江戸前の握りずしの横綱格といえばコハダ。酢と塩でしめるコハダは、微妙なしめ加減によって味が大きく変化するネタ。酢を知り尽くしている小野さんならではのしめ方を紹介します。

コハダの仕込みは職人泣かせといわれる。すしダネにするときは、開いた身に塩をしてから酢に漬け込む。塩と酢の作用によって身がしまるのだが、この塩加減、酢加減の見極めが非常にむずかしい。サイズの大小、身の厚さ、脂ののり具合によって、大きく異なってくるからだ。

サイズが大きいものや身の厚いもの、脂がのっているものは、当然、塩や酢の漬け込み時間は長めとなる。身を開いたときに瞬時に身質を定め、その時間を判断する。経験と勘がモノをいう仕事である。「コハダを食べるとすし屋の実力がわかる」といわれる所以だ。

一尾ごとに個性がある天然ものとなると、さらに手ごわい。また、これからの季節に喜ばれるシンコは、コハダよりも小さく繊細なので、秒単位での見極めが必要となってくる。

ミツカンの酢をジャボジャボとボウルに入れ、まずは大きいコハダを漬け込み、時間をおいて小さいコハダを漬け込む。酢に漬けたコハダは、表面がうっすらと白っぽくなってくる。それが、身がしまってきた合図だ。取り出してから冷蔵庫でひと晩ねかせると食べごろになる。

噛むとキュッとしまり、すしめしとの味の塩梅がピタリとくるようなコハダが理想。コハダの表面に塗る煮きりの味加減を考えると、やや酢をきつくしめるのがいい。

「最高のコハダを出したいですからね。あたしは今でも毎日食べて、この味なら、と思うものしか出しません」と「すきやばし次郎」の小野二郎さんは言う。しめ加減が弱いものがあれば「もうちょっとしめるように」と指示をする。すしを握り続けて50年以上の二郎さんをも慎重にさせる。コハダが「江戸前握りの華」だと称されるのもうなずける

コハダ酢じめ

1 コハダは氷入りの塩水につけておく。


2 コハダを開き、皮を下にしてザルに並べる。まんべんなく全体に塩をふってしばらくおく。

3 水でさっと洗って塩を落とし、ボウルに入れた酢で軽くふり洗いする。

4 ボウルに酢を入れ、コハダをしばらく漬け込む。ザルに上げて酢を切り、ラップをかけてひと晩ねかせる。

5 手酢を手のひらにつけ、1貫につき1尾を握る。尾をひねって躍動感を出して握るのが次郎流だ。

管洋志―写真

本記事は雑誌料理王国第167号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は第167号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。