数々の国際映画祭で受賞を重ねてきた池田暁監督初の劇場公開作品『きまじめ楽隊のぼんやり戦争』(公開中)より、主演の前原滉、共演の矢部太郎と片桐はいりのインタビューが到着。公開後、SNSで「斬新&風刺全開の傑作」「今までの日本映画になかったタイプの映画。ユーモアやメッセージ性が、まるでロイ・アンダーソンやカウリスマキ」「病みつきになるような不条理な笑いが面白くもあり恐ろしい!」と話題を呼んでいる本作だが、独特の池田ワールドを体現した演技の裏側や、お気に入りのシーンなどを明かした。

 一本の川を挟んで「朝9時から夕方5時まで」規則正しく戦争をしている二つの町。川の向こうの太原町をよく知るひとはいない。だけど、とてもコワイらしい。そんな津平町に暮らす真面目な兵隊・露木がある日突然言い渡されたのは、音楽隊への人事異動だった。明日からどこへ出勤すればいいのやら…。そんな中、偶然出会った向こう岸の音楽に、露木は少しずつ心を惹かれていく。一方、町では「新部隊と新兵器がやってくる」噂が広がっていて―。

◆悪戦苦闘!? “抑えた芝居”に挑んだキャストの本音

――大変独特な作品ですが、池田監督の世界観に初めて接されたときはどのように思いましたか?

片桐はいり(以下、片桐):こういう世界なのか、これはなかなか難しいな、と思いましたね。

前原滉(以下、前原):どういう形になっていくのか分からなくて。

片桐:そう、本番が終わっても分からなくて。東京フィルメックスで初めて観て「こういうことだったのか」と分かったの。でも面白かった。お客さんや審査員や監督や外国の方もいっぱいいる中で観たので、すごく緊張したけど(笑)。

前原:定食屋のシーン、すごく笑い起きてましたね。

片桐:嘘ですよ! え、私緊張してたから分かってない?

前原:一番最初に笑いが起きたのがあそこでしたよ。

片桐:前原さんのキャラの芯がちゃんと立ってて、こうなるんだってやっと分かって、びっくりしました。映画って全部出来上がるまで分らないんだけど、これほど想像と違う映画は初めてでした。

前原:僕は最初にシナリオを読んで、そのあとに監督の過去作を観させて頂いたので「あ、こうなるんだ、じゃあきっとこんな感じの演出なのかな」と思ったんです。ホンを読んで「こうやって演じるのかな」と思った今までのセオリーが覆ったんです。自分の引き出しにはない会話の方法というか。普段は感情を出していくお仕事が多いので、感情を抑制することに驚きました。それで、僕は逆に「あ、やってみたい。楽しそうだな」と思いました。

矢部太郎(以下、矢部):あの…皆さんは過去作品をご覧になっていたんですか!? 僕も台本は頂いていたんです。でも台本も普通じゃないっていうか。

前原:そうですね。普通じゃない(笑)

矢部:あれあれ? と思って、検索したんです、監督の過去作品を。予告編だからこういう感じなのかな…と思っていて。現場に行ったら前原さんや今野(浩喜)さんがああいう(感情を入れない)演技だったので、そこで急いで調整して…。

片桐:(爆笑)急いで調整ってなにをしたの? そんなに普段と変わってる印象ないんですけど(笑)。

前原:僕も矢部さんはナチュラルキャラ生かすんだなと思って見てました!

矢部:リハーサルの初めに「特に何もしないでください」って言われて、「そうですね」と言ったんですけど……何もしないって、ぼくできないから……。

片桐:前原さんはいろんなパターンの人が来るのを見てたわけでしょ? (感情を)「抑えて抑えて」とか「もっと上げて」とか監督が言ってるのを見てどう思ってました?

前原:確かにいろんなパターンの人がいらっしゃいましたね。同世代の方だったら一緒に何か話せるんですけど、名だたる方々ばかりなので、何も言えず…。

矢部:え、「矢部さんもっと抑えたほうがいいな」とか思ってました?

前原:いや、全然(笑)。僕は監督がどういう反応するのかな、と見てただけなんです。そしたら、なにもおっしゃらなかったんで、あ、矢部さんはこのまんまなんだな、と思ってました。

矢部:すごく調整してるんですよ!

片桐:ほんとですか(笑)。

前原:演技を抑えることと戦ってる方と、そうじゃない方がいらっしゃいましたね。

片桐:完成した映画を観たら、そんなにみんな一緒じゃないものね。監督の前の作品から出ていらっしゃる
方々ともまたちょっと違いますよね。それぞれがちょっとずつ凸凹で。それぞれの解釈でちょっとずつ違うから面白い。

矢部:統一されてないから面白いんでしょうね。

――きたろうさんは「すごく抑えた」とおっしゃっていたそうです。

片桐:前作(『化け物と女』)に比べたら、ずいぶん自由にされてて「あれ、違うじゃないですか!」と思いました。私はきたろうさんをベースに考えてるところがあったので、きたろうさん、こういうふうにやるんですね、と思ってたのに!

前原:きたろうさんは、まず最初は(大きめに演技を)出して、それから抑えて、と調整してましたね。池田監督は大御所の方だろうと、僕だろうと同じような言い方をなさるんですよね。

片桐:私も、押したり、出したり、引いたり…いろいろ言われました。分からないから、まずは出してみて、言われたら引っ込めて…って感じで。ごはんをよそったりもしなきゃいけなかったから。

◆ワンアイデアでは終わらない“飽きない”面白さ

――完成した映画を観てどういった感想を持たれましたか。

矢部:僕は現場でも見ていて面白かったんです。受付での今野さんのシーンとか。本編を観たら鉛筆が転がってるカットとか、現場で見ていたもの以外が入るとまたさらに面白いんですよね。

前原:僕は新しいと思いました。それが好きか嫌いか、は分かれると思いますけど、僕は好きだったんです。皆さんが抑えていらっしゃるから、想像できるところがあって面白かった。その解釈の広さが良さなんじゃないか、と個人的に思いました。

片桐:まず、びっくりしましたね。ワンアイデアっていう印象になりそうなのに、どんどん面白くなる、飽きない。それに作りこまれていて、前原さんが演じる露木のキャラクターに芯があって、そこに吸収されていく。ちゃんと感情が揺さぶられる。登場人物があまり感情を見せない分、観てるほうが悲しくなったり寂しくなったり、「矢部さんかわいそう」とかいろいろ思う部分が多いのが面白かった。川の向こう岸に対して、勝手に色んな思いが沸きますよね。「こんな問題があります!」と見せられたら、それしか考えないけど、勝手に妄想できるから、気持ちが揺さぶられるのかな。

前原:押しつけがないから想像できるんでしょうね。

片桐:最後のトランペットのシーンとか、なんだか悲しくなって泣きそうになっちゃった。矢部さんのシーンも笑えるんだけど、可哀そうな演技じゃないんだけど可哀そうになったり。そういうところが面白かった。押し付けられないから自由に楽しめたのかな。

◆世の中あらゆるところに不条理がある———いつ観ても「今」を感じさせる物語

――どこの時代とも場所とも設定されていないけど、現代社会を彷彿させます。

矢部:やっぱり想像させられるから、時代に囚われないのかな、と思います。今観ると現代みたいだし、もうちょっと経って観てもやっぱり「今みたいだな」と思っちゃうんでしょうね。

前原:戦争だけでなく、誰かを攻撃することって時代が違っても同じで、なぜ誰かを攻撃するんだろう、いまならなぜSNSで誰かを中傷するのか、とかどの時代のどういう場面にも通じるから、現代社会にも繋がるんだと思います。

片桐:ちょっと古めのほっとするような世界観なんだけど、ちょっとしたことが今の自分の思ってることにマッチする、気づきがあるんだと思う。笑いとして見せてるけど、「実は私もまさにそういう風に思ってましたよ」ってことが結構あるのかも。

前原:多いですよね。男女のこと、会社の形、上司と部下の形とか…。

矢部:町長の感じとか…。

片桐:いまコロナ禍だから決まったことを決まったようにしかできないでしょう。「パンを4つに切って」とお願いしたら「2つにしかお切りできません!」とか(笑)世の中あらゆるところに不条理がある。映画ではコメディとして描かれて笑って観てるけど、これっていま起きてることだな、と思ったり。

◆お気に入り&思い出深いシーンを明かす

――前原さんがおふたりのシーンで気に入っているところを教えてください。

前原:矢部さんは、とにかく兵舎に入れないところですね。なんでこの人いつまでも入れないんだろうって
気の毒になっちゃうんですけど、そこが面白かったです。

矢部:受付の人とのやり取りとかね。

片桐:そういう人たちがすごく面白いよね。ずっとお尻蹴ってる人とか。

矢部:あの蹴る人も面白いですよね。

前原:使われなかったシーンなんですけど、僕と今野さんが1分以上正対して向かい合って座ってて、奥で片桐さんがずっと食事の準備して、重たいお盆を持ってやってくるんです。重いからプルプルしてるのが視界に入ったらもう面白くて笑っちゃって。最初は大丈夫だったんですけど、今野さんが途中で「片桐さん、大変そうだな。すごい震えてるよ。大丈夫かな」とか言ったんですよ。そしたらもう笑いが止まらなくなっちゃって。

片桐:奥でずっと準備して、持ってきて、ってのを全部撮ったんですよ。使われてるのは、置いたところだけ(笑)。私が一番気を使ったのはお盆を置くところ。雑味を出さないように、そうっと手を出して二つのお盆を置くことに気を使ってたの。毎回、ごはんの準備が大変なんだよねぇ。

矢部:毎回ごはんの準備からなんですね。その見つめ合ってる時間、もう一回見たいです。それを知った上で。

前原:そのシーン、本編にないんですよー。どこかで見られるといいですね。

片桐:あのシーンはものすっごい重労働だった…それしか覚えてないってくらい(笑)。

 映画『きまじめ楽隊のぼんやり戦争』は公開中。