「和」と「伊」の融合。築70年の民家をレストランに改築することは、無謀な挑戦にも見えた。「文京区の住宅地」という立地条件も常識はずれと思われ、家族や親戚の反対は避けられなかった。しかし、坂田真一郎さんの頭の中には青写真ができ上がっていた。イタリア修行中に訪れた名もない村のレストランの居心地のよさ。あのゆったりした時の流れを、自分が育った家で再現したかった。「質の高いサービスと味、空間さえ揃えば、お客様にとって見知らぬ駅で降りることも楽しいに違いない」

そう信じて疑わなかった。

非日常の贅沢なひとときをきめ細かなサービスで演出

周囲の説得には時間を要したが、2007年、「リストランテラ・バリックトウキョウ」オープン。3カ月後、店内は連日予約客でうまった。 信頼するシェフであり、同志でもある伊藤延吉さんと出会った南青山の名店「アカーチェ」は、坂田さんの運命を決定づけた店である。現「ヴィーノ・デッラ・パーチェ」のソムリエ内藤和雄さんには、真の仕事人のあり様を教えられた。オーナーの奥村夫妻に「1週間だけ接客を」と勧められ、内藤さんの下についたが、自分がシェフ志望を翻してソムリエになろうとは、思いもしなかった。

「内藤さんは、お客様に合わせてワインの温度まで変えるんです」

たしかに、暑い中を歩いて来た客に出すワインと、ディナーの途中で出すワインでは、たとえ同じ銘柄でも、同じ温度でいいはずがない。レストランが特別な場であること、サービスがいかに大切か思い知った。「幼い頃から、一家揃ってよくフレンチやイタリアンのレストランに行きました。革靴で絨緞を踏む時の特別な感じ、サービスマンの心配りを思い出して、あの幸福感あふれる時間を実現しようと決めました」

「アカーチェ」で修業した後も、名店や名シェフのもとで腕を磨いた。大学卒業後に調理学校進学を決めた時、反対はしなかった父親も、「お前のような甘い人間が、職人気質の業界で勤まるのか」と心配した。坂田さんは「あえて頑固なベテランのいる店ばかりを渡り歩いた」と笑う。

34歳で渡伊。2年の修業を経て帰国した。独立する際の店名は、世話になったトリノの「ラ・バリック」ののれん分けというかたちを選んだ。

古民家の改築には徹底した補強工事が必要で、費用もかかったが、妥協しなかった。結果的に、その信念が客の共感を呼んだ。

穏やかな物腰で、現代のガストロノミーは独自の「東京イタリアン」を育んでいる。

【レシピ】イカスミのリゾット

イタリアのカルナローリ米を使い、イカスミと2種類のトマトソース、煮詰めた魚介類のソースなどを合わせた「イカスミのリゾット」。見た目はシンプルだが、ソースの調和がコクとまろやかさを引き立てる。「何が主役かを考えて、その旨みを引き出す調理」が、シェフ伊藤延吉さんのモットー。

材料

スミイカ…約1/2 〜1杯分/白ワイン…大さじ2 /トマトソース(※1)…10 〜15g/マリナーラ(※2)…10 〜15g /魚介のスープ(※3)…10 〜15g /ニンニク…1個/赤トウガラシ…1/2本/オリーブオイル …大さじ1 /ニンニクオイル…大さじ1/カルナローリ米…30g /ブイヨン…60㎖/塩、コショウ、パセリ…各適量

トマトソース(作りやすい分量)
タマネギ…2個/ニンニク…1個/オリーブオイル…400㎖/A(ホールトマト…2.5kg /塩…少量/バジリコ…1枝)

マリナーラ(作りやすい分量)
ニンニク…20個/赤トウガラシ…2本/ホールトマト…1kg /オリーブオイル…300㎖/塩…少量

魚介のスープ(作りやすい分量)
白身魚のアラ…3kg /ニンジン…1本/タマネギ…2個/セロリ…1本/フェンネル …1/4個/B(サフラン…少々/ローリエ …1枚/ニンニク…1個/ホールトマト…300g /塩…6g /赤トウガラシ…1本)

作り方

  1. イカは内臓を出してスミ袋を取り、白ワイン大さじ1をふる。胴は皮をむき、格子状に切れ目を入れる。足は細かく刻んで白ワイン大さじ1をふる。
  2. トマトソースを作る。鍋につぶしたニンニクと、くし切りにしたタマネギ、オリーブオイルを入れ、40分間炒める。Aを加えて40 〜60分間煮込み、漉す。
  3. マリナーラを作る。鍋にオリーブオイル、赤トウガラシ、みじん切りにしたニンニクを入れて炒め、ホールトマト、塩を加えて40分間煮込み、漉す。
  4. 魚介のスープを作る。ぶつ切りにした魚のアラ、ニンジン、タマネギ、セロリ、フェンネルを鍋に入れる。適量の水、Bを加えて3時間煮込んで漉す。
  5. 鍋にみじん切りのニンニク、赤トウガラシ、オリーブオイルを入れて火にかけ、イカスミを加える。2、3、4を入れて30分間煮込み、塩で味をととのえる。
  6. ニンニクオイルを熱し、イカの足、5を加える。
  7. ブイヨンで炊いたカルナローリ米を6に加える。刻んだイタリアンパセリ、塩、コショウをふって混ぜる。
  8. イカの胴を軽くあぶり、細く切る。
  9. 皿に7、8を盛り、フェンネルの葉(分量外)を飾る。

本記事は雑誌料理王国2013年3月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は2013年3月号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。