アイボリィアーキテクチュアの原崎です。vol.1、vol.2、vol.3では、横浜中心部にある特徴あるまちのなかで、それぞれのもつ歴史的背景、あるいは現状をベースにどのような空間のあり方があるか、その実践をいくつかご紹介しました。今回は、明治から官民のオフィス街として続く横浜・関内にある、新しいビジネスとその起業家を支えるインキュベーションセンターで行ったオフィススペースの内装計画についてと、そこにつながる神奈川の森のことを、お話したいと思います。

地域とつながるシェアオフィスのつくりかた

まず、この施設〈mass×mass関内フューチャーセンター〉(以下マスマス)について簡単に紹介します。みなとみらい線・馬車道駅にもほど近い中心市街地のオフィスビル内に、コワーキング、シェアオフィス、共用のワークショップスタジオをもつこのセンターは、2011年春に開設。現在70社を超える企業やプロジェクトが入居するワークプレイスです。こちらのクリエイティブディレクターである森川正信さんは、以前から親しくさせていただいていて、お互いの職場を度々行き来していました。そんななか2年前のある日、森川さんから、「ビル内の空き室にマスマスのシェアオフィスを増床することになったので、内装デザインを考えてほしい」とお誘いいただきました。さっそくその空き室を調査のために見に行くと、そこは、隣のビルが間近に迫り、壁にはひとつだけしか窓がないため、時間感覚を取りづらく、既存内装は賃貸オフィスの典型で、壁天井は白塗装、床はタイルカーペットとちょっと退屈な空間。

終日、日光のほとんど入ってこない空き室。

シンプル、ではありますが、いかんせん無機質で息苦しい空気感のこの部屋にどういったことができるのか……

ビルの規定上、内装施工に関しては「基本現在の内装仕上げを維持したうえで、できるものでなければならない」という、厳しいルールもありました。いわゆる通常の「原状回復義務」よりハードルの高いものです。

これらを勘案してぼくらは、家具を並べるようにワークブースを組み上げて並べる、もちろん既存の床壁天井にはビス止めなどの固定はしない方向性としました。また、一般の貸オフィスと比べて短いスパンで入居者が入れ替わることを想像して、状況に応じてワークブースはカスタマイズも可能ということを考えました。

初期の計画案の模型。

初期案は畳サイズのモジュールで木造架構を組み、入居者の必要な面積に合わせて柱と柱の合間に建具や間仕切りを入れて可変性をもたせる、というものでした。しかし、設計検討を進める最中に、事情により工事費を大きくカットすることになってしまったのです。

そのため、材料の造作や加工が多いものは省き、できれば施工は僕らやマスマスのスタッフだけでもできそうなものを再検討することになりました。

都心ヨコハマを支える山北町というところ

設計のリスタートをしたころ、森川さんから木材の調達先として「山北町の森林組合さんと知り合ったのだけど、ここの間伐材を使いませんか?」という投げかけがありました。「山北町って、神奈川県の一番西のほうだったな。でも、横浜からは遠いし唐突だな……」とすぐにはピンときませんでした。しかし詳しい話をうかがうと、ここには大きな社会課題がありました。

山北町は、40年ほど前にダムのある丹沢湖ができて以来、これが遠く離れた都心・横浜市の水源になっていて、湖を囲む山々の森林がもつ保水力はその水資源を保つ重要な役割を担っているということ。それが過去に行われた大規模な植林や、以降の木材需要の低下により、森が循環せず、土はやせて保水力がなくなり、さらには土砂崩れの原因になっていること。また、働き手が都心に流出したことによって地元で林業の担い手不足が深刻であること。

(マスマス山北プロジェクトHPより転載)

こういった状況のなか、山北町の森林組合では、過密植林により細く育ってしまった木を間伐する事業を行っています。こういった地域課題の発信、その先の解決にむけて協力させていただくという流れのなかで、今回ご厚意によりその間伐された丸太をいただけることに。しかし、板や角材に加工する“製材”は、製材所に依頼しなければならないということでした。幸い、製材所も近隣にありご紹介していただけるということで、さっそくみんなで現地に行ってみました。

神奈川県西、山北の森

横浜から車で1時間ちょっとで、深くて大きな足柄山地とその森が見えてきます。神奈川県内で都心からこんなに近く、こんなに自然のあふれた場所があることに、初めて気づかされました。

これは山北町の森のなかです。主にスギやヒノキが生えています。山道を通すために、道沿いの木から伐採していき、それが丸太そのものを運び出す道になっています。あらためて見ると、経済需要によって人工的につくられた森が人の手から離れてしまい、自然な木の生え方に見えないことに違和感があります。根っこが地面から浮いているところや、斜面の地崩れ跡を見つけると、このままでは危険な状態というのも理解できます。

続いて森林組合へ行くと、間伐された丸太が並んでいました。

本来まっすぐに育つのが特徴のスギやヒノキですが、間伐される木は細かったり曲がっていたりしていて、丸太1本あたりに取れるはずの、まっすぐな材木が少なく、製材の手間のコストパフォーマンスの悪さから通常の製材はされません。そのため、ここではぶつ切りにしてトラックに積んで森から運び出していました。このようにそもそも価値が少ないと判断されているものですが、森林組合ではこの丸太を加工してスツールをつくり近隣の小学校に木材を持ち込んで、地域教育の教材にしたり、ナタで割って薪にしたりと、さまざまな試みをされていました。

写真右の方は、山北町森林組合専務の池谷和美さん。かつてまちの支えだった森林で、まちの再興のために、日々、さまざまな実践をしながら活動されています。今回のお話も、まず山北町という場所を認知してもらいたい、そのために使えるものはできるだけ提供したい、ということでした。僕らはこの森林組合に置いてあるタンコロをいただいて、製材所に持っていくことに。ここで、池谷さんから「せっかくやるなら、間伐を体験してみないか」とお話いただき、いい機会なので間伐作業の方のご指導と立ち会いのもと、森に向かうことにしました。

間伐を体験してみる

まずは、間伐の印として紐が巻かれている木のなかで、倒しやすく運びやすい山道沿いに生えているものから順に見ていきます。やみくもに手前から切るのではなく、木の高さや生えている場所、切り倒す方向などを十分に検討したうえで1本ずつ手を入れていきます。

チェーンソーを入れるところにチョークで印をつけます。真っ二つに切るのではなく、水平と斜めに2か所切り込んで、その切り込み側に自然に倒れるようにします。いざ、伐採!

安全のため、合図のあとに倒し始めます。さあ倒れてきました!

無事、倒すことができました!ここから、枝を落として、トラックに積める長さの丸太に刻んで、

無事安全に終えることができました。オフィスの設計をしていたはずが、まさか自分たちで木材を伐採することになるとは……。ただ、いまではホームセンターで誰もがいつでも安く手に入る輸入木材が身近な存在であるなか、おおもとの丸太から始めること、国産の間伐材の背景にある自然や経済や社会の課題を知ったうえでその実態を体感すること、これらがベースになった「地域とつながるオフィス」はとても説得力のあるものになるはず。そう直感しました。このあとは続けて、これらの丸太をもって向かった製材所の話、と思いましたが、長くなってしまったので、次回に。

建築をつくるうえで、「材料を得る」という最も上流まで遡ったこのオフィスプロジェクト。次回は竣工に向け一気に下流に向かいます!

writer profile

IVolli architecture

アイボリィアーキテクチュア

永田賢一郎と原﨑寛明による建築ユニット。2013年より横浜を拠点に活動開始。建築設計をはじめ、インテリアやプロダクトのデザインからプロジェクトデザイン、インスタレーションなど建築にまつわる様々な活動に取り組んでいる。 永田賢一郎(ながた・けんいちろう):1983年東京都出身 横浜国立大学大学院/建築都市スクールY-GSA修了 KUUを経て2013年より活動開始。原﨑寛明:(はらさき・ひろあき)1984年神奈川県出身 横浜国立大学工学部建設学科卒業 オンデザインパートナーズを経て2013年より活動開始。http://ivolli.jp/

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メイン写真:加藤甫