季節の変わり目であるこの時期は、生活環境の変化が多く、「疲れているのに、よく眠れない」「すっきり起きられない」と感じることが多いかもしれません。それは、自分でも気がつかないストレスや緊張で、睡眠に問題を抱えているのかも……。

 今回は、眠りとお風呂の専門家で、公認心理師、SleepLIVE株式会社代表取締役でもある小林麻利子先生に、睡眠の質をぐっと高める入浴法について教えていただきました。

 まずは自分の快眠度をチェック! 眠りのメカニズムを知り、快眠につながる効率的な入浴を取り入れましょう。


最初に知っておきたい睡眠のメカニズム


 朝、寝汗をかいて起きるなんてことはないですか? その場合、眠りのリズムが乱れている可能性があります。

 通常、朝方は浅い眠りになるので、汗をあまりかかないはず。だから、朝、汗をかいているという時点で、よく眠れていないのかもしれません。

<眠りのメカニズム>

 眠りには、周期があって、浅い眠りがレム睡眠、深い眠りがノンレム睡眠だと思われがちですが、ノンレム睡眠には深さのステージが4段階あるので、そうとは言い切れません。

 個人差はありますが、眠りに入るとノンレム睡眠のステージが1→2→3→4と深くなり、また4→3→2→1と移行してレム睡眠が出現する、これがひとつのサイクルになります。

 良質な眠りは、ノンレム睡眠のステージがすぐに4まで到達することが重要で、30分以内くらいに入るのが理想的。

 このノンレム睡眠とレム睡眠を波のように一晩で4〜5周期ほど繰り返しています。特に第1〜2周期目に深い眠りをしっかり得られていることが、熟睡感を得るうえで大事です。

<眠りの決め手は深部体温>

 私たちの体の内側にある内臓や脳などの温度のことを「深部体温」といいます。深部体温は、体内リズムにあわせて、だいたい19時頃が最も高く、入眠時刻にかけて低下し、朝4時頃に最も低くなるという1日の変動があります。

 この深部体温が下がると覚醒レベルも下がって眠くなります。眠りには体温の変化が密接に関わっていて、睡眠に悩みがある場合は、この高低差があまりないことが多いです。

 実際に自分の睡眠状態がどのようになっているのか調べるには、脳波をみるなど専門の検査が必要になってきます。ここでは、主観でわかるポイントを3つあげますので、深い眠りを得られているか、チェックしてみてください。

<快眠ポイント>

●寝つきがスムーズ

 寝ようと思ってから、15分以内に眠れればOK! ストレスなく、すーっと自然に眠りにつくことができるようであれば理想的です。

●途中で何度も目覚めない

 もし途中で目覚めたとしても、すぐに眠りにつくことができれば問題ありません。一度起きて眠れなくなる場合は、中途覚醒といって眠りが浅い可能性があります。

●翌日、熟睡感がある

 よく眠ったなという実感です。睡眠慣性といって、目覚めてもまだ「なんかちょっと眠い」と感じることは誰にでもありますが、ここで二度寝やアラーム機能の使用を繰り返すと、睡眠慣性の症状が悪化します。

 起きて3歩でも歩いたときや顔を洗ったときに、「ああ、寝たな」という熟睡感があればOKです。

 ただ、上記の3つをすべてクリアしていても、「朝は食欲がない」「午前中ずっと眠い」といった場合は、睡眠が足りていない、もしくは睡眠の質が悪い可能性があります。

 そんな人も、眠りのメカニズムを生活習慣に組み込み、深部体温をコントロールすれば、睡眠の質はぐんとアップします。方法は、入浴方法を見直すだけ!

シャワーだけでは得られない! 夏でも入浴したいワケ


 お風呂に浸かって体を温めると、疲労物質や老廃物がスムーズに体外へ排出されやすくなります。これだけでも眠りの質の向上に期待ができますが、もうひとつキーワードになってくるのが、先ほどお話しした深部体温です。

 深部体温は、4段階のノンレム睡眠とレム睡眠と連動しているからです。深部体温が下がれば下がるほど眠りも深くなるのですが、入浴後急降下するタイミングで寝つくことが質の良い眠りにつながることがわかっています。

 そのため、入眠前に体温を一時的に上げてあげることがポイント! その高低差をつくる効果的な方法が、入浴なのです。

 これからの季節、お風呂に入るのは億劫という人も多いかもしれませんが、入浴にはシャワーだけでは得られないメリットがたくさんあります。

<入浴で得られる作用>

●深部体温を上げて、その後の急降下をつくる

 入浴による温熱作用で上がった深部体温は、その後、急速に下がります。脳が「体温が急に上がった、このままだと死んでしまうかも」とびっくりして、自律神経の働きで体温を下げようとするのです。その急降下によって自然と眠気を誘い、質の高い睡眠となり、寝起きがよくなります。

 一方、睡眠には自律神経の働きも関わってきます。自律神経は交感神経と副交感神経に分けられ、基本的に、人が起きて活動している時間帯は交感神経が、リラックス時や夜の就眠時間帯には副交感神経が優位になるとされています。

 新生活で緊張していたり、考えごとや悩みごとなどで脳が興奮状態にあるときは、交感神経が優位になって、手足などの末端の血管がキュッと収縮してしまいます。つまり、体の熱が外に逃げにくく、深部体温がしっかり下がらないということも。

 まずは、副交感神経を優位にしてリラックス状態をつくってあげることが大切です。40℃以下のお湯に入れば、副交感神経が刺激され、温熱作用で血管が開いていき、深部体温も下がりやすい状態になります。

●体の末端と胴体部分の体温差をなくす

 胴体部分の温度と手足などの末端、特に足の皮膚温との差を0℃に近づけると、眠りの質が高まるということがわかってきています。そのためには、胴体部分の温度を下げるよりも足の温度を上げてあげましょう。湯船に浸かって血流がアップすると、冷えがちな末端が簡単に温まります。

 シャワーのみやカラスの行水のような数分の入浴だと、せっかく温めた手足が冷えてしまうことも。お風呂から出て1時間以内にはベッドに入るようにしましょう。

●温熱作用と浮力作用でリラックスできる

 深いノンレム睡眠を出現させるためには、入眠前にしっかりと副交感神経が優位になっている必要があります。40℃以下のお風呂に入ると、副交感神経が働いて精神的にも安らぎ、リラックス状態に。

 また、深い湯船にお湯をたっぷり張って肩まで浸かるなど、湯船が深ければ深いほど、浮力を強く感じます。

 お湯の中では浮力を受けて、体を支えるために緊張していた筋肉がほぐれ、地上では得られない脱力感も。プカーっと浮き、体が軽くなるので、深いリラクゼーションが味わえます。

●深い眠りにつながるデルタ波を増やす

 もうひとつポイントとなるのが、脳波。自律神経の司令塔は、脳の視床下部というところにあります。

 この視床下部の前方にある視索前野の温度が高くなると、深い眠りにつながるデルタ波という脳波が増えることがアメリカの研究でわかっています。

 そして視索前野の温度上昇は、深部体温が上がることでもたらされるといわれているのです。

 シャワーや半身浴ではなく、湯船に首までつかる完全浴でしっかりと深部体温を上げることで、視索前野の温度は上昇しやすくなり、デルタ波を増やすことにつながります。

よく眠り、すっきり目覚めるには、40℃のお湯に15分の入浴が最適!


 いくら入浴が効果的だといっても、ただ入ればいい、というわけでもありません。タイミングや入浴法によっては、眠れなくなってしまうこともあるからです。

 寝つきをよくするためには、就寝のタイミングで眠気が高まっている必要があります。お風呂と睡眠は1セットで考え、冷えやすい人はなるべく就寝の直前に、ほてりやすい人は1時間前に入るようにしましょう。

 効率よく眠りの質を上げる基本の入浴法は、就寝の30分〜1時間前に、40℃のお湯に15分ほど浸かる完全浴です。

<快眠につながる入浴法>

●最高の温度は40℃!

 まず、お風呂の水温は40℃。40℃くらいではなく、40℃です! 給湯器の温度設定ではなく、必ず水温計でこまめに確認してください。たった1℃の差が眠りの質をガラッと変えてしまいます。

 副交感神経を優位にするためのおすすめの温度は40℃以下のぬるめのお湯。体がリラックスモードになり、よりスムーズな入眠につながります。

 また、深部体温を上げるには、40℃以上の高温浴が効率的です。39℃でもゆっくり入れば深部体温を上げることはできますが、お肌の乾燥をまねくことも。

 また、1度上げるまでいかない40.8℃でも人によっては心拍数が上がり、交感神経が活発になって興奮状態になるので、就寝前の入浴には向きません。

 お湯の温度は、副交感神経が優位になり、深部体温も上がる、いいとこ取りの40℃を目安にしましょう。

●時間は15分

 40℃のお湯に10分浸かると、深部体温は0.3℃上がり、15分以上で0.5℃上がることがわかっています。

 深部体温がより上昇したほうが、その反動で自律神経が働き、入浴後に深部体温が下がりやすくなります。そのため、0.5℃深部体温を上昇させる、40℃のお湯に15分浸かるのがベストなのです。

●首のつけ根まで浸かる完全浴

 お風呂の入り方としては、半身浴でもなく全身浴でもなく、首のあたりまで温める「完全浴」がもっともおすすめ。

 お湯に浸かっている部分が大きければ、大きいほど毛細血管が開き、血液が温まります。その温まった血液が全身を巡り、全身がポカポカに。

 頭までお湯に浸からずとも、首のあたりまででOKです。前半だけ、後半だけでもいいので少しの間でも、首まで浸かるのが効果的です。

 また、浮力によって筋肉もほぐれ、全身が温まることで脳の視索前野の温度が高くなり、深い眠りにつながるデルタ波という脳波も増えます。


これからの季節もぜひ入浴を!

 5月に入ると夏日も増えてきます。エアコンをつけて体の内側の温度がこもったままの状態になると、眠りにくく、寝苦しくなります。

 暑くなる時期だからこそ、シャワーではなく効果的な入浴法で、深部体温をしっかり上げ、副交感神経を優位にして心身をリラックスさせることが快眠のポイント。

 よく眠れるようになると、健康や美容、脳などにも、よい影響を与え、心身ともに健やかに過ごすことができます。今日から入浴を見直して、眠りの質を高め、快適な毎日を過ごしましょう。


小林麻利子(こばやし まりこ)

SleepLIVE株式会社代表取締役。生活習慣改善サロン「Flura」主宰。公認心理師、睡眠改善インストラクター、温泉入浴指導員。「美は自律神経を整えることから」を掲げ、科学的根拠のある最新データや研究を元に、睡眠に課題を抱える方へ睡眠や入浴をはじめとした、マンツーマン指導を行う。実践的な指導が人気を呼び、 2000名以上もの悩みを解決。また法人向けに従業員健康支援や、 睡眠関連事業サポートのための顧問を行う。テレビやラジオ等多く のメディアでも活躍中。『不美人習慣を3日で整える熟睡の練習帳』(ジービー)『入浴の質が睡眠を決める』(カンゼン)など著書多数。
https://www.instagram.com/marikokobayashi.flura/

文=大嶋律子(Giraffe)
イラスト=押本達希