俳優の役所広司と西川美和監督が初タッグを組んだ映画『すばらしき世界』で、女優の長澤まさみが、人生の大半を刑務所で過ごした主人公を番組のネタにするテレビプロデューサーを演じている。単なるヒールにとどまらず、テレビマンとしての確固たる信念もうかがわせる圧巻の演技力が見どころだ。

 直木賞作家・佐木隆三の小説『身分帳』を原案とする本作は、人生の大半を獄中で暮らし、出所して改めて日常社会と向かい合った男の生き様を描く。西川監督が実在の人物をモデルとした原案小説をもとに、舞台を現代に置き換え、徹底した取材を通じて脚本・映画化に挑んだ。

 主演の役所は、長い刑務所暮らしで社会から“置いてけぼり”を食らいながらも、真っすぐすぎる性格とどこか憎めない魅力で周囲の人々とつながっていく三上正夫役を演じる。

 長澤演じるテレビプロデューサーの吉澤は、若手テレビマンの津乃田(仲野太賀)に、13年ぶりに出所した三上正夫(役所)をテレビ番組のネタとして取材するようたきつける。乗り気ではなかった津乃田は言われるがままに三上に近づき取材を敢行。吉澤はその密着映像を目にするなり、不敵な笑みを浮かべる。三上と対面するや、本音と建前を使い分け、言葉巧みに三上をそそのかそうとする。

 “この役には長澤まさみしかいない”と思ったという西川監督は「(長澤さんは)年齢と共にどんどん幅が広くなっている。もちろん、画面的にもNo.1の美しさだと思います。きれいな女優さんであればあるほど、なかなかヒール役(悪役)を受け入れることに時間がかかると思うんです。でも今の長澤さんなら、これくらいの悪役は、跳ね返してやってくれるだろうなと思ってお願いしました」と語る。

 長澤は、西川組と役所の芝居に対する姿勢に触れ、「常に緊張感があり、コツコツと積み重ねる仕事だと改めて思った」「求められているものが、どんどん明確になっていくのが楽しかった」と現場を振り返る。

 また、「台本はのめりこむようにあっという間に読んでしまいました、時代の流れと共に変わっていく人間の感覚について考えさせられましたね。(出所したばかりの三上は)時代錯誤な人に感じられるけど、そういう時が経ったことに気付いていない人はじつは世の中には沢山いると思います」と思いをはせた。

 役所演じる三上については「どこか愛らしくて可愛らしい一面があるので、(観客は)感情移入していけると思います。過激なシーンもあるんですけど、それがクスクス笑えるシーンになるんです。お芝居を重ねるうちに三上の別の顔をもっともっと観たいと思っていました。西川監督の作品に出てくる男性たちは、どこか欠点があって、完璧でない部分が人間らしさにつながっていると思います」と語る。

 一見、吉澤というキャラクターは、利益のためならいとわない下世話さや冷徹さが前面に出ているが、実は彼女の放つ言葉には、社会の不寛容に憤りや問題点を感じ、世の中に一石を投じてやるとの確固たる信念もうかがえる。せりふの端々にテレビマンとしての誇りも感じさせるのだ。“才色兼備の切れ者”吉澤がただのヒールでは収まらないのは、長澤の演技力のたまものにほかならない。

 また今回、長澤がナレーションを担当する15秒スポット映像<ドラマ編><問題作編>も解禁。<ドラマ編>は、「今ほど生きづらい世の中は無いと思うんです」という吉澤(長澤)の言葉から始まり、13年ぶりに出所した三上が社会で新たな一歩を踏み出す姿が映し出される。

 <問題作編>では、「俺はとうに足を洗ってる!」という三上の怒号が鳴り響く。13年ぶりに出所して社会のルールにとまどう元殺人犯。そんな三上を番組のネタにしようと、テレビマンの津乃田(仲野)と吉澤(長澤)がすり寄るが…。

 映画『すばらしき世界』は、2月11日より全国公開。