タムタムデザインvol.4

福岡県北九州市で建築設計事務所を営み、転貸事業や飲食店運営を行う田村晟一朗(たむら せいいちろう)さんによる連載です。

今回は北九州市小倉の団地にオープンしたお惣菜屋さんの話。健康面でも精神面でも高齢者たちの拠り所になりながら、地域の林業の課題解決にも寄与している場所。その誕生のプロセスを振り返ります。

お惣菜店と林業をつなげる?

2015年のある日、知人の経営コンサルタントである田代智治(たしろ ともはる)さんから「タムちゃん、ちょっと相談があるんよ」とお声がけがありました。

当時の僕は北九州市立大学のMBA(経営学)スクールに通う社会人の方々と親交が多く、田代さんもそのひとりでした。「みむちゃんがお惣菜屋を始めるから、いま手伝っているんだけどね」と。みむちゃんとは、田代さんとMBA同期で元作業療法士の三村和礼(みむら かずゆき)さん。「福祉業界から社会をよくしたい」と、物腰がやわらかい雰囲気からは想像もつかないくらい情熱にあふれる人でした。

相談内容というのはふたつ。まずは三村さんが始めるお惣菜屋さんの店舗設計。もうひとつが田代さんと親交の深い大分県日田市にある〈田島山業〉の田島信太郎社長が抱える事業課題の解決。それらを同時に行いたいとのこと。

「お惣菜店と林業がどうつながるのか?」

なかなかピンとこない僕の顔を見つつ、「とりあえず田島さんのところへ行こう」となりました。店舗の施工を手がける〈ヴィリオ〉の寺井 智彦くん(vol.2を参照)も誘い、田代さん、三村さんと一緒に日田の林業の現場へ。

林地残材の課題

大分県日田市中津江村の山奥に到着。田島さんに林業の現場を案内してもらいました。鎌倉時代から先祖代々受け継がれてきた山への想いや、それを未来へ継承していくことの責任など、ひと言では語りつくせない現状に、僕らも少しですが触れることができました。

新緑も深く、空気もうまい!

新緑も深く、空気もうまい!

〈田島山業〉の現場。ここは製品となる日田杉の保管場所。

〈田島山業〉の現場。ここは製品となる日田杉の保管場所。

想いを語ってくれる田島社長。

想いを語ってくれる田島社長。

続いて案内されたのが、「林地残材」と呼ばれる丸太の置き場所。道の脇には積み重ねられた大木の山があり、これがまさに田島さんが課題としていることでした。

林地残材とは、商品価値がないとされる丸太です。樹々は山の傾斜に生えながらも垂直に伸びるため、根元の1〜2メートル程度が曲がります。組合はその曲がった部分を商品価値がないものとして引き取らないため、こうして道端に放置するか、費用をかけてバイオマスにするしかないとのこと。

バイオマスとはチップ状に粉砕して燃やす燃料のことですが、田島社長は「先祖代々が育ててきたこの樹木たちを、ただ燃やすだけに使うには申し訳なさすぎる」とおっしゃっていました。

道端に放置されている林地残材。

林地残材を根元から見た様子。

 

確かに少し曲がっているけど、とても立派です。この程度で商品価値がないと判断されるのは、もったいなさすぎると皆が実感しました。

高齢化社会に寄与するお惣菜店

この日の夜は、日田市街で酒を交わしました。

お惣菜店の開業を目指す三村さんは元作業療法士。都市部の高齢者が抱える「食事」や「社会的孤立」という問題に直面してきました。きちんとした食事を摂ることが難しかったり、何日も人と話すことがなかったりする方に多く出会ってきたそうです。

「おいしい家庭料理を食べて、健康的な生活を送ってもらいたい」「気軽に立ち寄ることができて、何気ない会話ができる団らんの場をつくりたい」

具体的に高齢者ひとりひとりの生活も顔も知っているがゆえの想いがあり、今回のお惣菜店は高齢化社会に寄与する事業なのだと、熱い想いをお話ししていただきました。

来店した高齢者の顔を見て元気かどうか判断し、挨拶がてらお声がけし、体調に合ったメニューを提案し、それを食せるイートイン機能を設けることで高齢者のコミュニティもできる、というお惣菜店。健康器具も設置する予定とのことでした。

同日の夜の会食。左が三村さん、右が田島社長。

同日の夜の会食。左が三村さん、右が田島社長。

田島さんの林業に対する想いと三村さんの事業への想い、そして事業の確かなプランも聞いたことで、今回のプロジェクトへの意気込みが一気に高まりました。チームの士気も上がったように思います。今回、このメンバーをここに集めた田代さんの狙いがはっきりとわかった瞬間です。

木材の流通を見直す

一般的に木材が林業の現場から施主(今回でいう三村さん)に届くまでの流れは、「林業→組合→製材所→加工製材所→組合→市場→建材店→工務店→施主」となります。とにかく経由するルートがとても多いんです。

今回は林地残材を使うため、独自の流通を確立することになりました。新しい流通とチーム構成はこんな感じです。

この林地残材を日田市の製材所に持ち込み加工、それを寺井くんが引きとって施工する、「林業→製材加工所→工務店→施主」というかなりシンプルな流通を実現させました。こうすることで林業としては高単価であり、施主にとっては安価となります。

今回の事業スキーム図。

今回の事業スキーム図。

当時のことを振り返りつつこの記事を書いていますが、三村さんと田代さんはともにMBAを取得されており、このスキームを考えたふたりの発想と知識ってすごいなぁとあらためて思います。田代さんは現在、長崎県立大学経営学部准教授に就任されていますが、それにも納得。僕も寺井くんもこのチームにおける役割は明白です。プロとして取り組むにあたって、なんの迷いもなくプロジェクトが進んでいきました。

空き店舗率50%、高齢化した団地の店舗区画

後日、三村さんが目をつけた物件に足を運びました。そこは高齢化した団地でした。

UR都市機構 金田1丁目団地。団地広場に面した1階は店舗区画でした。

〈金田1丁目団地商店街〉と呼ばれる1階の店舗区画。空き店舗率50%のシャッター街化が顕著な状況でした。

 

実のところ北九州市は、高齢化率が政令指定都市のなかでもダントツ1位の31.3%(2022年9月時点)というまちなんです。この団地も1975年の竣工から高齢化が進み、多分に漏れず当時の平均世帯年齢は56.3歳でした(当時のUR担当者調べ)。ここの1区画にお惣菜店〈和菜屋〉をつくっていきます。

平面計画では、陳列用カウンターに傾斜をつけて緩いカーブにすることで、杖をついた高齢者や車椅子の方々の動作で直角移動がなくなり、楽にお惣菜を選べて、なおかつ最短でイートインコーナーに行けるよう“一筆書き”の動線にしました。

和菜屋の平面図。左の入口から一筆書きで店内を回れる。

和菜屋の平面図。左の入口から一筆書きで店内を回れる。

林地残材の加工

店舗の計画に合わせて林地残材の加工をしていきます。

チームのみんなで製材加工所へ行き、加工の様子を見てきました。

製材加工所の様子。

製材加工所の様子。

加工場の様子。

加工場の様子。

加工された林地残材。床材になる。

加工された林地残材。床材になる。

こちらはカウンター材になる部材。曲がりがあるため、2メートルほどの長さ。

こちらはカウンター材になる部材。曲がりがあるため、2メートルほどの長さ。

〈団らん処 和菜屋〉がオープン! 孤独な高齢者の居場所に

こうした林地残材を使いながら施工が進み、2015年7月に〈団らん処 和菜屋〉がオープンしました。

和菜屋のファサード。既存のフロントサッシに木枠を入れて障子をイメージ。高齢者にも親近感を持ってもらい、入りやすいデザイン。

和菜屋のファサード。既存のフロントサッシに木枠を入れて障子をイメージ。高齢者にも親近感を持ってもらい、入りやすいデザイン。

入口と傾斜したカウンター。

入口と傾斜したカウンター。

お惣菜を陳列する林地残材を使ったカウンター。

お惣菜を陳列する林地残材を使ったカウンター。

右が陳列カウンター、左がイートインコーナー。

陳列コーナーからイートインコーナーを眺める。

 

床やカウンター、天井の一部に林地残材を利用し、壁は同じ日田市の砂を使った左官仕上げの土壁にしました。同じ地域の素材で構成された空間はいい具合に調和がとれています。寺井くんの仕事はいつも丁寧です。素材の切り返しや接合部分などの細部が本当にきれいなので、全体的にもまとまりを感じます。

手洗いコーナー。日田市の砂を使った土壁と木部の接合部分。

手洗いコーナー。日田市の砂を使った土壁と木部の接合部分。

床の土間と林地残材の床材が接合する部分。とてもきれい。

床の土間と林地残材の床材が接合する部分。とてもきれい。

メインの林地残材のカウンターは、2メートルごとに継ぎ手があります。一般的にはお寿司屋さんのような“一枚板”が、価値が高いとされていますが、ここは継ぎ手が多いほど“林業の課題に向き合った価値”として表現されます。

林地残材の証となる継ぎ手。

林地残材の証となる継ぎ手。

あらゆる社会課題を包み込む場に

こうして完成した和菜屋。チームのみんなで〈田島山業〉さんの山まで足を運び、現地を見て感じて向き合った空間にはあらゆる物語が詰まっています。

ここで提供される惣菜の食材は、自社農園〈和菜屋農園〉や地元農家の産直、毎朝市場から仕入れる新鮮なものを中心に使い、地元のベテラン主婦たちに調理してもらうことで家庭料理の味を提供できる仕組みになっています。また、地元農業の課題解決への取り組みもされています。

店内では、高齢者に「こんにちは! 今日は顔色がいいですね。この前のおかずはどうでした?」とやさしくあたたかい声かけが聞こえてきて、ここの居心地のよさがすぐに伝わってきました。三村さんの狙い通り、イートインコーナーは団地に住む高齢者のみなさんの溜まり場となり、孤独に暮らす高齢者が減ってきたことが感じとれます。

イートインコーナーで談話する利用者と三村さん。

イートインコーナーで談話する利用者と三村さん。

そして三村さんの事業展開は続き、2017年には〈和才屋デイサービス〉をオープンしました。場所は和菜屋の2軒隣りです。

左が〈和才屋デイサービス〉、右が〈団らん処 和菜屋〉。シャッター街化しつつあった団地の店舗区画にもあたたかい明かりが灯りました。

左が〈和才屋デイサービス〉、右が〈団らん処 和菜屋〉。シャッター街化しつつあった団地の店舗区画にもあたたかい明かりが灯りました。

〈和才屋 デイサービス〉の空間。

〈和才屋 デイサービス〉の空間。

〈和才屋 デイサービス〉の室内ももちろん林地残材を活用しました。〈団らん処 和菜屋〉と〈和才屋 デイサービス〉は、〈リノベーション・オブ・ザ・イヤー2017〉で部門別最優秀賞、2019年に木の建築賞を受賞しました。

お惣菜店の〈団らん処 和菜屋〉にて食からのサポートで健康増進しながら、孤独を防ぐこと。そこで形成されたコミュニティを助長する〈和才屋 デイサービス〉でさらなる地域交流の場が提供されること。そして、それらの空間を彩る林地残材。三村さんの“お惣菜店とデイサービス”の事業展開がもたらす社会課題への貢献度は計り知れません。

僕も歳をとったら三村さんに面倒を見てもらおうと考えているのは、ここだけの秘密です(笑)。

information

団らん処 和菜屋、和才屋デイサービス

住所:福岡県北九州市小倉北区金田1-1-6 UR金田団地1階

Web:団らん処 和菜屋、和才屋デイサービス

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田島山業

Web:田島山業

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ヴィリオ

Web:ヴィリオ

田村晟一朗

Seiichiro Tamura

たむら・せいいちろう

株式会社タムタムデザイン代表取締役。国立大学法人 九州工業大学 非常勤講師。1978年高知県生まれ北九州市在住。建築設計事務所に勤めつつ商店街で個人活動を広げ2012年タムタムデザインを設立。建築設計監理や飲食店経営、転貸事業を軸とした不動産再生プロジェクトも企画・運営しており、まちづくりや社会問題の解決などに向け活動中。商店街再生のキーマンとして、2021年1月にはテレビ東京『ガイアの夜明け』にとり上げられた。アジフライと鍋が好き。http://tamtamdesign.net/

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編集:中島彩