiro Nagata

永田賢一郎

ながた・けんいちろう●YONG architecture studio主宰。1983年東京出身。横浜国立大学大学院/建築都市スクールY-GSA修了。2013年より設計ユニットIVolli architectureとして活動の後、2018年より永田賢一郎|YONG architecture studioとして活動を開始。2014年よりシェアスタジオ〈旧劇場〉や設計事務所兼シェアキッチンの〈藤棚デパートメント〉、〈野毛山Kiez〉など自身の活動の場を地域拠点化していく活動をライフワークとして展開。藤棚一番街理事。2020年より長野県北佐久郡立科町地域おこし協力隊兼任、横浜と長野の2拠点での活動を始める。https://www.yong.jp/