修業時代のイタリアへの憧れを
ピエモンテのタヤリンの黄色に重ねて

ダジュンジーノ 八島淳次さん

「ほんとに地元の食材を大切にしているよね」。ピエモンテで修業中、日本の仲間たちとイタリアの素晴しさを語り合うと、いつもその話になった。八島さんの修業したレストランはディナーのみの営業。昼間にその日に使う食材の調達をする。ほとんどの食材が、車で1時間以内のところにあった。

1989年に4年間のイタリア修業を終えて帰国した八島さんは、本場での学びを肝に銘じて、出身地である兵庫や大阪の食材に愛情を注ぐ。

【タヤリン】 ピエモンテではキノコや肉のソースと合わせる細いパスタ
タヤリンとはピエモンテ州の方言で、イタリアでは一般的にタリオリー二と呼ぶ。ただし、タリオリー二のほうがタヤリンよりやや細い。卵入りの練り粉を伸ばして幅1〜2㎜に切り分ける。ピエモン州では、ポルチーニなどのキノコのソースやホロホロ鳥などの肉のソースに絡めて食べるのが一般的。

最高のメインのためにも欠かせない旨いパスタ

ピエモンテで印象深かったのはやはり「タヤリン」。現地ではポルチーニやトリュフ、肉のラグーで食べる。そのおいしさと、麺の色が強く印象に残った。イタリア産の卵の黄身はオレンジ色に近い赤。だからタヤリンの色も濃くなるし、卵のせいか味も濃厚でコシも強い。

「地産地消を実行すると同時に、卵など、パスタの基本となる食材については日本中探しました」

もうひとつの大事な材料である小麦粉は、北海道産の強力粉に決めた。塩は素材のよさを引き出すという理由で、福建省の粗塩を使っている。

タヤリンそのものの味わいがブレなければ、ソースの食材は日本独特のものでも構わないというのが八島さんの考え方だ。ポルチーニのおいしい季節には日本でも使うが、旬が過ぎたら日本の食材を使ったほうがよい。そこで「魂のパスタ」は、タヤリンに旬のハモを組み合わせた。

オイルで焼き上げたハモ、ポロネギ、アスパラソバージュをハモのジュに入れたら塩で味をととのえて、ハモのジュのソースを仕上げる。ゆで上げたタヤリンは、まず、このソースで和えて皿に盛る。

日本の旬の食材とタヤリンと合わせる。イタリアの郷土の味をベースに自由な発想、遊び心も大切にしたい。

タヤリンと魚……ピエモンテの人なら絶対に選ばない組み合わせ。しかし、「それはハモが手に入らないから」とさらりと言う。ハモという名称は無視して、「淡泊な味わいで身もやわらかく、適度に油もある魚をピエモンテ人ならどう料理するか」。そんなふうに発想してみるのだという。このほか、丹波篠山のタケノコやマツタケも、明石の魚介類も同じように解釈して使う。

こうして出来上がった渾身のひと皿は、ハモのジュのソースとハモの赤ワインソース、異なる2種のソースで構成されていた。どちらもタヤリンとの相性は抜群。手打ちパスタの旨さと独創的なソースに、常連客は「やっぱりここのパスタが日本一おいしい!」と口を揃える。

パスタに力を入れるのは、自分にプレッシャーをかけるためでもあると言う。以前、ある人からこんな言葉を聞いた。「イタリア料理はメインがシンプルで寂しいことがある。でもシェフの独創的なパスタをいただくと、これからどんなメインが出てくるのか、ワクワクする」。そうした状況に自分を追い込み、ゲストを最高のパスタから最高のメインへと誘うことを心がけているのだ。「だから私の魂のパスタは、実はひと皿では表現できないんです」

イタリア料理人を志して年。八島さんの「魂のパスタ」は、これからも、変化と進化を続ける。

皿に盛ったタヤリンの上に、赤ワインソースをかけて完成させる。これは、赤ワインとマルサラ酒を煮込み、生クリームやバターを加え、最後にオイルで焼いたハモを入れたもの。

タヤリン ハモの赤ワインソース

3枚におろして骨切りしたハモは、たっぷりの油の中で火入れをして、ふっくらと仕上げる。こうして焼き上げたハモをハモ本来の味を尊重して作ったハモのジュのソースと、赤ワインを煮込んだソースに半分ずつ入れて、2種類のソースが楽しめるパスタ料理にしている。最後にサマートリュフを添える。

材料

ソース(1人分)
ハモ…50g/アスパラソバージュ(塩ゆでにしたもの)…7本/赤ワイン…60㏄/マルサラ酒…20㏄/ハモのジュ…60㏄/エシャロットのみじん切り、トマトの角切り、パセリのみじん切り、サマートリュフ、ポロネギ、生クリーム、バター、塩、オリーブオイル…各適量

タヤリンの生地(作りやすい分量)
強力粉(はるゆたか)…400g/卵黄(龍のたまご)…220g/塩、オリーブオイル…少々

作り方

  1. タヤリンの生地を作る。強力粉、塩、オリーブオイルをフードプロセッサーで混ぜる。この中に卵を入れて再び混ぜたら、取り出して手早く練り、冷蔵庫で30分ほど休ませる。
  2. 1の生地をパスタマシンでのばし、5分ほど乾かしてからカットする。
  3. 鍋にエシャロットのみじん切り、赤ワイン、マルサラ酒を入れて煮つめる。
  4. 3枚におろして骨切りしたハモを適当な大きさにカットして、多めのオリーブオイルで皮目からふっくらと焼き上げる。
  5. 鍋にハモのジュ、ポロネギ、ハモ(4で調理した半分の量)、アスパラソバージュを入れ、塩で味をととのえてハモのジュのソースを作る。
  6. 3がある程度煮つまったら、生クリーム、バター、塩を入れ、さらにトマトの角切り、パセリのみじん切り、残り半分のハモを入れて、ハモの赤ワインソースを仕上げる。 7.5の鍋にゆで上がったタヤリンを入れて手早く絡めて皿に盛ったら、その上に6のソースをかけ、仕上げにサマートリュフをのせる。

Junji Yashima
兵庫県出身。宝塚の「アモーレアベーラ」を経て、1981年 東京青山の「サバティーニ」へ。85年に渡伊し、ピエモンテ州、トスカーナ州のレストランで4年間腕を磨く。帰国後独立し、神戸や西宮を中心にレストランを展開。 2012年、大阪に「ダ ジュンジーノ」(神戸より移転して改名)をオープン。

上村久留美=取材、文 村川荘兵衛=撮影

本記事は雑誌料理王国2014年8月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は2014年8月号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。