撮影:阿野太一

“アートファーマー”が活躍する新しいかたちの美術館

いま世界の美術館では、文化遺産を収集・保存・展示するだけでなく、対話のための空間が求められています。そんな世界の変化にいち早く応える美術館が、青森県八戸市に誕生しました。

「種を蒔き、人を育み、100年後の八戸を創造する美術館 出会いと学びのアートファーム」をテーマとし、2021年11月3日にリニューアルオープンした〈八戸市美術館〉。「もの」としての美術品展示を中心とした従来の美術館とは異なり、アートを介した人の活動に焦点を当て、「もの」や「こと」を生み出す新しいかたちの美術館です。

前身である旧八戸市美術館は1986年から約30年間活動し、元税務署を改修した建物の老朽化や展示・収蔵機能の不足から、2016年に新美術館建設推進室が設置されました。

八戸市では、すでに2011年から活動している〈八戸ポータルミュージアム はっち〉や〈南郷アートプロジェクト〉など「アートのまちづくり」が進められてきました。

そのような流れのなか、同館建設アドバイザー兼運営検討委員会委員を務めた建築家・佐藤慎也さんが、新しい八戸市美術館の館長に就任。多様な人々が活動し、新たな文化を創造する美術館として、八戸市全体の活性化にもつながる第一歩を踏み出しました。

11月2日に開催された内覧会。手前が佐藤慎也館長。その隣が、開館記念『ギフト、ギフト、』のディレクター、吉川由美さん。

11月2日に開催された内覧会。手前が佐藤慎也館長。その隣が、開館記念『ギフト、ギフト、』のディレクター、吉川由美さん。

美術館では、江戸末期〜明治の絵師・橋本雪蕉、現代美術家・豊島弘尚などの八戸ゆかりの作品を中心に、棟方志功、舟越保武といった著名作家の作品など、約3000点のコレクションを収蔵しています。

全面建て替えとなった建築は、西澤徹夫建築事務所・タカバンスタジオ設計共同体が手がけました。

八戸の文化資源を糧として拾い上げ、調査研究することで実らせ、新しく価値づけすることで育て、そして誰でもアクセスできるかたちに収穫=展示・収蔵する。市民や美術館スタッフ、アーティストが互いに学び合うために、大きく2種類の空間がつくられました。

そのひとつは、同館を象徴する「ジャイアントルーム」。エントランスに入ってすぐに3層吹き抜けの巨大空間が広がり、進行中のプロジェクトのプロセスなどが見られます。9メートルのカーテンによる間仕切りや家具で自在に空間をつくることもでき、複数のグループが話し合ったり、イベントを行ったりと、同時多発的にさまざまな活動を行えます。

面積約834平方メートル、天井高約17メートルの「ジャイアントルーム」。床にレールがあり、用途に応じて自由に区切って使える。(撮影:阿野太一)

面積約834平方メートル、天井高約17メートルの「ジャイアントルーム」。床にレールがあり、用途に応じて自由に区切って使える。(撮影:阿野太一)

もうひとつは、展示や制作などの機能を備えた「個室群」。展覧会を行う「ホワイトキューブ」、コレクションを展示する「コレクションラボ」、映像展示に適した「ブラックキューブ」、パフォーミングアーツや展示、講演を行う「スタジオ」などが、ジャイアントルームに面しています。これらの部屋を自由に組み合わせて使うこともできます。

また、アーティストとの制作活動に取り組むなど、美術館活動に主体的に関わる人を「アートファーマー」と呼び、美術館とともに企画をつくり、地域の新しい価値観を生み出す市民や団体、教育機関、企業などを「共創パートナー」と呼びます。美術館広場からも、ガラス越しに活動の様子が眺められます。

八戸三社大祭と現代アーティストが出会った。開館記念『ギフト、ギフト、』

開館記念展は、八戸ポータルミュージアム はっちでも文化事業のディレクションを担当したアートプロデューサーの吉川由美さんをディレクターに迎え、八戸が誇る「八戸三社大祭」を出発点として企画。

〈KOSUGE1-16〉、大澤未来さんら9組のアーティストの作品と、共創パートナー〈八戸クリニック街かどミュージアム〉の浮世絵コレクションからなる展覧会に、向井山朋子さんによるパフォーマンスプロジェクトを加えて構成されました。

例えば、八戸では、お年寄りから子どもまでが山車づくりに参加することで、世代を超えて祭りにまつわる技術や精神が受け継がれています。こうした地域の豊かさを「アート」に重ね合わせ、過去から未来へ、人から人へと巡る「贈与」=ギフトと捉えて展覧会タイトルがつけられました。『ギフト、ギフト、』の「、」には、続いていく=「循環」の意味が込められています。

展覧会は、八戸市在住の切り絵作家、大西幹夫さんが八戸三社大祭300年の歴史を描いた『八戸三社大祭絵巻』の切り絵とアニメーション映像で始まります。

続いて、写真家の浅田政志さんが祭りを支える人々「マツトモ(祭りの友だち)」を撮影した写真群からは、八戸三社大祭の熱気が伝わってきます。

大西幹夫『八戸三社大祭絵巻』

大西幹夫『八戸三社大祭絵巻』展示風景。

浅田政志さんは新作写真14点と市民から集めた三社大祭のスナップを展示。

浅田政志さんは新作写真14点と市民から集めた三社大祭のスナップを展示。

陶芸家の桝本佳子さんは、山車からイメージを膨らませた五重塔やイカなどをモチーフとした陶器を展示。

田附勝さんは、八戸発祥のデコトラ(電飾で飾ったトラック)を撮影した写真とアンドンを展示。なお11月23日には田附さんによるトークがあり、デコトラが外庭に集合する予定です。

桝本佳子さんによる、海の鳥をモチーフとした半磁のインスタレーション『Blue Birds / Blue Ceramics』。

桝本佳子さんによる、海の鳥をモチーフとした半磁のインスタレーション『Blue Birds / Blue Ceramics』。

田附勝さんが撮影したデコトラ写真の展示風景。

田附勝さんが撮影したデコトラ写真の展示風景。

江頭誠さんは、三社大祭に使われた山車彫刻を、市民から譲り受けた柄毛布でつくった花で彩り、新たな命を吹き込みました。

また、美術館を建築した西澤徹夫さん、浅子佳英さん、森純平さんがリサーチし制作した『八戸文化資源相関図』では、建築模型やパネルの間に、八戸市美術館の所蔵作品7点が組み込まれています。

江頭誠『おやすみのあと』展示風景

江頭誠『おやすみのあと』展示風景。

西澤徹夫、浅子佳英、森純平『八戸文化資源相関図』展示風景

西澤徹夫、浅子佳英、森純平『八戸文化資源相関図』展示風景。

また、田村友一郎さんは、ジャイアントルームの一角に、閉店した地方デパートの古びた天井や床をイメージした空間を制作。その空間内で、デパートの空きスペースの映像とギフト包装の手つきを撮影した映像とを上映しています。暗闇のデパートを探検する映像は、人工的な空間が野生化していくようなウェットな質感があり、八戸だけではない問題として目を引きます。

オンライン画面を表現した壁に上映。田村友一郎『予期せぬギフト』

オンライン画面を表現した壁に上映。田村友一郎『予期せぬギフト』

今後はアートファーマーの活動も始まり、変化し続けるアクティブな美術館になりそうです。

また、青森県の5つのミュージアム(弘前れんが倉庫美術館、青森公立大学国際芸術センター青森、青森県立美術館、十和田市現代美術館、八戸市美術館)が連携して国内外に発信するプロジェクト「AOMORI GOKAN」もゆるやかにスタートしています。

いずれも建築が特徴的なミュージアム。これを機に、青森のアートを訪ねる旅に出てみてはいかがでしょうか?

information

八戸市美術館

住所:青森県八戸市大字番町10-4

TEL:0178-45-8338

開館時間:10:00〜19:00

休館日:火曜(祝日の場合はその翌日)、年末年始

八戸市美術館開館記念『ギフト、ギフト、』

会期:2021年11月3日(水)〜2022年2月20日(日)

Web:八戸市美術館

writer profile

Yuri Shirasaka

白坂由里

しらさか・ゆり●神奈川県生まれ、小学生時代は札幌で育ち、自然のなかで遊びながら、ラジオで音楽をエアチェックしたり、学級新聞を自主的に発行したり、自由な土地柄の影響を受ける。映画館でのバイト経験などから、アート作品体験後の観客の変化に関心がある。現在は千葉県のヤンキー漫画で知られるまちに住む。『WEEKLYぴあ』を経て、97年からアートを中心にライターとして活動。