引っ越しまでカウントダウン。改装は間に合うの?

わたしたち一家が古家の改装を続けている岩見沢の山間・美流渡(みると)に、頼もしいリノベ仲間がいる。この冬には、築50年以上経っているのではないかと思われる空き家を1軒取得。実際に家を直すという体験をしながら、友人たちとともに改修の勉強をしてみたいとリノベーションに乗り出している。

また、遅々として進まないわが家の改装状況を心配して、Facebookで仲間を呼びかけ手伝ってくれることもある。そして、なんとこの春には、さらなる改装に着手。美流渡の隣、毛陽地区の大きな一軒家をシェアハウスにしようと計画中だ。

こんなふうに書くと、どんな屈強な男性かと想像すると思うが、実は28歳の女性。この連載にも登場している、地域おこし推進員の吉崎祐季さんだ。

これまでインテリアデザイナーとして、家の内装をつくりかえたり家具をつくったりはしたことがあるが、大工さんのように本格的に床を張ったり基礎を直したりは未経験。けれど、困難な問題に直面しても、持ち前のバイタリティとDIY精神を生かして、どんどんリノベを進めていっている。

毛陽地区にある大きな一軒家。築40年以上でゆったりした間取り。2階には4室もある(8畳間と6畳間)。

広々としたリビング。壁や天井をつくりかえようと考えているそう。

改装前の部屋。どの部屋にも大きな押し入れがあって使いやすそう。

毛陽地区につくろうとしているシェアハウスの状況を見に行ったのは5月25日。吉崎さんも、このシェアハウスの入居者のひとりになっているそうで、今月中に引っ越さなければならないという待ったなしの状態。引っ越しの準備も考えると、すでに改修は終わっていないとまずそうな気もするが、まだ壁も床も完成していない状況。

「いろいろ実験しようと思ってやっていたら時間がかかっちゃって(笑)。シェアハウスなので防音が大切かなと、壁に断熱も兼ねてグラスウールを入れたり。畳を板張りにしたことがなかったので、それにも挑戦してみようと」

壁は珪藻土。漆喰よりも調湿性能が高いとされ、ざらっとした独特の味わいの壁になる。

壁には防音対策として遮音シートと石膏ボードを上張りし、さらに珪藻土を塗った。床下にも断熱材を入れたり、せっかくならと、どんどん構想が広がっていったそうだ。引っ越しのことを聞くと、さすがに顔を曇らせる吉崎さんであったが、それでも工夫した点について聞くと、楽しそうに話してくれた。

地域で新しい何かが生まれる場所にしたくて

ここをシェアハウスにしようという計画は、つい3か月ほど前に急に具体化した話だという。毛陽は美流渡の隣の地区だが、まちの成り立ちはずいぶん異なる。美流渡はかつて人口が1万人以上の炭鉱街。それがいまでは人口約400人となり、さまざまなところに空き家が点在している。

対して毛陽は、もともと人口はそれほど多くない農村地帯。空き家がほとんどないそうで、2年前にここが空き家となってから、入居を希望する人が多数現れたそうだが、大家さんはなかなか首を縦にはふらなかったという。

大家さんとしては、単に人に貸すのではない使い方を模索していたようで、あるときこの家を見た吉崎さんが、若者の住むシェアハウスにしてはどうかと提案したところ、「ぜひ進めてほしい」ということになったそうだ。

「下にはリビングと2部屋。上には4部屋あって収納も広い。最初にここを見たときに、一家族が住むには広過ぎると思いました。景色もいいし、市内にある北海道教育大学の学生たちがここに住んだら、広がりがあるんじゃないかと。学生が、この地区の農家でアルバイトをしてくれれば人手不足の解消にもなるし」

そこで、吉崎さんは知り合いだった教育大の院生である辻本智也さんにまず声をかけた。辻本さんは大学院で、スポーツ活動を通じた地域創生の研究をしており、院生でありながら〈Sports Life Design Iwamizawa〉という事業も立ち上げている。「スポーツを通じてまちづくりをしてみたい」という夢を持つ彼は、以前から美流渡や毛陽地区に可能性を感じており、吉崎さんからシェアハウスへの誘いを受けたとき、興味を持ったのだという。

「この地域がもともと好きだったし、ちょうどタイムリーでした。学費と生活費は奨学金を活用しながら自分で支払っている状態。これまでアルバイトをしていましたが、それを辞めて、4月に事業を始めたばかりだったこともあって、家賃が安いシェアハウスに移るというのは魅力的な話でした」

吉崎さんと辻本さんは、ゴールデンウィーク中に空き家の改修を集中的に行い、すでに辻本さんが使う部屋は、あとは入居を待つばかりの状態になっていた。また、今度は辻本さんが院生の知り合いに声をかけたそうで、もうひとり入居者も決定。狩猟採取を研究テーマとしている院生(山菜や野草の採れる地域に住みたいと思っていたそう)だという。

DIY女子と個性的な研究をする院生ふたりという、なにやらこれからおもしろいことが起こりそうなこのシェアハウス。あと1部屋空いているので、引き続き入居者を探しているそうだ(吉崎さんいわく、女子切望!)。

ただ、おもしろそうと思う半面、共同生活によるストレスを感じることもあるんじゃないかと吉崎さんにたずねてみると……。

「確かに細かいことが気になる性格の人には、もしかしたら辛いかもしれません。わたしは学生時代、バックパッカーで海外をめぐっていたことがあって、長期滞在するときはシェアハウスで暮らしていました。特に共同生活のルールはなくても、性別も年齢も異なる人たちが普通に暮らしていましたよ」

「天井はグレーで塗りました」と辻本さん。平日は勉強と仕事で大忙し。作業は休みの日に集中的に行った。辻本さんが立ち上げた〈Sports Life Design Iwamizawa〉は、子どもや障がい者など地域の人々に、さまざまなスポーツや自然に触れるアクティビティを提案する会社。ヨーロッパなど海外では馴染みのある運営形態だそうだが、日本ではまだ認知度が低いものなのだそう。

吉崎さんと辻本さんは、ここに住みながら、これからシェアハウスとしての運営を軌道にのせていきたいと思っている。大家さんは入居にあたって、ボイラーや水回りなどの整備をしてくれたそうで、この家の新しい門出に期待を寄せてくれていることを、ふたりは肌で感じている。

きっと単なる生活空間ではなく、いろいろな人が集い、過疎化が進むこの地域に新しい風が吹く、そんな場になっていくに違いない。自分たちのことだけでなく、この地域で何ができるのかを模索しているふたりならではのシェアハウス。エコビレッジをつくりたいと思ってこの地に移住しようとしているわたしにとっても、この新しい動きに大きく勇気づけられる想いがした。

writer profile

Michiko Kurushima

來嶋路子

くるしま・みちこ●東京都出身。1994年に美術出版社で働き始め、2001年『みづゑ』の新装刊立ち上げに携わり、編集長となる。2008年『美術手帖』副編集長。2011年に暮らしの拠点を北海道に移す。以後、書籍の編集長として美術出版社に籍をおきつつ在宅勤務というかたちで仕事を続ける。2015年にフリーランスとなり、アートやデザインの本づくりを行う〈ミチクル編集工房〉をつくる。現在、東京と北海道を行き来しながら編集の仕事をしつつ、エコビレッジをつくるという目標に向かって奔走中。ときどき畑仕事も。http://michikuru.com/