映画化もされた『死の棘』の作者、島尾敏雄の短編小説『島の果て』や、妻であり作家の島尾ミホの『海辺の生と死』の内容を基にしたラブストーリー『海辺の生と死』。本作で、満島ひかり演じる奄美群島・加計呂麻島(かけろまじま)に住む国民学校教員・トエと恋に落ちる海軍特攻艇部隊の隊長・朔中尉にふんする永山絢斗。これまでも数々の出演作を経験している永山が「贅沢ですごく素敵な現場。鳥肌が立つような初めての経験をたくさんした」としみじみ語り撮影を振り返った。

 文学的かつ神秘的な世界観を持つ本作。台本を読んだ永山は「父が鹿児島の人なのですが、やっぱり奄美って違う国の印象で、描かれている抽象的な言葉やカタカナで書かれた歌詞など、なかなかイメージができなかった」と素直な感想を口にすると「これは東京で読んでいても話が進まないと思って、クランクインの数日前に坊主にして島に入ったんです」と語る。

 理屈抜きに島に身を置くことで感じようというスタンス。「加計呂麻島にいったり、(特攻兵器である)震洋をみたり、島尾さんのお墓を掃除したり、奄美の島尾敏雄記念室にいったり……いろいろなところに僕が演じた朔中尉を知るピースが落ちているのはとても助かりましたが、一方で余計にわからなくなる部分もあったんです」と苦笑いを浮かべる。

 これまでも数々の作品に出演しているが「作品や対峙する人たちによって役へのアプローチは違いますが、実在する人物を演じるのは初めての経験であり、しかも不思議な島での撮影。怖い部分も多かったので、あらかじめ勉強していくことが悪い形にはならないだろうと思ったんです」と自身にとっても新鮮なスタンスだったという。

 島の持つ神秘さ、そして特攻という任務を課せられ“死”が隣り合わせになっている極限の状況。そこで出会ったトエという女性。「満島さんとは以前にも共演したことはありましたし、知っている女優さんでしたが、今回奄美に入って彼女に会ったとき、僕がみたことがない顔、完全に島の人の顔になっていました」と衝撃を受けたという。

 続けて「朔からの手紙をもらうシーンや、家のヘリのところに足の先っちょを落として遊んでいるシーン、手紙を透かして読んでいるシーンなど、その時代の一人の女性としている感じがして、改めて素敵な女優さんなんだなって思いました。そこに引っ張ってもらえて、とにかく自分は柔軟にいようって強く思う撮影でした」と振り返る。

 永山にとってもう一つ驚いたことが、島の持つ力だという。「割と順撮りで撮影をしていただいたので、戦争が近づき、自分の命もあとわずかという苦しみも自然に感じられたし、とてもありがたかったんです。同時に、島の流れで撮影をしないといけないんだということも強く感じました。『まだ今はダメだぞ』って本当に言ってくるんです。初めての経験でした。鳥肌が立ったぐらいです。神様が宿っているって感じました」。

 海軍特攻艇部隊という、まさに死が間近にある場所で出会った恋。永山は連続テレビ小説『べっぴんさん』でも家族を残して戦争にいく青年を演じていたが「写真集などで残されている当時のものをみると、みんな剃り込みとかもすごくて正気の沙汰ではいられない気持ちなんだろうなって思いました。酒を飲んだところで収まらないだろうし、伝えたい人にも言葉が届くような時代でもないし、当時の人たちを考えると、苦しくなります」と強く感情移入する部分も多かったという。

 「自然のなかに身を置いてみて、改めて島の持つ力だったり、子どもたちの笑う姿をみて『人ってこうやって笑うんだよな』とか当たり前のことが再発見できました」と語った永山。撮影の仕方にもこだわりを持って臨んだチームだったようで、「良いものを撮ろうという気持ちがあって、普段だったらカメラに映らない部分には、人がいたり物が置いてあったりするのですが、そういう部分もできるだけ自然の状況に近づける配慮をしていただいたことで、いつもの集中力とは違うところにいけた瞬間もありました。それを積み重ねていくと、自分の顔も変わっていくのがわかったんです」と特別な経験ができた現場だったこと笑顔で語ってくれた。(取材・文・写真:磯部正和)

 映画『海辺の生と死』は7月29日全国順次公開。