コーヒーライターのヴォーンさんが愛する
日本のコーヒー時間


現在、日本でモデル兼コーヒーライターとして活躍中のヴォーンさん(写真左)。都内を中心に、日々、最新のコーヒーショップやカフェをリサーチし続けている。

 居心地の良い空間で、丁寧に淹れられた一杯のコーヒーを、時間をかけてゆっくりと味わう。そんな、日本らしい趣のある喫茶文化に惚れ込んだ、ひとりのコーヒーラヴァーがいる。それが、世界でも有数の「カフェの街」として知られるオーストラリア・メルボルン出身のヴォーンさん。

 現在、東京でモデル兼コーヒーライターとして活躍している彼は、多いときには1日に10軒ものカフェを巡りながら、自らの舌で味わい捉えたコーヒーの最新トレンドを、SNSやウェブメディアを通じて発信している。


ヴォーンさんが愛する、心和む喫茶時間がゆったりと流れる「茶亭 羽當」。

 これまでに1000軒以上のカフェを訪れたという彼の目に、日本のコーヒー文化はどのように映っているのだろうか。ヴォーンさんが「マイホーム!」というほどに親しみを感じている、お気に入りの喫茶店で話を伺った。

自然と足が向く
我が家のようなコーヒースポット

 渋谷は宮益坂の裏手にひっそりと佇む「茶亭 羽當」。あの「ブルーボトルコーヒー」の創業者兼CEOのジェームス・フリーマン氏が「日本でもっとも好きなカフェ」としてその名を公言するなど、世界のコーヒー通が注目する老舗喫茶である。


宮益坂下で1989年から営業を続け、今では国内外からコーヒー好きが集う名店に。温もりを感じるレトロな外観を写真に収める観光客の姿も。

「2日に一度は必ず来ています(笑)。いつも2〜3時間いて、パソコンで仕事をしたり、本を読んだり。美味しいコーヒーを飲みながら、とてもリラックスできる場所です」


バリスタ暦10年の天野 大さん(写真右)とは、共通の趣味である音楽の話で盛り上がるなど親しい仲。「ハトウはマイホーム!」と笑顔を見せるヴォーンさん。

 通い始めて4年、今ではすっかり常連となり、バリスタと気さくに声をかけ合う間柄に。そもそも羽當を知ったきっかけを尋ねると、ユニークな裏話を聞かせてくれた。


一杯のコーヒーが、人や場所など、かけがえのない存在との出会いをもたらすことも。

「もともとコーヒーが大好きで、10年ほど前に東京で暮らし始めてから、趣味でカフェ巡りを続けていたんです。次第に、美味しいコーヒーが飲めるお店にも詳しくなり、それを紹介するブログを始めました。そんなある日、渋谷の街中で僕が大ファンのアメリカのミュージシャンを偶然に見かけました。何やら困っている様子だったので、思い切って英語で声をかけたところ、彼らは『日本で有名なHATOUというお店を探している』と……。(ハトウって!?)。お恥ずかしいのですが、コーヒーブログまでやっているのに、僕はまだその有名店の名前すら知らなかったんです。東京のカフェ文化の奥深さを感じましたね。地図を見ながら、彼らを案内して連れてきたのが初来店になりました」

コーヒーを味わうための
スペシャルな空間

 初めて足を踏み入れた瞬間、ヴォーンさんが心を奪われたという羽當の店内は、重厚な木の質感を感じさせる机や椅子に、アンティークの装飾品や絵画などが飾られた、レトロで味わい深い空間。


店内でもとくに目を引く植物のアレンジメントは、バリスタがセレクトし、定期的に飾り変えるというこだわりよう。

「最近のコーヒーチェーン店の内装はとてもシンプルなものが多いですが、ここにはオリジナリティ溢れるインテリアが揃っていて、見ているだけでもワクワクするんです。こんなスペシャルな空間の中で、ゆっくりとコーヒーを味わう文化が日本に存在することに感動します」

一杯のコーヒーから垣間見える
日本のこころ

「10歩進めばカフェにあたる」と言われるほど、街のあちらこちらにカフェがあり、コーヒーが人々の暮らしに浸透しているメルボルンで生まれ育ったヴォーンさん。そんな、世界屈指のカフェの街からやってきた彼は、日本のコーヒー文化をどのように捉えているのだろうか。


美味しいコーヒーはもとより、バリスタとの会話を楽しむこともまた来店の楽しみのひとつ。

「日本には、喫茶店からチェーン店まで、さまざまな種類のカフェがありますが、どのお店も、一杯のコーヒーにかけるサービスがとても丁寧だと感じます。例えば、メルボルンはコーヒーの美味しい街として有名ですが、ラテを頼んだとしたら、まずエスプレッソを淹れる人とそこからラテに仕上げる人が別の場合もあって、一杯に数名の担当がついて流れ作業で慌ただしくコーヒーを淹れる光景をよく見かけます。そういう点で、目の前にいるお客さんのために、1人のバリスタがつきっきりでコーヒーを仕上げる日本のサービススタイルには、とても親切な心遣いを感じます」


左:ゆっくりと時間をかけて、丁寧にネルドリップするバリスタの姿を眺めながら、コーヒーができ上がるのを待つ時間も味わい深い。
右:店内の棚には、それぞれデザインの異なるカップ&ソーサーがずらり。400客近くあるというアイテムの中から、飲む人の雰囲気に合ったカップをバリスタがチョイスしてコーヒーを注いでくれる。

バリスタの
「職人」としての心意気に惚れる

 日本らしい丁寧なサービスとともに、一杯のコーヒーと真摯に向き合う、バリスタの「職人」としての心意気にも魅了される機会が多いという。

「最近では、コーヒーを淹れるためのレシピや手順を細かく決めているお店も多く、バリスタたちはスケールを使って豆や水の分量を確かめていたりもします。一方、羽當のバリスタたちは、長年の経験から培った手元の感覚だけで確実に美味しいコーヒーを作り続けているんです。これはまさに職人技! 最高にクールだと思います」


左:バリスタは自ら極めた方法で、最高の一杯を仕上げる。「コーヒーを知れば知るほどに、味わい深い存在だと感じます」と天野さん。
右:ふっくらと豆が膨らみ始めると、カウンターに芳醇な香りが立ちこめる。ポタポタと落ちる抽出音も含め、五感で楽しむコーヒー体験を。

 ベテランの技が生み出す、炭火焙煎のドリップコーヒーは、ヴォーンさんが「ビター&ディープ」と表現するように深い味わいが特徴。世界中のコーヒー通を魅了する、その美味しさの秘訣が気になるところ。

「実は、当店のコーヒー豆はとてもオーソドックスな味わいなんです。だからこそ、僕たちバリスタは、たっぷりと豆を使い、それを丹念にドリップし、美味しさのレベルを数段引き上げてから、お客様にご提供するよう努めています」(天野さん)


左:ヴォーンさんおすすめの「羽當オリジナルブレンド」(850円)。
右:1杯のコーヒーに使用する豆の分量は約30グラム。これは、ライトで酸味の強いサードウェーブ系コーヒーの約3倍!

 シンプルな素材に手間をかけ、美味しくなあれと思いを込めて。日本人ならではのもてなしの精神と、素材の本質と真摯に向きあう職人としてのこだわりが、羽當に息づくコーヒー時間を、より味わい深く香り立たせている。

「天野さんたちバリスタの手仕事は、ずっと見ていても飽きないんです。明日もまたお邪魔しますね!」(ヴォーンさん)


茶亭 羽當
所在地 東京都渋谷区渋谷1-15-19 二葉ビル2F
電話番号 03-3400-9088
営業時間 11:00〜23:30(L.O. 23:00)

文=中山理佐,撮影=佐藤 亘