4月29日に放送された『魔女の宅急便』も好評を博し、いよいよ今夜21時からの『金曜ロードショー』(日本テレビ)では、『崖の上のポニョ』がノーカット放送される。宮崎駿監督の圧倒的な異才が躍動し、“絵が動くことによる快楽”というアニメーション本来の魅力を改めて強く印象付けた興行収入155億円の大ヒット作だ。5歳の少年・宗介と、宗介のために人間になりたいと願う魚の子・ポニョの冒険がファンタジックに描かれるが、ふたりを見守るそれぞれの両親の存在も欠かせない。本作では宗介の両親役の山口智子&長嶋一茂、ポニョの両親役の所ジョージ&天海祐希も大きな注目を集めた。思えばジブリ作品では、数々の作品で、印象深いキャスティングによる両親キャラクターが主人公の行く末を見つめてきた。今回は『崖の上のポニョ』とあわせて、いくつかのジブリの“両親”を演じた声優陣を、印象的なセリフとともに振り返ってみたい。

■『となりのトトロ』サツキとメイの両親=糸井重里×島本須美

お父さん「メイはきっとこの森の主に会ったんだ。それはとても運がいいことなんだよ」
お母さん「退院したら、今度はあの子たちにうんとワガママをさせてあげるつもりよ」


 “ジブリ作品の両親キャラ”と聞くと、本作のこのふたりを思い浮かべるファンも多いのではないだろうか。病気で療養中の優しく穏やかな母と、妻がいない間、里山の古い家でふたりの娘と暮らす大学非常勤講師の父。母役は宮崎作品『ルパン三世/カリオストロの城』『風の谷のナウシカ』でヒロインを演じた島本須美で、その穏やかな声色からは、娘たちを想う慈愛が伝わってくる。父役は、声優初挑戦だったコピーライターの糸井重里。素朴ながらも優しさを感じさせる声の風合いは、声が持つ自然な存在感を求めた宮崎監督こだわりのキャスティングのたまもの。以降の“専業声優を使わずに俳優を起用する”先駆けともなった。

■『耳をすませば』月島雫の両親=立花隆×室井滋

雫の父「人と違う生き方は、それなりにしんどいぞ。何が起きても誰のせいにもできないからね」
雫の母「ごはんのときは、ちゃんと顔を出しなさい。家族なんだから」


 “演技を生業としない文化人キャスティング”として、前述の糸井と並ぶ素朴さを披露しているのが、昨年逝去した“知の巨人”、立花隆。バイオリン職人修行にイタリアに旅立つ想い人・聖司に触発され、将来に迷いながらも小説執筆に没頭する主人公・雫の父役を演じて、登場シーンは少ないながらも、観る者の人生観にも影響を与えるようなセリフに説得力をもたらしている。雫の母を演じたのは、実力派女優の室井滋。芯が強いながらもおっちょこちょいというパブリック・イメージそのままに、社会人学生として大学院に通っている設定のキャラクターを演じている。

■『千と千尋の神隠し』荻野千尋の両親=内藤剛志×沢口靖子

お父さん「なんか匂わない? ほら、美味そうな匂いがする」
お母さん「いいわよ、そのうち来たらお金払えばいいんだから」


 他の作品の両親たちとは逆に、観客がまったく共感できない“反面教師”として登場するのが、内藤剛志と沢口靖子の“科捜研コンビ”(テレビ朝日系『科捜研の女』で共演)が演じた、主人公・千尋の両親。道を間違ったにもかかわらず、四輪駆動車であることを過信して悪路を爆走して引き返そうとしない父と、転校で感傷に浸る娘に寄り添おうともしない母。挙げ句、無人の飲食店で勝手に料理を食べ始めて巨大な豚に変わってしまう始末……。千尋が異世界に引き込まれてしまった元凶とも言えそうだが、ネットユーザーが称する彼らの“クズ”ぶりがあるからこそ、彼女の冒険がひときわ輝いて見えるのかもしれない。

■『借りぐらしのアリエッティ』アリエッティの両親=三浦友和×大竹しのぶ

ポッド「挑まなくていい危険というものもある」
ホミリー「3人でまた素敵な新しいお家を作りましょう」


 現在はスタジオポノックに所属する米林宏昌が、ジブリ歴代映画としては最年少として初監督を務め、宮崎駿が企画と共同脚本を手掛けた本作では、主人公アリエッティのみならずその両親も、メインキャラクターとして物語に大きく絡んでいる。演じたのは、三浦友和、大竹しのぶという日本を代表する名優ふたり。寡黙ながらも、一家の長、そして小人という種全体の存亡を考える冷静沈着な父ポッドと、心配性ながらも家族想いの母ホミリーの絶妙なバランス感を成立させている。ふたりのセリフからは、人生において大切な“具体的なこと”と“概念”が浮かび上がってくる。

■『かぐや姫の物語』かぐや姫の育ての両親=地井武男×宮本信子

翁(おきな)「ひーめ! おいで! ひーめ! おいで! ひーめ! おいで!」
嫗(おうな)「あんな美しい娘になるよって、天が前もって見せてくださったんですよ、きっと」


 “名優キャスティング”なら、高畑勲監督の遺作となった『かぐや姫の物語』は外せない。月へ帰ることになる絶世の美女、かぐや姫を竹やぶで見つける“育ての親”の老夫婦を、故・地井武男と宮本信子が演じている。姫へのたっぷりな愛情、そして、農村出身の身の丈に合わない高貴な生活に成り上がってしまうというある種の愚かさ。それらが入り交じったキャラクター性を実現させている、ふたりの名演が出色だ。映画の完成を待たずして地井が他界したことから、三宅裕司が一部のセリフと息づかいを担当したことも話題となった。


■『崖の上のポニョ』宗介の両親=山口智子×長嶋一茂/ポニョの両親=所ジョージ×天海祐希

リサ「どんなに不思議で、嬉しくて、驚いてても、今は落ち着くの、いい?」
耕一「女の子だ! 宗介と同じぐらいの子だ!」


フジモト「あんな忌まわしい生き物のどこがいいのだ。人間は海から命を奪い取るだけだ」
グランマンマーレ「ねぇあなた、ポニョを人間にしてしまえばいいのよ」


 そして今回放送の『崖の上のポニョ』では、ふた組の両親が登場する。船乗りの夫が長期不在にする中、キビキビした動き(放送される度に“危険運転”とネットを騒がせるが 苦笑)でひとり息子を育てる母リサと、そんなふたりを朴訥ながらも純粋に想う父の耕一。女優業に本格復帰してから数年の山口と長嶋が、お茶の間でのイメージにぴったりな熱演を披露している。

 一方の父フジモトと母グランマンマーレは、所ジョージと天海祐希。かつて人間でありながらも、その破壊性に嫌気が差し、今は海に仕える者として生きているのがフジモト。これもまた、浮世離れしてひょうひょうと暮らす(ように見える)所ジョージとのマッチングがぴったりだ。天海祐希の深みを持つ声の低音の響きも、海全体の美しき女神であるグランマンマーレの神秘性を大いに醸し出している。

(文:村上健一)