これまで5シーズンにわたって、持続可能なものづくりや企業姿勢について取材をした〈貝印×コロカル〉シリーズ。今回からは、刃物やキッチン用品などの商品企画・デザインを手がける貝印株式会社のスタッフが、コロカル編集部と共に日本全国の未来志向のクリエイターを訪ねて、ものづくりの技術から、デザインフィロソフィー、ビジネススキームの話まで引き出していきます。今回は、東京のデザイン会社〈TAKT PROJECT(タクトプロジェクト)〉を訪ねました。過去連載:第1回“おせっかいな”デザイナー〈minna(ミンナ)〉が語る、デザインの意味って?

「いちデザイナーとして社会とどう関われるか?」

かつて〈COMPOSITION(コンポジション)〉というプロダクトを見て、デザイン会社〈TAKT PROJECT(タクトプロジェクト)〉に興味を持ったという〈貝印〉商品本部デザイン室チーフマネージャーの大塚 淳さん。そこで大塚さんとともに、〈TAKT PROJECT〉の吉泉 聡さんを訪ねた。

吉泉さんはデザイン事務所の〈nendo〉に3年間勤めた後、メーカーである〈ヤマハ〉のデザイン研究所に5年ほど勤めた。その後、独立して2013年にTAKT PROJECTを立ち上げる。一方で貝印の大塚さんも、デザイン事務所から現在の貝印へと職場を移した経歴を持つ。ともに外部デザイナーからインハウスデザイナーへという共通の流れがあった。

「どの企業も同じですが、インハウスデザイナーはまずその会社の社員であることが前提。でもそれ以前に“いちデザイナー”として社会にどう関われるか? というところから考えてみたいと思っていました」と独立の経緯を話してくれた吉泉さん。

〈貝印〉商品本部デザイン室チーフマネージャーの大塚 淳さん(左)と〈TAKT PROJECT〉の吉泉 聡さん。

TAKT PROJECTでは、クライアントから受けた仕事以外に、自ら発信していくことを大切にしている。そのひとつが前述した〈COMPOSITION〉である。

〈COMPOSITION〉は電子部品と透明なアクリルを混ぜ合わせて固めたもの。電子部品同士は極細の特殊な電気導線で接続されており、家電としてきちんと機能する。「どこまでが素材で、どこからがプロダクトか?」という境界線への問いに対するプロトタイプである。

不思議な形だがちゃんと電気は通っているCOMPOSITION。

大塚さんはこのプロダクトの「異素材ミックス」に特に興味持った。

「貝印も来年110周年を迎える歴史のある企業です。これまでずっと刃物をつくってきたコア技術を使って、これから何を提案していくかを考える時期にきていると思います。たとえば、『COMPOSITION』を拝見したときに、当社の金属とほかの素材をミックスすることも可能ではないかと思いました。そのような広がりが今後必要になってくると思います」(貝印・大塚さん)

異素材が混合(=COMPOSITION)されたユニークなプロダクト。

「新しいものをつくるときには『どこまで戻れるか』が重要だと思っています。デザイナーが入れるのは、よくても企画からですよね。製造方法に入りこむことは難しい。しかし製造技術が決まっていると、当然つくるものがある範囲で決まり、企画も決まってくる。だから製造技術まで戻ってみると、すべてが変わる可能性があり、ビジネスモデルも変わる可能性があります」(吉泉さん)

逆にいえば、製造技術からデザイン的な視点を持って変えていかないと、本質的な意味では変わらない。それが「戻る」ということ。

「決められた枠の中では、おもしろいことは生まれにくいと思います。みんなが同じ目的なので」(吉泉さん)

ものづくりには「すでに価値観が決まっていることに対してより洗練していくこと」、「まったく違う価値観を生み出すこと」のふたつの方向性があるという。

前者は、少しずつアップデートしてよりよくなっていくこと。

「インハウスデザイナーは、本当に職人のようなスキルを持っている人が多いですよね。そのデザインを洗練させていくスキルには驚くべきところが多々あります。しかし洗練という価値観だけだと、その延長線上ではバリエーションしか生まれにくいというジレンマがあります」(吉泉さん)

「特にインハウスデザイナーだと、なんとなくわかっている領域内で解決法や方向性を探してしまいがち。実は答えもある程度わかっている」(貝印・大塚さん)

もちろんそれ自体は大切なことだが、新しいものは生まれにくい。しかし外部デザイナーだと少し役割が変わってくる。別のやり方もあったほうが広い目で見たらおもしろい。どちらがいいということではない。

一方、後者は提案型だ。これまでは課題に対するソリューションがデザインの大きな役割とされていたが、これからは課題そのものを提案していくこと、良質の課題を見つけていくことが大切だ。

「みんなが一生懸命に集中している場所から少しズレたところにも、いいものがあるはず。それを見つけてたくさんの選択肢をつくることができれば、より豊かな社会になると思います。それが課題発見です」(吉泉さん)

「たとえばあまり売れていない包丁があったとして、それは単純に使いにくいからという理由ではなくて、まったく違う場所に課題が潜んでいるかもしれない。そういう視点ですね」(貝印・大塚さん)

視点をずらすこと、フレームをずらすこと。そして延長線上ではなく、別の土俵をつくることも大切だということ。それが得意なのがデザイナーという職業であり、吉泉さんはそこにフォーカスした活動を行っている。

自由に染められるプラスチック家具

一例として〈Dye It Yourself(ダイ・イット・ユアセルフ)〉を紹介してくれた。吸水機能を持つ多孔質プラスチックを使って製作された家具は、プラスチックなのにあとから染めることができる。画一的な製品でも、染めによって、ひとつひとつ異なる表情をつけることができる。

「ワインなどをこぼすと当然染みてしまいます。そうした心配を見た人にされるのですが、よく考えると無垢の家具などは、染みたり、汚れたりもしますが、それも経年変化と呼ばれて、決してネガティブなだけではありません。でも、工業的プラスチックはそれが許されない。その線引きは何なのか。そこを考えるのがおもしろい」(吉泉さん)

大量生産品とクラフトの間をつなぐ、もしくはその境界線をズラしたものだ。「ふたつの関係性を再構築」している。

この〈Dye It Yourself〉もセルフプロジェクトのひとつである。TAKT PROJECTでは、積極的に発信を続ける理由をこう語る。

「クライアントから頼まれた仕事以外にも、自分たちだけで何かをやれるような状態にしておきたいと思っています。そうじゃないと、どちらにしろクライアントと組んだときにもいいアウトプットができません」(吉泉さん)

セルフプロジェクトは与えられたものではない。その発想はどこから生まれてくるのだろうか?

「普段の仕事などでは、どうしても超えられない壁があります。まずその壁がある理由を考えます。そこにはちゃんと理由があります。その理由を鑑みたうえで、それをこうしたら超えることができるかもしれない、という想像から始まります。それはソリューションではなく問題提起であり提案ですから、デザイン思考というよりも、ひょっとしたらアートと呼ばれるような領域かもしれません。そこに新しいデザインの役割を感じています」(吉泉さん)

こうした活動は、企業やクライアントへの返答ではなく、社会への訴えかけだ。

吉泉さんは美術系大学を出ているわけではなく、エンジニアリングを学んでいた。だからデザインとは、そもそも「形ではなく考え方だと思っている。これならできると思ってデザイナーになった」という。

「形から入るということはあまりなく、考え方の発見にもっとも時間を使います。一方でそれを形として提示できることがデザイナーの大きな強みだと思っており、チームとして形まで落とし込むのがTAKT PROJECTのカルチャーです」(吉泉さん)

インハウスデザイナーと外部デザイナーを行き来した両者が語る、それぞれの長所、そして課題。そこに新しい視点を与えることができるのは、それぞれを知るデザイナーなのかもしれない。

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TAKT PROJECT タクト プロジェクト

住所:東京都文京区白山1-33-15コンドウビル4F

TEL:03-6801-5463

http://www.taktproject.com/

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貝印株式会社

1908年、刀鍛冶の町・岐阜県関市で生まれた貝印は、刃物を中心に、調理器具、化粧小物、生活用品、医療器具まで、生活のさまざまなシーンに密着した多彩なアイテムを製造・販売。現在は、日本だけでなく、欧米やアジア諸国など世界中に製造・販売拠点を持つグローバル企業に発展しています。http://www.kai-group.com/

貝印が発行する小冊子『FACT MAGAZINE』

http://www.kai-group.com/factmagazine/ja/issue/3/

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Tomohiro Okusa

大草朋宏

おおくさ・ともひろ●エディター/ライター。東京生まれ、千葉育ち。自転車ですぐ東京都内に入れる立地に育ったため、青春時代の千葉で培われたものといえば、落花生への愛情でもなく、パワーライスクルーからの影響でもなく、都内への強く激しいコンプレックスのみ。いまだにそれがすべての原動力。

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撮影:岩本良介