田んぼの引っ越しで、あらたな地域との関わりが始まる

下田移住の翌年から、田んぼを借りて米づくりをしてきた津留崎家。今年から、新しい田んぼに引っ越したそうです。その理由はなんだったのでしょうか?いくつかの田んぼを見たことで、地域ごとの違いも知ることになったようです。今年の秋には、新しい田んぼでお米が実ります。

田んぼを変えたいかも……。その理由は?

この連載でも何度もお伝えしているように、わが家は下田市に移住してきた翌年、2018年から縁がつながって、市内の大賀茂地区にて田んぼを借りました。

大賀茂地区で借りていた田んぼ

この田んぼで、友人たちの手を借りながら、手植え、手刈り、天日干し、無農薬で米づくりをしてきたのです。そういうと、ものすごくこだわっているように感じるかもしれませんが、どうせ自分たちの食べる米をつくるのであれば、「できることは自分たちの手で。農薬は高いしよくわからないので使わない」そんなスタンスで米づくりを始めました。

田植えの様子

2年目の米づくりの様子。自分たちで自分たちの食べる米をつくりたい! と始めた米づくりのおかげで、とても良い家族の時間を持つことができました。

念願の米づくりを始めるキッカケをつくってくれた米農家の南伊豆米店も近くの田んぼで米をつくってるし、ほかにもいろいろと教えてくれる人たちや機械を貸してくれる人たちがまわりにいる。という恵まれた環境の田んぼだったのですが、ひとつ問題がありました。

自宅からもいくつかの勤め先から少し遠いのです。(下田に移住してきてからいくつもの仕事をしています。詳しくはこちら)はじめは、「移住してすぐに田んぼを借りられるなんて恵まれている!」そんな思いでいたので、遠さも苦にはならなかったのですが、米づくりの段取りもつかめてきて、それなりに仕事やらほかにやりたいことも増えてきた昨年から、田んぼが段々と遠くに感じるようになってきました。

ちょっと水の具合を見るのに、ガソリンを使ってわざわざ行かなければいけない。ガソリン価格の高騰といった費用面を考えても、環境のことを考えてもとても無駄が多い。そんな気がしてきたのです。そこで、「アクセスのいい田んぼを探そうか」と漠然と考えるようになりました。

となると、家の近くか職場の近くか……。とはいっても、下田はどこにでも田んぼがあるという訳ではなく、自宅周辺には田んぼはありません。そうすると、平日午前中に通う〈高橋養蜂〉がある稲梓(いなずさ)地域がいい気がしてきました。稲梓ならば田んぼは多くあります。担い手のいない田んぼ、耕作放棄された田んぼもありそうです。そのあたりで探すかな、となったのが昨年の秋、稲刈りを終えた頃でした。

天日干し中の田んぼ

昨年秋、天日干し中の田んぼ。

結果、そんな話を聞きつけた稲梓に暮らす友人が、「しばらく使われてなかったウチの裏の田んぼ、去年やるっていう人がいて田起こしして水入れまでやったけど、結局、できなくなっちゃったから空いてるよ。そこまでやってあるから耕作放棄地で始めるより楽だろうし、広さもちょうどいいんじゃない?」と。おおお! それは気になる。ということで、とりあえず見に行くと、これまでの海辺近くの平野という風情の大賀茂とはかなり違う、山あいの「里山風情」漂う田んぼでした。

稲梓地区の田んぼ

紹介してもらった田んぼ。稲梓は、海のイメージが強い下田市の最も内陸側のエリアで、山に囲まれています。

自分では変えようのない「田んぼに入る水」について

話を少し戻します。移住して間もなく、この大賀茂の田んぼを借りるときに驚いたことがありました。田んぼに流れる水の話です。先にも書きましたが、自分たちで米づくりをするのであれば無農薬で、と考えていたのですが、田んぼに流れる水に関してはあまり意識がいっていませんでした。それで、借りることになった大賀茂の田んぼに流れる水路についてあらためて調べると、上流に別荘地や住宅があり、その排水が流れ込んでいるということがわかったのです。

都市部であれば住宅の排水は、下水処理場で処理されますが、地方の多くは下水が未整備でそれぞれの家や施設にある浄化槽で汚水を処理し水路や川に流します。新規に設置される浄化槽は家庭の全ての排水をつないでいますが、古いつくりの家の場合は、トイレの排水のみ浄化槽につなぎ、キッチンや風呂、洗濯は未処理のまま流すのです。(下水未設備地域で浄化槽を新設する場合には、すべての排水を浄化槽につなげなければいけないことになっています)

下水道整備状況図(汚水)

下田市上下水道課資料より。

え? 家庭の排水が田んぼに?? しかも未処理の排水も?? そんなことを知って少なからず驚き、正直に言うと少なからずの抵抗感を抱いてしまいました。でも、聞いたり調べたりすると、このように田んぼに排水が流れこむことは「普通のこと」であるとも知ったのです。

これまで食べてきた米だってそうした田んぼで育てられた米だったわけで、そこに驚いたのは自分が世間知らずなだけだったのかもしれません。さらには、自分の田んぼがたとえ無農薬だろうとも、上流の田んぼで農薬を使えば少なからずその農薬は入り込んでしまう。そんな現実も知りました。

借りることになった大賀茂の田んぼの上流にはいくつかの田んぼがあり、普通に農薬を使って米づくりをしています。そうすると、無農薬とは厳密にはいえないのか……と感じたりもしましたが、「こだわりすぎてもしょうがない、とにかく米づくりを始めてみたい!」と、現実を受け入れて、大賀茂の田んぼをありがたくお借りして、米づくりを始めたのでした。そうしてできた米は、手前みそにはなりますが、十分すぎるほどにおいしくでき上がったのです。

みんなで食卓を囲んだ「新米お披露目会」の様子

米づくり1年目のとき、無事に収穫が終わって手伝ってもらった人たちを招いての「新米お披露目会」。このとき感じた「米のおいしさ」は今でも忘れられません。人間の味覚なんて、思い込みによって左右されるものですから、それも含めて「おいしい」のですよね。

ということで、おいしさにも大満足だったので、田んぼに流れ込む水路の排水やら農薬やらはほとんど気にならなくなっていきました。ただ、「もっとピュアな水で米づくりをしたら、どんな味の米ができ上がるのだろう? もっとおいしくできるのだろうか?」そんな思いが少なからずはあったことは事実です。

「稲梓の田んぼ」の水と駐車場

昨秋に紹介してもらった田んぼを見に行った時点に話を戻します。田んぼを見に行くと、とても日当たりがよく、大きさも今までの田んぼとほぼ同じ。景色も最高です!(まあ、景色は米の味には一切関係ないのですが、作業していての気持ちよさって大事かなと)

新たに借りることになった田んぼ

小さい田んぼが2枚合わせて約1反(1反は300坪、990平方メートル)。これまでの田んぼとほぼ同じ面積です。機械でやるなら細かく分かれているのは手間が増えますが、手植え、手刈りであればあまり変わりません。

そして、やはり気になるのが、田んぼに流れ込む水のこと。早速、水路の水源を調べてみることにしました。

田んぼに流れ込む川の上流

道路脇の水路をしばし辿っていくと、川に辿りつきます。この川はかなり上流に位置していて、その先には民家も施設もありません。さらには、田んぼの上流には田んぼは1枚しかなくて、しかも、その田んぼの排水が流れ込むこともなさそうです。

これはまさに「ピュアな水が流れ込む田んぼではないか!」とうれしくなりました。

また、気になっていたことのもうひとつに、手伝いに来てくれる友人たちが車を停めるスペースがあるか? ということもありました。これまでの大賀茂の田んぼには、田植えや稲刈りなど多いときで30人ほど参加してくれていたので7、8台の車が来ていたのです。(みなさま、本当にありがとうございます!)

これまでの田んぼ周辺は農道で、それくらい車が停まってもまったく問題がなかったのですが、今度の田んぼは普通の道路に接していて、しかも決して広くはない。どこかに停めれるか……?友人に相談すると、ウチに停めていいよ、とのありがたい言葉が返ってきました。

千代田屋旅館の外観

友人は千代田屋旅館という温泉宿を家族で経営しています。開業してから150年以上経つという歴史ある旅館で、料理と泉質が最高! 看板ネコやら看板ヤギやらが出迎えてくれるとても居心地のよい宿です。わが家も昨年末、家族でお世話になりました。母親がえらく気に入って、また行きたいと事あるごとに言っています。

その田んぼは千代田屋旅館のすぐ裏にあり、旅館の駐車場に停めていいというのです。それは、ありがたすぎます……。しかも、田んぼと千代田屋旅館の間には、水浴びができるほどにきれいな川が流れています。田植えや稲刈り、日々の作業で汗びしょになったら、川で水浴びをして、千代田屋旅館の温泉に入るなんて最高ではないか?考えただけでワクワクしてしまいます。

また、旅館の友人も米づくりや野菜づくりをしていて、機械もひと通り揃っているのです。あるものは使っていいよ、と本当にありがたい話をしてくれています。(感謝してもしきれません)

こんな条件もとても良い「稲梓の田んぼ」を借りようかと考え始めたものの、いざとなると、大賀茂の田んぼでは、まわりの人たちにもすごく面倒を見てもらっていたので、ただ返してしまうのが心苦しいと思うようになりました。(毎年のように、あっちもやらねえか? こっちもやらねえか? と言われていたし……)

大賀茂と稲梓、ふたつの田んぼ。地域の人との作業を経験して

さて、どうしたものか?お世話になった大賀茂の人たちや南伊豆米店さんに負担をかけずにしたい。一番いいのは、誰か、引き継いでやってくれる人を見つけること。わが家の田んぼの田植えや稲刈り、草取りを手伝ってくれていた、田んぼのすぐ近くに住む友人を思い当たり、声をかけたら、「ツルさんがやらないなら、あそこ借りて米づくりに挑戦してみたい!」とのこと!

この友人は、下田生まれ下田育ち、生粋の下田っ子。そんな友人が、わが家の田んぼの作業に参加したことがキッカケで、米づくりに挑戦してみたいと感じるようになったといいます。なんだか、とてもうれしい話です。そして、この田んぼのもろもろの条件、良い点だけでなく田んぼに流れる水の件も含めて、正直にいろいろと説明しました。そのうえで、引き継いで借りてくれることになったのです。

大賀茂の田んぼ

友人は、自分たちが最初そうであったように南伊豆米店の「稲作支援制度」を使って「大賀茂の田んぼ」で米づくりをします。この制度がなかったらこうして米づくりを始めることはできませんでした。この日は友人と南伊豆米店の中村大軌さんとの顔合わせ。

こうして今年からわが家は「稲梓の田んぼ」を借りて、あらたな場所で米づくりを始めて、これまで借りていた「大賀茂の田んぼ」では友人が米づくりを始めることになったのです。

田んぼの石を取り除く作業

「稲梓の田んぼ」には石がゴロゴロしています。先日はそれを取り除く作業をしました。

毎年3月の初め頃、「大賀茂の田んぼ」では周辺で田んぼをやっている人たちが集まって、農道の整備をしています。型枠をつくって、コンクリートを流し込み、崩れかけた道や舗装されていない箇所を舗装していく。まさか米づくりをするのに、道づくりまですることになるとは思っていなかったのですが、参加するみなさん、本当にパワフルで楽しい方たちで、もろもろの作業に不慣れな自分にもとてもやさしく段取りを指示してくれていました。

当初は悲しいくらいに役に立っていなかった気がしますが、いろいろ段取りを覚え、それなりに動けるようになってきていて、毎年のこの作業に参加して、田舎暮らしスキル(?)がワンランク上がったように感じます。

タイミング的に、まだ「大賀茂の田んぼ」のまわりの人たちに、今年から別の田んぼをやることになりそうだと伝えていなかったこともあり、今年も道づくりのお誘いが来ました。本当は、今年はその田んぼを返すのだから行かなくてもいいのかもしれませんが、これまで散々お世話になった大賀茂の人たちに感謝を伝えたかったこともあり、参加することに。

道づくりの様子

「大賀茂の田んぼ」の道づくりの様子。かなり高齢の方もいるのですが、みなさん本当に元気で、そして楽しい方々なのです。

作業の終わりに、別の田んぼに移ることを伝えると、ここであれだけ頑張ったんだからどこでもうまくやれるよ、と快く送り出してくれました。

そして、4月の初めには「稲梓の田んぼ」の水路まわりの草刈りと掃除があるということで、参加することに。地域性なのか大賀茂の人たちとは少なからず雰囲気の違う感じで、こちらのみなさんは、どこか穏やかでやさしい雰囲気でした。大賀茂は田んぼもあるけど海もすぐ近く、稲梓は内陸の中山間地域、そんな違いなのでしょうか?

水路清掃の様子

「稲梓の田んぼ」水路清掃の様子。

どちらの人たちも、自分たちがこの土地を守っている、つくっている、という意識か強い。都会では道を整備したり、水路を掃除したりというのは税金で賄う事業です。金払ってるからキレイにやっといて、という感じ。でも、地方ではそこまでは税金では賄えないのが現実でもあります。こうした土地の人たちの、要するに「ボランティア」活動で、土地が保たれているのです。ということを移住して、米づくりをするようになって知りました。でも、それがあるから土地への愛情が生まれるのでしょう。

あらたな場所での米づくり、始まります

さてさて、そんなこんなで今年から気持ちあらたに田んぼを変えての米づくりが始まります。稲梓は大賀茂より鹿がすごく多くて、田植えの前までに獣防止の柵をつくったりもせねばなりません。今、田んぼはぞっとするほどに鹿の糞だらけ……。田植えしてから入られると、苗をごっそり食べられてしまうそうです。獣防止の柵は普通に買うとかなり高いのですが、市や農協の補助金も出ます。いま、5月初めの段階では、市の補助金申請が受理されて、柵を購入した段階です。

これからその柵を設置したり、代掻きという作業をしたり、水が漏れるところがあれば補修をしたり……。5月末に予定している田植えに向けてやることが満載すぎて、間に合うのだろうか? と少なからず不安ではあります。

でも、娘のクラスメイトたちも田植えの参加を楽しみにしているとも聞きます。年々、クラスメイトの参加人数も増えてきていて、なんともうれしい話です。子どもたちが安全に楽しく参加できるように、子どもたちにおいしいお米を渡せるように、しっかり段取りせねば! です。

田んぼの傍でランチ中

「大賀茂の田んぼ」でつくった米のおにぎりを「稲梓の田んぼ」でいただく! 来年の今頃は、「稲梓の田んぼ」でつくった米を無事に食べていることを祈る!(鹿が怖い……)

お伝えしたように、これまでつくった米も、十分においしくできていました。水や土などなどの環境が変わって、味がどう変わるのか?今から収穫が楽しみです!

仲良くなったお婆さんと散歩する津留崎さんの娘さん

田んぼの作業をしていると、近所の方たちが声をかけてくれます。娘もすっかり地域の人になじんで、仲良くなったお婆さんと散歩に。友人がつないでくれた「田んぼ」から広がる縁、大切にしていきたいです。

文 津留崎鎮生

text & photograph

Shizuo Tsurusaki

津留崎鎮生

つるさき・しずお●1974年東京生まれ東京育ち。大学で建築を学ぶ。その後、建築家の弟子、自営業でのカフェバー経営、リノベーション業界で数社と職を転々としながらも、地方に住む人々の暮らしに触れるにつれ「移住しなければ!」と思うように。移住先探しの旅を経て2017年4月に伊豆下田に移住。この地で見つけたいくつかの仕事をしつつ、家や庭をいじりながら暮らしてます。Facebook Instagram