だんだんズレていく、引っ越し計画

岩見沢の山間の美流渡(みると)に古家を見つけてから、1年半が経った。古家を私たちが改装中という話題は、地域の人たちにも広まっており、「いつ引っ越すの?」「改装終わった?」などと、顔を合わせるたびに聞かれることが多くなっている。

当初の目標は、息子が小学校に上がる4月。改装をするのは大工である夫。夫は最初、春には床と壁を張り終えて家の中にテントを貼って(?)、「キャンプでもなんでもして住みながら直せばいい」と語っていた。

しかし、私の本業である編集の仕事も忙しく、そうなると子どもの面倒を見るのはどうしても夫となってしまって、思うようにはかどらず。特に3月、4月は、子どもの卒業式やら入学準備やらで、あれよあれよという間に月日は過ぎてしまった。

いつの頃からか、夫は「引っ越しは、ゴールデンウィーク明けだな……」とつぶやくようになり(私に面と向かっては言わない)、家族の間でなんとなくの合意事項となっていった。4月に入り、息子は転居先にある美流渡の小学校へ通うようになり、通学は車。現在の自宅から30分かけて夫が送り迎えをする生活が始まっている。

そして、ついに目標だったゴールデンウィークが過ぎ、最近では「夏休み前だな……」と夫はつぶやいている。息子もだんだん心配になっている様子で、「とうちゃん、いつ家はできるの?」と質問すると「まだ、壊しているんだよ〜!」と夫。「えっ、つくってるんでしょ!」「いや壊してからなんだよ!」という噛み合わない会話になり……。

美流渡の古家のまわりには、芝桜やチューリップがたくさん咲く。前の住人が愛情をかけて庭をつくっていた様子がうかがえる。

家の前には壁や床をはがして出た木材が。薪ストーブに利用しようとしている。

夫がほとんどひとりで手がけている古家の改装は、いまようやく内部の壁や床をすべてはがし終わって、柱や梁だけの状態となった。築40年以上、壊し始めの頃は、堆積したほこりやリスやネズミの糞が凄まじく、夫は扁桃腺が腫れて1週間寝込むこともあった。

その後も、いろいろと思いがけないことの連続だったようで、梁があまりに複雑に組まれていたり、床をはがせば基礎部分の木が腐っていたりと、頭を悩ませる日々。「あの家は全部壊して新しく建て直したほうがいい」と、何度つぶやいたかわからない。

床板をはずした状態。すっかり躯体だけになっている。

湿気の多い部分は、床付近の木が腐っていた。家も少し傾いているようで、夫はこれから基礎を直すつもりのようだ。

近所づきあいが得意な夫は、資材や道具を賢く調達

ただ、なんとかそうしたことを乗り越え、いよいよ基礎を直す作業へと移ることになった!(壊すからつくるへ! 夫も機嫌が良くなっている!!)

私がとても感心したのが夫のネットワークの広さだ。基礎が沈んで傾いているところはジャッキで上げるのだが、そのジャッキは、古家があるまちの町内会長さんのところから借り、そのほかの道具はイラン人で貿易商の友人から借りてきた。

また、今年に入って仲良くなった市内にある建築資材会社の社長に木材を頼んだのだが、一部の材料は倉庫にあった在庫を譲ってもらったようだ。さらに移住前からすでに地元の消防団に入団しており、その関係からか、水道屋さんやガス屋さんとも親しくなっている。そして、近所のおばあちゃんの家の除雪などを手伝っていたようで、夫が古家で改装をしていると、いつもたっぷりお菓子やジュースを差し入れてくれるし、ひとりで改装をやっている姿を見かねて、手伝いに来てくれる人も。

ついつい改装はまだなのかと文句を言いたくなってしまうこともあるが、夫は家族や友人との関係を大切にしながら、自分なりのペースで進めているのかもしれないと、あらためて思った。しかも、私は近所づきあいがあんまり得意ではないほうなので、町内会や消防団とのつながりをつくってくれるのはありがたい。

“山活!”とともに“裏・山活!”も始めたい

いつ美流渡に移住できるのかはまだわからないけれど、一番楽しみなことは、裏に山が広がっているので、いつでも山遊びができること。この連載で何度か書いているように、移住先とは別の地区に買った山で遊ぶことを“山活!”と名づけたので、美流渡のほうは“裏・山活!”として、友人たちも誘ってみたいと考えている。

ふたつの山をどうするの? と突っ込みを受けそうだが、ひと口に山といっても植生も違って、生えている山菜や果物の種類もさまざま。買った山は、木が伐採されたあとなので、だだっ広い笹薮といった感じ。美流渡の裏山は、天然林が生えていて森になっているので、それぞれ比較しながら植物を観察するだけでも楽しいと思っている(ゆくゆくはエコビレッジにできたらという夢も持ちつつ)。

私と子どもたちは、のんきに“裏・山活!”などといって週末遊ぶだけだが、夫はこれからがいよいよ正念場。「基礎を直しているときに、この家が崩れたら、誰も助けにきてくれないよな〜」などと、ときどきブルーになりながら、たったひとりの改装奮闘記はまだまだ続く!

writer profile

Michiko Kurushima

來嶋路子

くるしま・みちこ●東京都出身。1994年に美術出版社で働き始め、2001年『みづゑ』の新装刊立ち上げに携わり、編集長となる。2008年『美術手帖』副編集長。2011年に暮らしの拠点を北海道に移す。以後、書籍の編集長として美術出版社に籍をおきつつ在宅勤務というかたちで仕事を続ける。2015年にフリーランスとなり、アートやデザインの本づくりを行う〈ミチクル編集工房〉をつくる。現在、東京と北海道を行き来しながら編集の仕事をしつつ、エコビレッジをつくるという目標に向かって奔走中。ときどき畑仕事も。http://michikuru.com/