錫製品を手がけるメーカーが提供する人生に寄り添ったサービス

10回目の結婚記念日は錫婚式(すずこんしき)と呼ばれます。結婚25回目の銀婚式と50回目の金婚式は多くの人がそれぞれのかたちで祝いますが錫婚式を大々的に祝うことは、これまであまりありませんでした。その錫婚式を祝う1日をプロデュースしているのは、富山県高岡市で錫製品をつくるメーカー〈能作(のうさく)〉です。

錫100%の「ぐい呑」。

錫100%の「ぐい呑」。

富山県西部にある高岡市は銅器をつくる伝統産業が盛んです。大きなものでは大仏やお寺の梵鐘、小さなものでは仏具や茶道具などが17世紀からつくられてきました。

今では錫を使った食器や花器が有名な〈能作〉も、大正5(1916)年から銅を使った仏具や茶道具などを作ってきた会社です。

錫婚式の会場がある〈能作〉本社。

錫婚式の会場がある〈能作〉本社。

〈能作〉が錫製品を手がけ始めたのは2002年のこと。人の手でも曲げられる柔らかい金属、錫の特徴を生かし、現代のライフスタイルに合ったテーブルウェアや花器などスタイリッシュな製品を生み出しました。ギフトに選ばれることも多いですが、国内外の有名レストランでも使われるほど、高い評価を得ています。

その〈能作〉が2019年から提供しているのが、錫にちなんだ錫婚式です。錫婚式をプロデュースするきっかけとなったのは、結婚10周年の記念品を手づくりしたいと鋳物制作体験をする夫婦や錫婚式の記念として錫製品を購入する夫婦が複数いたことでした。

人生に寄り添うサービスのひとつとして結婚10周年という節目、錫婚式を祝う企画がスタート。2019年から約3年間で約100組もの夫婦が錫婚式を挙げに訪れました。

専用の会場

錫婚式は、専用の会場でセレモニーが行われたあと、昼食として富山の食を取り入れた料理を〈能作〉の錫の器に盛り付けて個室で提供。その後、錫製品の制作ワークショップを体験して朝から夕方まで家族がほぼ1日を過ごすプログラムが基本です。

9本のバラを夫がブーケに束ねて妻に渡す

10本目のバラは妻がブートニアにして夫に渡す

セレモニーでは、9本のバラを夫が、これまでの結婚生活を思い出しながらブーケに束ねて妻に渡し、10本目のバラは妻がブートニアにして夫に渡す「10フラワー(テンフラワー)」と名付けた〈能作〉オリジナルの儀式が行われます。

結婚式でも行う三三九度

結婚式でも行う三三九度。錫婚式では錫100%製の盃で行います。三三九度で使う3つの盃は、過去、現在、未来の意味を持つので、錫婚式では結婚してからの10年間、現在、そして家族のこれからに思いを馳せます。

夫婦は出席している家族に向けて誓約書

それから夫婦は出席している家族に向けて誓約書を朗読。錫の板に「誓いの刻印」を行って、ブートニアや刻印した錫の板をメモリアルボックスに入れて持ち帰ります。

ブートニアや刻印した錫の板をメモリアルボックスに入れて持ち帰ります

子どもがいる夫婦は「10フラワー」や「誓いの刻印」に子どもも参加。誓約書を読む場面では、子どもが感激して泣いてしまうという場面もよく見られるそうです。

子どもがいる夫婦は「10フラワー」や「誓いの刻印」に子どもも参加

ワークショップで制作する錫製品は、子どもでもつくれる錫の箸置きや、希望によってぐい呑みなど。30分から90分ほどで家族の日常に取り入れられて、錫婚式の日を思い返す記念品が出来上がります。

元々決まったかたちなどない錫婚式は、夫婦それぞれのオーダーメード。結婚式を挙げなかった夫婦が念願のセレモニーを行ったり10年前の結婚式では、洋装だった夫婦が錫婚式では和装を着たり、子どもを含めて晴れ着で写真におさまったり。一方で家族全員、カジュアルな装いで臨むという人もいるそうです。

〈能作〉の錫婚式

錫婚式を挙げる夫婦の多くは、遠方から観光で富山県を訪れその旅程の中に錫婚式を組み入れています。家族の絆が深まったとか、子どもが喜んでくれた、いい記念になったと感謝を綴った手紙が届くだけでなく、思い出の地として再び富山を訪れる家族もいて10周年の記念として行う錫婚式が家族にとって忘れられない時間となるそうです。

また、2022年10月から〈能作〉の錫婚式を北海道でも挙げられるようになりました。今後は全国各地に〈能作〉の錫婚式を展開していきたいとのこと。

結婚10周年の節目を祝う錫婚式。家族の節目に思い出をつくる人が今後も増えそうです。

information

能作(のうさく)錫婚式

住所:富山県高岡市オフィスパーク8-1

TEL:0766-63-0001(電話受付時間:9:00〜18:00)

Web:能作錫婚式サイト

writer profile

Saori Nozaki

野崎さおり

のざき・さおり●富山県生まれ、転勤族育ち。非正規雇用の会社員などを経てライターになり、人見知りを克服。とにかくよく食べる。趣味の現代アート鑑賞のため各地を旅するうちに、郷土料理好きに。