里山の「耕作放棄地」に賑わいがもどるまで

田植えの季節がやってきました。津留崎家が伊豆下田に移住して5年目の田植えです。今年は田んぼの引っ越しを経て、しばらく耕作放棄地だった田んぼでの米づくりとなります。多くの人たちを巻き込んでの手作業での田植え、地域の人はどんな反応だったのでしょうか?そんな「田んぼ」の役割や持続可能性についても考えました。

なぜ、多くの人を巻き込んで手間のかかる手植えをするのか?

田んぼに置かれた田植え前の苗

先日5月末に、多くの友人、知人たちの助けをもらいながら手作業での田植えを行いました。下田に移住した翌年、2018年から米づくりを始めたので5年目の米づくりとなります。とはいっても、以前お伝えしたように、この春にはこれまでお借りしていた「大賀茂の田んぼ」から「稲梓(いなずさ)の田んぼ」に引っ越しをしたので、この田んぼでは初めての田植えです。

田んぼのトラクター

田植え前のトラクターが必要な作業は、この田んぼを紹介してくれた、すぐ近くで宿〈千代田屋旅館〉を営む友人に手伝ってもらいました。宿の人なのに重機? と思うかもしれませんが、彼も米をつくっていて、宿では自家製米や自家製野菜を楽しめます。千代田屋旅館さんには田植え当日も駐車場や、昼ごはんの提供など、本当にお世話になりっぱなしでした。本当にありがたい、頼りになる存在です。

実は、今回、例年以上に悩んだことがあります。

もともとは、「できることは自分たちでやりたい。商売のために米を育てるわけでないのだから、その過程も楽しみたい」というスタンスから、手植え・手刈り・天日干しという栽培方法で米づくりを始めました。でも、わが家だけではとても作業が追いつかない……ということで田植えと稲刈りは友人たちの手を借りるようになったのです。

当初は移住してきたばかりで友人も少なく、少人数でしたが、ありがたいことにその人数はだんだんと増えていきました。

昨年の田植えの様子

昨年の田植えの様子。結果的には大賀茂の田んぼでの最後の田植えとなりました。参加人数が随分と多くなり、「田植えイベント」の様相に。

すると、こう感じるようになったのです。なぜ、わざわざ、多くの人を巻き込んで田植えをするのか?最初は楽しく体験してみたいという思いで参加してくれたけど、毎年誘うことになると、迷惑に感じる人もいるのではないか?今年からは、イベント的に人を集めるのはやめて、家族ができる範囲で手植えをするのはどうだろうか?そんな話も出ました。

でも、悩んだ末に、娘の同級生や田んぼの近くに暮らす子も田植えに参加するのを楽しみにしている、と聞いたこともあり、結果、例年と同じようにイベント的に友人たちを集めて田植えをすることに決めたのです。

こうして、5年目の田植えが始まりました。

大人も子どもも泥んこになって一緒に田植え!

当日は雲ひとつない晴天! これは暑すぎるかな? と心配するほどでしたが、山に囲まれた川沿いの田んぼには、とても爽やかな風が吹いていて、絶好の田植え日和でした。

田んぼを歩く子どもたち

はじめての田んぼ、上手に歩けるかな? 小学5年生の娘(手前)は初めての田植えが、ちょうど真ん中の小さい子(娘の同級生の妹さん)と同じ小学1年生でした。こんなに大きくなったのか……とあらためて感じてしまいます。

大人も子どもも、日常では関わらないであろう人たちが一緒になって、泥んこになりながら作業するというのはやはりいいものです。

参加者が横一列になって田植えを開始

さあ、田植え始め! 写真ではよく見えませんが、30センチ間隔で目印がついた紐を両側で引っ張ってガイドにしています。

今年から借りた稲梓の田んぼは、下田のなかでも内陸の山間部に位置し、里山の広がる静かな場所です。地名に「稲」がつくほどですから、もともと米づくりは盛んな地域なのですが、最近は担い手不足から耕作放棄地が増えています。そんな地域で30人近くも集まって田植えをしていたのがとても目立ったようで、途中、地域の方々が足を止めて様子を見守ってくれていました。

田植え作業を見つめる近所の方々

「この光景を見るのは50年ぶりだよ、懐かしいねえ」「子どもの頃、手伝ったね〜、いい思い出だ」「ここがこんなに賑わうのも何年ぶりだろね」「耕作放棄地が増えているから、田んぼをこうしてやってくれるのありがたいねえ」

そんな声が田んぼのまわりから聞こえてきました。米づくりは地域の水路を使わせていただくこともあり、地域の方々に認めてもらえなければできないとも感じています。

下田への移住者、しかも下田といっても離れた地域に暮らす自分たち。この地の田んぼで米づくりをすることを受け入れてもらえるのだろうか?少なからず不安もあったので、地域の方々のそんな言葉を聞けて、うれしくなってしまいました。

水路で虫や蛙と遊ぶ子どもたち

水路にも田んぼにも生き物がたくさん! 大賀茂の田んぼでもそうでしたが、子どもたちは田植えに飽きると、虫や蛙と遊びだします。ヴァーチャルの世界では感じられないことをたくさん感じてほしいです。

そして、田植えに参加するのを楽しみにしてくれていた田んぼの近くに暮らす子が、普段は見せないような頑張る姿を見せてくれたりもしました。

佳境に入ってきた田植え作業

あと少し! 子どもたちの頑張りにオジサンの涙腺はゆるみっぱなし。

そんなことがあると、結果としては、やっぱり、多くの人を巻き込むこの舞台をつくれて良かった気がしてしまうのです。

尻もちをつく子ども

ありゃりゃ、やっぱり転んでしまいました〜! でも、泥んこも気持ちいいでしょ? おいしいお米ができるの楽しみに待っていてね。

これからしばらくは、みんなで植えた苗がしっかりと成長するために、サポートをしてあげる期間となります。

大賀茂の田んぼでは「ヒエ」と「コナギ」という雑草に悩まされました。稲梓の田んぼの雑草はどんな様子だろうか?

田んぼに現れた鴨

こちらは昨年の大賀茂の田んぼ、田植え1か月後の様子。毎年、雑草を食べてくれるという鴨がどこからともなくやってきて、草取りに一役買ってくれていました。でも、鴨がすべてを食べてくれるわけではありません。『米づくりは雑草との闘い!?』なんて記事も書いたほどに草取りには苦労しました。

無事に雑草や病気に負けずに育ったら、秋には稲刈りです。きっとまた、多くの人を巻き込むべきか? 悩みつつ、結局、巻き込んでしまうのかもしれません。そのときは、また、この里山にたくさんの子どもたちの元気な声を響き渡らせたいです。

世界に飛び出す若者に伝えたい「田んぼ」のすばらしさ

今回、田植えに来てくれたなかに、田んぼに入るのが初めてで、近々、留学を予定している大学生たちがいました。自分が「下田でのいくつかの仕事のひとつ」として関わっているシェアレジデンス〈LivingAnywhere Commons 伊豆下田〉の利用者さんです。

地域の方と利用者さんがつながっていく場をつくっていきたいとも考えていますし、彼らに「旅行ではできない体験をしてもらいたい」という思いで、お誘いしました。

作業に集中する大勢の参加者たち

生粋の下田人から移住者、その子どもたち。そして、LivingAnywhereな若者も、みんなが一緒に泥んこに。

ひと通りの作業を終えてから、彼らと話をしているとこんな話に展開していきました。

「人間の多くの生産活動が環境に対して負荷を与える“非持続的な営み”なのに対して、里山の田んぼで米をつくるという生産活動は、環境にいい影響を与えつつ主食をつくるというとても貴重な“持続的な営み”なんだよ」

用水路で足を洗う子ども

田んぼは、山から絶えず流れ込む水の栄養で稲が成長するので、土地を痩せさせません。対して畑や牧畜は、土地の栄養や地下水を使いすぎて、土地を痩せさせてしまうことがあります。また田んぼは、さまざまな生きものの命が宿る場でもあり、水の浄化や水害防止、土砂流出防止、気温上昇防止などの多くの利点も言われています。

これから世界に旅立つ彼らにとって、この列島をはじめ東アジアで盛んに行われている「田んぼ」の米づくりへの参加体験はどんな意味をもたらすのだろうか?

田植え終了後に全員で記念撮影

5年目の米づくり。「稲梓の田んぼ」1年目、田植え終了!! ありがとうございました!

軽トラックの荷台でカレーを配膳

田植え後のお楽しみ〜。千代田屋旅館特製「猪カレーライス」! ご飯は昨年の大賀茂の田んぼでとれた自家製米を炊いてもらいました。

持続的な営みであり、地域の人も喜んでくれる田んぼなのに今、その担い手がいなくて、どんどん耕作放棄地が増えています。先日、東京と横浜から下田を訪ねてくれた古い友人を田んぼに案内しました。

そのとき、友人たちにこう尋ねられたのが印象に残っています。「こんなに広い田んぼは、いくらで借りられるの?」

都会の価値観だったら、この広さの土地を借りたらいくらするのだろうか? と考えるのは不思議ではないのかもしれません。「タダだよ。借りてくれてありがたい、って感謝されるくらい。獣害対策の柵も補助金が出るんだ」と話したら、すごく驚いていました。

田んぼに電気柵を設置する様子

田植えの前に獣害対策の電気柵を設置。大賀茂の田んぼ周辺には猪は出るけど鹿は出なかったので、大がかりなものは必要ありませんでした。しかし稲梓の田んぼ周辺は鹿が多い地域なので、このような背の高い柵が必要になります。材料だけで総額13万円ほどしましたが、市と農協で合わせて8割も補助していただきました。

まあ、そんなこんな、とにもかくにも。5年目の米づくり、「稲梓の田んぼ」での初めての田植え、無事に終了しました。ここに田んぼをお借りできた縁に感謝しつつ、しっかり苗が育つのをサポートしていきたいです。

田植えが終わった後の苗が並ぶ田んぼ

この頼りない苗が、秋には穂を実らせます。いやしかし、バラバラな植え方ですね。この不揃いさが手植えの良さ……かな? みんな違って良いではないか。

文 津留崎鎮生

text & photograph

Shizuo Tsurusaki

津留崎鎮生

つるさき・しずお●1974年東京生まれ東京育ち。大学で建築を学ぶ。その後、建築家の弟子、自営業でのカフェバー経営、リノベーション業界で数社と職を転々としながらも、地方に住む人々の暮らしに触れるにつれ「移住しなければ!」と思うように。移住先探しの旅を経て2017年4月に伊豆下田に移住。この地で見つけたいくつかの仕事をしつつ、家や庭をいじりながら暮らしてます。Facebook Instagram