出版活動を超えた作品づくりが始まって

北海道岩見沢市の閉校した旧美流渡(みると)中学校で年3回、有志が集まって展覧会を開催することになり、これまでこの連載ではさまざまな角度からそれについて書いてきた。

地域のつくり手の作品を集めた『みる・とーぶ展』と、画家MAYA MAXXさんによる『みんなとMAYA MAXX展』。そこに関わるメンバーたちはつねに新作を生み出したり、クオリティアップを目指したりと日々進化を遂げている。

万字地区でハーブブレンドティーをつくる〈麻の実堂〉。回を重ねるごとにブレンドの種類も増え、秋の展覧会では試飲会も開催。

万字地区でハーブブレンドティーをつくる〈麻の実堂〉。回を重ねるごとにブレンドの種類も増え、秋の展覧会では試飲会も開催。

変化は、私自身にも起こっていて、いま新たな作品づくりが始まっている。これまで『みる・とーぶ展』では、〈森の出版社 ミチクル〉という活動名で、オリジナルの書籍を販売してきた。私が2016年にこの地域に山を買った体験談をまとめた『山を買う』や、北海道に暮らす人々と協力しながら本をつくる「ローカルブックス」というレーベルなど。展覧会に合わせて毎回1冊ずつのペースで新刊を出していた。

森の出版社ミチクルの書籍。北海道の人々とつくった書籍をはじめ、この地に自生する植物をテーマにした絵本なども。

森の出版社ミチクルの書籍。北海道の人々とつくった書籍をはじめ、この地に自生する植物をテーマにした絵本なども。

この夏には縄文時代につくられた、ヒトをかたどった土偶をテーマに絵本『DOGU』を刊行。このとき私は、以前からつくり続けていた土偶や土器も発表しようと考えた。昨年、一昨年と冬の間、MAYAさんが、近くにあった陶芸のできる施設に通っていて、私も一緒に週1回、土偶や土器制作を行っていた。もともと美術大学に通っていたこともあって、何かをそっくりに写しとることが得意。ずっと興味を持っていた縄文時代の造形を、いつか自分で再現してみたいとつねづね思っていた。

夏の展覧会。中央に絵本『DOGU』を置き、周りに再現した土偶や土器を並べた。

夏の展覧会。中央に絵本『DOGU』を置き、周りに再現した土偶や土器を並べた。

主に青森の三内丸山遺跡で出土した板状土偶を再現。野焼きで焼成した。

主に青森の三内丸山遺跡で出土した板状土偶を再現。野焼きで焼成した。

さらに、夏の展覧会に合わせて、板状の小さな土偶も再現した。このとき、ひとつチャレンジしてみたかったことがあった。これまで土偶や土器は、施設にある電気窯で焼成を行っていたが、 “野焼き”をやってみようと考えた。野焼きとは、焚き火で粘土を焼成するやり方だ。縄文時代にどのような焼成方法をしていたのかは諸説あるようだが、ネットなどに上がっている情報を集めてトライしてみることにした。

耐熱レンガを並べて、窯をつくった。

割れないように徐々に温度を上げていきながら。

焼成時間は5、6時間。

 

野焼きをしたのは7月初旬。北海道でも日差しが強く、暑いなかで6時間、火を炊き続けた。心拍数が上がって頭がクラクラし、想像以上に大変な工程だったが、よい仕上がりになった。電気釜では表面の色合いは均一になってしまうが、野焼きは温度の違いによって変化があって、縄文時代のものと似た雰囲気をつくることができた。

縄文時代のピアスも再現。

縄文時代のピアスも再現。

夏の『みる・とーぶ展』では、完成した土偶に値段をつけて販売した。これまで、自分の表現として販売したことのあるものは本という形式のみ。絵や立体物などの作品はつくったり発表したりしたことはあったが、値段をつけるということはほとんどなく、自分にとっては大きな出来事だった。

期間中、土偶を購入してくれた方が数名いた。いつも私の活動を応援してくれている方たちで、誰かが家に持ち帰ってくれたことは次の一歩を踏み出す心の支えとなった。そして秋の展覧会でも、また作品をつくろうと心に決めた。

土偶の次は……、動物マスク!!

秋の展覧会では、新たな土偶の野焼き作品をつくるとともに、もうひとつ、別のこともやってみたいと考えた。昨年のこと。私は北海道を拠点に活動するプロレスラー・杉浦一生さんのために、クマのマスクとマタギ風ガウンをつくったことがあった。このときクマのマスクをつくるのは初めてではあったけれど、不思議なリアルさを表現できた。

つくるときにも迷いなく、ひとりでに手が動くような感覚があった。そして、完成したとき、これまでにない充足感を味わった。絵を描いたり本をつくったりというときには味わえなかった、お腹いっぱいおいしいものを食べたあとのような満たされた感覚だった。

制作したマスク。北海熊五郎という覆面レスラーが入場時につけるもので、熊五郎をマネージメントしているのが杉浦さんという設定。

歯は樹脂粘土で制作。ついついリアルにしてしまう。

 

「また、マスクを制作してみたい」

そう思い、秋の展覧会に向けての準備が始まった。着手したのはフォックスのマスク。以前にMAYAさんからつくってほしいと頼まれて、フォックスの毛皮のコートを預かっていた。MAYAさんは動物の皮で小物を制作することがあるようで、その素材として使うために毛皮のコートを数枚所有していた。

かたちは発泡スチロールなどでつくり、その上から毛皮で覆った。目玉は紙粘土でつくりアクリル絵具で着彩。歯は樹脂粘土。1週間ほどでできあがった。当初はキツネをつくろうと思っていたが、どちらかというとオオカミのような仕上がりになった。その後、自分でも中古の毛皮のコートを調達して、シロクマ、ヒグマ、ウサギを制作した。

キツネをつくろうと思ってオオカミになったマスク。

シロクマ

ヒグマ

ウサギ

 

夢中になって制作したが、搬入の前日になって、恥ずかしいような気持ちが湧いてきた。冷静にこのマスクを見てみると、歯がリアルすぎてちょっと怖い。息子が小さかった頃、5月の節句にマサカリとクマを段ボールでつくったときに、リアルすぎてものすごく引かれたことを思い出したりした。

また、法律相談の本にイラストを頼まれたことがあったけれど、それも人間の表情が怖すぎるといって没になったこともあった。

また、みんなに引かれるんじゃないか……。ドキドキしながらの搬入。まだ誰もきていない会場で朝一番に、マスクを並べていると……。

「なにこれ、かわいいやん!」

やってきたのはメンバーのひとり。美流渡地区でカレー屋〈ばぐぅす屋〉を営む山岸槙さん。

「かぶってみる?」と勧めると、すごくうれしそうに笑顔を見せてくれた。

その後、続々とメンバーが搬入にやってきて、そのたびにマスクをかぶってくれた。

 

ちょっと怖いかなと思ったら、みんなもおもしろがってくれて

展覧会がオープンすると、お客さんも興味を示し、マスクを積極的にかぶって写真に収めてくれた。ありがたいことに、MAYAさんも、宣伝になるからとギャラリートークでオオカミのマスクをつけてくれ、さらにはプロレスラーの杉浦さんも、マスクとガウンをつけて会場に駆けつけてくれた(!!)みんなに協力してもらって動物マスクの動画を撮影させてもらい、心躍る思いがした。

『みる・とーぶ展』の会場に突然杉浦さんがやってきて動画撮影が始まった!

『みる・とーぶ展』の会場に突然杉浦さんがやってきて動画撮影が始まった!

土偶や土器づくりは、写真資料をじっくりと観察し、それを再現していくなかで、縄文時代の人々の感性を体感し、発見する楽しみがある。けれど発表したときに、その発見が見た人と共有できないもどかしさがあった。

マスクの制作は、自分がこれまで野生動物を見て感じてきた、動物の息遣いや生々しさを表そうとしていて、見た人にもそれが伝わり、楽しんでくれているように感じられた。またこれまでは、会場で見にきてくれた人と話すときに、若干の躊躇があったのだけれど、動物マスクをかぶってくれた来場者とは、これまでにない明るさで話しかけることができた。その理由は、まだわからないけれど、自分のなかで何かが変わっていっているように感じられた。

マスクづくりと並行して、土偶づくりも継続中だ。動物つながりということで、イノシシやクマなど動物をかたどった土偶の再現をしているのだが、こちらもいままでのつくりかたとは少し変えている。これまでの再現は、模様やかたちが精密なものを選んでいて、それに挑戦するような意識でやっていた。

けれど動物土偶は、精密さとは反対に、ゆるい印象があって、再現するのはむしろ難しいのだが、動物をかわいがるような、子どもをあやすような気持ちでつくってみている。

こちらは動物マスクのインパクトの影に隠れて、見てくれた人の声を聞く機会は少ないのだが(苦笑)、「いちばんかわいいのを選びました」といって買ってくれた人がいた。

イノシシ、クマ、犬、猫などさまざまな動物が縄文時代につくられていた。口をぱっくりと開けているものが多い。

イノシシ、クマ、犬、猫などさまざまな動物が縄文時代につくられていた。口をぱっくりと開けているものが多い。

『みる・とーぶ展』が年3回あったからこそ、本づくりだけでない作品をつくることができたのだと思う。また、ギャラリーで作品を展示するのではなく、販売ブースというかたちでの発表もよかったように思う。

ずっと美術の専門出版社で働いていたこともあって、ギャラリーなどで作品展示をしようと思うと、ついついテーマやコンセプトを設定してしまったはず。

けれど、『みる・とーぶ展』のように、生活雑貨やアクセサリー、食品など、地域のつくり手が自分たちのつくりたいものを集めた場であるので、私も「つくりたい」と思ったものを、コンセプトを立てずとも素直に展示できたように思う。

何より、みる・とーぶのメンバーにはMAYA さん、そして札幌を拠点に活動する美術家の上遠野敏さんなど、何十年も表現に本気で取り組んできた人たちがいて、私の作品のことを応援してくれ、ときにはアドバイスもしてくれるのが、本当にありがたい。

美術大学へ通ってはいたものの、表現するということにずっと自信がなく、本づくりなど少し脇道を通ってきたように思うけれど、いまもう一度、自分の創作に向き合うことができたのは大きな喜びだ。

上遠野敏さんの出品作。巣鴨にあった地蔵落雁を陶器で再現。現在、上遠野さんは札幌にある〈500m美術館〉で『命と祈りの約束』と題した個展を開催(10月26日まで)しており、この地蔵作品を6556体展示中。

上遠野敏さんの出品作。巣鴨にあった地蔵落雁を陶器で再現。現在、上遠野さんは札幌にある〈500m美術館〉で『命と祈りの約束』と題した個展を開催(10月26日まで)しており、この地蔵作品を6556体展示中。

そして、動物マスクは、まだまだつくり足りないという思いも湧いている。今日、原稿を書いているのは、『みる・とーぶ展』が始まって4日目だが、可能であれば会期中にいくつかプラスしてつくれたらと構想は広がる。

さらには、オーダーメイドもやってみたいと思っているので、興味のある方はご連絡を(!)

information

みる・とーぶ展

会期:2022年9月10日(土)〜25日(日)

会場:旧美流渡中学校(北海道岩見沢市栗沢町美流渡栄町58)

Web:Facebook

writer profile

Michiko Kurushima

來嶋路子

くるしま・みちこ●東京都出身。1994年に美術出版社で働き始め、2001年『みづゑ』の新装刊立ち上げに携わり、編集長となる。2008年『美術手帖』副編集長。2011年に暮らしの拠点を北海道に移す。以後、書籍の編集長として美術出版社に籍をおきつつ在宅勤務というかたちで仕事を続ける。2015年にフリーランスとなり、アートやデザインの本づくりを行う〈ミチクル編集工房〉をつくる。現在、東京と北海道を行き来しながら編集の仕事をしつつ、エコビレッジをつくるという目標に向かって奔走中。ときどき畑仕事も。http://michikuru.com/