思い通りに間取りを設計できる倉庫のリノベーションは、自由な発想が膨らみ、広々とした空間の使い道は無限に広がります。そして、地域の交流の場をつくるという点においても多くの人を集められる箱なので選択肢の広いテナントとして機能します。

本記事では、各エリアのリノベのプロがこれまで手がけた倉庫リノベーションの実例を紹介。空っぽだった倉庫が、新しい活用方法で再生を遂げる物語をお届けします。

1. 倉庫リノベその1 :カフェ、コワーキングスペース

2. 倉庫リノベその2 :カフェ、美容室、セレクトショップ

3. 倉庫リノベその3 :カフェ、シェアオフィス、イベントスペース

4. 倉庫リノベその4 :アトリエ、シェアオフィス

5. 倉庫リノベその5 :コーヒー焙煎所、オフィス

5. 倉庫リノベその6 :会員制飲食店

5. 倉庫リノベその7 :イベントスペース

倉庫リノベその1 :〈SOCO〉カフェ、コワーキングスペース

栃木県宇都宮市で不動産業を営む〈ビルススタジオ〉の塩田大成さんは、宇都宮でオフィスを構えようと考えているお客さんが少ないことに疑問を感じていました。

調べてみると自宅兼オフィスとして働いている人が多く、「個人経営者同士が集まれるワークスペースをつくれば、仲間同士でよりよい仕事が生まれるのではないか」と考え、空き倉庫を探し、シェアオフィスとしてリノベーションすることにしました。

施設名はSOHOをもじって〈SOCO(倉庫)〉。

リノベーション工事は、仲間を募ってほとんどをDIYで進めていきます。工事期間は3か月かかり、仲間たちとペイントしたり、家具をつくったりしながら少しずつ進めていきようやく完工。1階にはカフェ、2、3階にはコワーキングスペースが入居し次々と施設内でのビジネスも生まれてきたようです。

マルシェイベントなども開催され、日々新しい出会いが創出されています。宇都宮のまちに、またおもしろい場所ができました。

記事はこちら:ビルススタジオ vol.5:倉庫をDIY、はたらく場所をつくる

倉庫リノベその2 :〈porus〉カフェ、美容室、セレクトショップ

栃木県宇都宮市の住宅や田んぼが入り混じる郊外、下川俣町にある倉庫を同じく宇都宮の〈ビルススタジオ〉が3棟まるまるリノベーションした事例です。

この倉庫の特徴は、宇都宮市名産の大谷石でできていること。ただし、倉庫内には給排水だけでなく、造作や電気、エアコン、さらには出入口のドアさえなく、すべてを入居者が負担しなければなりません。

しかし、そんな不安をよそにテナント募集の半年後には全区画の店舗がオープン。大谷石倉庫群の雰囲気に惹かれ、多くの希望者が集まったのです。

最初に出店が決まった美容室〈NEAT〉には倉庫特有の高い天井を生かしてロフトが設置されました。無骨な倉庫内に佇む美容機器や家具を見るとまるでアジトのような雰囲気に見えます。

その後も倉庫の持つ雰囲気に惹かれた人たちがレストラン、セレクトショップなどを続々と開店。施設の名前は、多孔質、穴だらけ(= porus)で吸収性、吸引力がある大谷石の性質からとって、その“穴”を人や出来事で埋めていける余地で溢れている場所、という想いから〈porus(ポーラス)〉と名づけられました。

記事はこちら:ビルススタジオ vol.06:大谷石の倉庫群にオープンしたニュースポット「porus(ポーラス)」

倉庫リノベその3 :〈SHINKOJIプロジェクト〉カフェ、シェアオフィス、イベントスペース

長野県長野市・善光寺門前の東町にある細い小路、新小路(しんこうじ)には計4棟の倉庫群があります。長野県の建築事務所〈シーンデザイン建築設計事務所〉ではそれらすべてをリノベーションする〈SHINKOJIプロジェクト〉を発足しました。

鉄骨3階建ての社屋と倉庫、土蔵を合わせて4つの倉庫群は、北棟と西棟、南棟と東棟を2社の不動産会社が運営管理していくこととなり、まずは第1弾として北棟のリノベーションに着手しました。

SHINKOJI北棟の1階は、新小路カフェ(写真上)、SHINKOJIホール(貸しホール)、2階はSHINKOJIオフィス〈SPACE06〉(シェアオフィス)、不動産会社の事務所、3階はSHINKOJIハウス(共同型賃貸住宅)という構成になりました。

長い間人通りが少なかった新小路には徐々に賑わいが戻り、新しい情報の発信源として活用されています。

記事はこちら:倉庫群の再生プロジェクト。シーンデザイン一級建築士事務所 vol.05

倉庫リノベその4 :〈SHINKOJIプロジェクト〉アトリエ、シェアオフィス

ひとつ前の事例で紹介した〈SHINKOJIプロジェクト〉によって、北棟のオープンに続き、西棟、南棟と次々と新しく生まれ変わります。南棟は、4棟のなかでも中心的な役割を担う建物として計画され、〈東町ベース〉という呼び名に決まりました。

〈東町ベース〉は、2階に不動産会社がオフィスを構え、3階の倉庫にストックした廃材や建具など使い、1階の作業場で職人たちが加工する「リノベ基地」へと変貌を遂げました。

「リノベ基地」は、倉庫内にリノベーションをサポートできるチームがいれば、入居を検討した際に気軽に相談ができるという考えから発足されました。

その後も、ヘッドアクセサリーなどを取り扱うお店や、ケータリングのセントラルキッチンなど、続々と出店者が決まりました。

記事はこちら:リノベが生み出す、未来。シーンデザイン一級建築士事務所 vol.06

倉庫リノベその5 :〈塒珈琲〉コーヒー焙煎所、オフィス

宮崎県日南市にある設計事務所〈PAAK DESIGN〉の鬼束準三さんはお父さんの長年の夢であるコーヒー店を開きたいと考えます。

リノベーションして使える物件を探していたところ、元焼酎工場の倉庫が見つかり、息子である鬼束さんが空間設計を行いました。

ロゴ、空間のコンセプト、デザインなどブランディングを一緒に決めていきながら全面ガラス張りのコーヒー焙煎所兼カフェ〈塒(ねぐら)珈琲〉が完成。通りを行き交う観光客や地域の方々が自然と入ってきてくれるお店になったそう。

コーヒー店がオープンした2年後、鬼束さんは独立することになりコーヒー店の2階に自身のオフィスを設立。打ち合わせなどでもコーヒーの味は好評のようです。

記事はこちら:焼酎工場の倉庫がコーヒー焙煎所へ。日南市・飫肥城下町の〈塒珈琲〉と〈PAAK DESIGN OFFICE〉

倉庫リノベその6 :〈ソシエダ〉会員制美食倶楽部

建築家の富樫雅行さんは、北海道函館市にある明治時代に建築された米穀海産物委託問屋〈旧松橋商店〉が解体の危機にあると相談を受けました。

倉庫に入ると、幅約9メートルの空間を支える大きな梁があり、彫刻が施された階段を上がると、立派な床の間のある広間があります。1階の奥には蔵前戸があり、さらに奥には土蔵が残っていました。

貴重な建物だとはわかっても復元には費用がかかるもので、外観の復元には函館市の景観形成住宅等建築奨励金制度を使い、総工事費1980万円の改修費のうち200万円を補填。

それでも本式の復元には相当なコストがかかるため、工費を少しでも削減できるよう当時の姿を模した“復元風”にリノベーションの方針を定めました。

建物を活用してくれる人を探しながら復元工事を行いましたが、完成後も入居希望者は現れません。

そこで、次の世代の誰かがここで何かを始めたいと思うそのときまで、まずは自分たちが楽しみながら時をつなごうと、スペインのバスク地方に伝わる会員制の美食倶楽部〈ソシエダ〉が完成しました。定期的に食事会が行われ、さまざまなイベントとも連携しているそうです。

記事はこちら:1枚の古写真を手がかりに明治初期の建物を復元。函館市〈港の庵〉

倉庫リノベその7 :〈早川倉庫〉イベントスペース

熊本県熊本市にある築140年の元酒蔵〈早川倉庫〉は、市街地からほど近い大型の木造倉庫です。使われていなかった2階部分のリノベーションを進めたのは、ミュージシャンの早川祐三さん。

いつかこの倉庫で何かしたいと、ひとりですべての工程をコツコツとフルDIYで倉庫のリノベーションを進めていきます。

転機となったのは、東日本大震災。チャリティーイベントを企画すると、眠っていた倉庫が新たなかたちで動き出しました。

イベントスペースとして少しずつ問い合わせが増えていき、残響がいいといった評判から、有名ミュージシャンのライブや大規模な展示会まで使用用途が広がっていきます。

今では、全国的なリノベーションのイベント「リノベーションEXPO JAPAN」の熊本会場としても使用されています。

倉庫が持つ圧倒的な存在感と空気感に早川さんの感性が混ざり合い、多くの人たちを惹きつける場所となったのです。

記事はこちら:木造倉庫が、演劇の舞台になる?歴史と現代の感性が行き交う空間。ASTER vol.7

さまざまな使用用途に展開できるのが倉庫リノベーションの魅力。総じてどの事例にもいえることは「人が集まる場所」をつくることに繋がった、ということではないでしょうか。

まだまだローカルには数多くの眠った倉庫が存在します。大空間を自分色につくり替え、ビジネスや遊びの場として再活用することは、よりよいまちづくりへの一歩になるはずです。