
現在放送中のNHK連続テレビ小説「あんぱん」で、北村匠海さん演じる柳井嵩の弟・千尋役を務め、その存在感に注目が集まっている中沢元紀さん。今回は、感動の“小倉の旅館シーン”の裏側やオーディションでのエピソードなど、撮影を振り返りながらたっぷりと語っていただきました。
「朝ドラ」は役者にとって夢のひとつ

――今回、千尋役が決まったときの感想を教えてください。
マネージャーさんから電話で連絡をいただき、とても嬉しかったです。僕にとって「朝ドラ」は、学校に行く前に必ず見ていた「ゲゲゲの女房」(2010年)のイメージが強く、役者にとっての夢の舞台のひとつだとも思っていました。家族にもすぐに言えなかったこともあり、最初は実感がなかったのですが、日を追うごとにどんどん湧いてきました。家族に報告したときは、両親はもちろん、おじいちゃん、おばあちゃんもとても喜んでくれました。毎日2回、しっかり見てくれているそうです(笑)。
――オーディションでは喜怒哀楽を込めて、「アンパンマンのマーチ」の歌詞を朗読するという審査があったそうですね?
監督さんやプロデューサーさんと色々な話をしながら面談したので、どのように「アンパンマンのマーチ」を朗読したかはハッキリ覚えていません。後で、プロデューサーさんが「喜びと怒りと悲しみを込めて朗読していた僕が、小倉の旅館で、嵩と最後の会話をする千尋の姿に重なった」と言ってくださいました。また、「自分の弱みや挫折のエピソードなど、すべてを包み隠さず、さらけ出してくれたことが良かった」とも聞いています。
――そのほか、オーディションでの思い出は?
「アンパンマン」の好きなキャラクターとして、子どもの頃から、ずっと好きだったロールパンナちゃんの話をしました。マントに見立てた風呂敷を首に巻いて、リボンを付けた布団たたきで、お母さんと一緒に戦っていたんです。ロールパンナちゃんは妹のメロンパンナちゃんがピンチのときに現れ、助けた後に颯爽と帰る。そんなクールな感じや二面性があることに惹かれていました。「あんぱん」にはいろんなキャラクターのモデルとなる人物が出てくるので、それぞれのキャラの見方が変わりましたが、特にジャムおじさんの見方が変わりましたね。
役作りのため、2カ月のジム通いで8キロ増量

――「文武両道」である千尋の役作りについて教えてください。
やなせたかし先生が書かれた「おとうとものがたり」を読み、真摯に役と向き合いながら演じようと思いました。そして、柔道家に見える身体作りを目指しました。前の現場だったドラマ「ひだまりが聴こえる」では線が細く、痩せ型の役どころだったので、二ヶ月程度、毎日のようにジムに行って、体重を増やし、筋肉に変える作業から始めました。そして、腕や肩周り、胸あたりを中心に鍛え、最終的に8キロ増量しました。
――兄・嵩役の北村匠海さんとの共演はいかがでしたか?
距離は近い方が兄弟としての空気感も出るので、匠海さんとは本当にいろんな話をさせてもらいました。プライベートの話もしましたし、個人的にアクション作品が好きで、「あんぱん」でも兄弟喧嘩のシーンもあるので、アクション全般についてや、これまで匠海さんが出演されたアクション映画の話も聞きました。そして、「前蹴りのときは、足を出さずに腰から出す」といった専門的なアドバイスもいただき、いつか本格的なアクション作品に出演したいと思いました。
――そのほか、現場で影響を受けた共演者の方はいますか?
ヤムさん、草吉さん役の阿部サダヲさんです。やはり、阿部さんにしか演じられない役どころだと思いますし、間近で阿部さんのお芝居や引き出しの多さを見ることができる贅沢さもありました。また、どこか堅苦しい千尋はヤムさんにいろいろと解してもらい、助言してもらう役どころでもあるので、そういった意味でも影響を受けたと思っています。
この戦争がなかったら……という思いをぶつけた

――6月12日に放送された第54回の小倉の旅館シーン。のぶへの恋心も含め、千尋が嵩にすべてをぶつけた撮影の裏話を教えてください。
のぶさんに対する恋心だけでなく、「この戦争がなかったら……」といった千尋の思いをぶつけるシーンなので、「すべて出し切ろう」という思いと、「匠海さんならすべてを受け止めてくれるはず」という思いで挑ませてもらいました。事前に2人で綿密に話し合ったわけではなく、カメラワークのことなど、最小限の打ち合わせと準備で、本番を迎えました。千尋が感情的になると、方言に変わるという難しさの中、その場で生まれる爆発力みたいなものを大事にして作り上げていきました。
――重要なシーンを撮り終えたときの感想は?
監督さんからOKが出た後、「涙を流した方が良かったかもしれません」と、匠海さんと話しました。テストで僕はボロボロ泣いていたので、匠海さんも「監督にもう一度お願いしてみる?」と聞いてくださったのですが、最終的に「監督がOKしたものがすべてだと思う」と納得し、撮り直しはしませんでした。軍人として、涙を流さずにその場を去る方が千尋らしいと思ったんです。
――本作での経験は、中沢さん自身にどのような影響を与えたと思いますか?
初めての朝ドラで、先輩方のお芝居をモニターで見ながら、「お芝居の選択肢は無限にある」ということを学ぶことができました。また、すべてを受け止めてくださる先輩方の胸を借りて、いろいろ挑戦することができたので、今度は受け止める側の役者になりたいという、大きな目標もできました。以前、「下剋上球児」の現場がアップしたときに、先生役の鈴木亮平さんが「この現場を超える作品にたくさん出会ってください」と仰っていたことが心に残っていたんです。順位をつけるのではなく、いろんなことを吸収できた現場という意味では、「あんぱん」は「下剋上球児」を超えたと思いますし、今後の役者人生で「あんぱん」を超える現場をたくさん踏んでいきたいと思いました。

中沢元紀(なかざわ・もとき)
2000年2月20日生まれ。茨城県出身。22年に俳優としてデビューし、ドラマ「ナンバMG5」で連続ドラマ初出演。その後も、ドラマ「ひだまりが聴こえる」(24)、「366日」(24)、「下剋上球児」(23)、映画『さよならモノトーン』(23)、『沈黙の艦隊』(23)などに出演。
文=くれい 響


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