伝統のハンガリー豚の名品

誕生から100年以上。
世紀を超えて親しまれるハンガリーサラミの新たな可能性を提案する。

19世紀末頃のピック社のサラミショップ。壁一面に豚の加工品が架かる。
ピック社のサラミマイスターがサラミの出来具合を確認(20世紀半ば)。
同社の歴史を物語る写真。
ハンガリーの自然の中で育つマンガリッツァ豚は、別名「ウーリーピッグ(毛で覆われた豚)」と呼ばれ、−30℃の寒さでも過ごすことができる。

欧州大陸のほぼ中央に位置する小国、ハンガリー。かつてはオーストリア・ハンガリー君主国の一部として、皇妃エリザベートにもっとも愛された国としても知られている。1000年以上の歴史を誇り、山々に囲まれ四季折々の農作物の栽培や畜産に適した気候に恵まれた土地柄でもあるハンガリーの特産品といえば、デザートワインのトカイやフォワグラを思い浮かべることが多いが、じつは養豚も盛ん。白豚に加え、たとえば、2004年に「国宝」として認められたハンガリー原産の希少種「マンガリッツァ」は、肉質のよさとヘルシーさからヨーロッパの三ツ星レストランのシェフをはじめ、日本のレストランのシェフたちにも高い評価を得ている。

「ゴリアット(ゴリアテ)」は、聖書に登場する無敵の巨人戦士。転じて「特大」との意味も持つ。その名の通り1本約1.2㎏とサラミとしては大きめ。豚肉100%を使い、50日間熟成させる。スモークをかけていないため、やさしい味わい。ミラノ風サラミとも称されるが、ミラノがこちらのサラミの影響を受けているとの説もある。

豚肉加工食品の王国で生まれる至宝

そして、これらの良質な豚肉を加工したサラミも見逃せない。ハンガリーでよく知られたサラミメーカーといえばピックサラミ。国内に5カ所の加工工場を持つハンガリー最大の食品会社だが、伝統的な製法を守るサラミも数多くラインアップする。そのひとつ「ピックゴリアットサラミ」は、「ミラノ風サラミ」とも称されるが、一説には、ミラノのサラミはオーストリア、ハンガリーの伝統を引き継いで作られているといわれる。また、「ピック ウィンターサラミ」は、1869年の創業当時からの製法を守り、140年以上、古くからの製法を受け継いで作られてきた。どちらのサラミも、管理の行き届いた牧場で育った白豚の肉を用い、熟成によってていねいに旨味を引き出して作られている。

これらの伝統的なサラミは、薄切りにしてそのまま食べることが多いが、食材として活用すれば、より広く多様な楽しみ方ができるはず。今回はこのサラミの味わいを存分に活かすレシピを、「レストラン リューズ」の飯塚隆太シェフが考案した。

ピックサラミハンガリーのアジア地域統括マネージャー、パラノビチ・ノルバートさん。
飯塚シェフの創造性に感銘を受けた。

野菜と合わせる冷製、旨味をまとわせる温製

飯塚シェフは、それぞれのサラミの個性を生かすべく冷製と温製の皿を仕立てた。まずは冷製仕立ての「夏野菜とゴリアットサラミのプレッセバジルの香り」。ゴリアットサラミは、燻製をかけずに熟成するのでスモーク香がなく、比較的ニュートラルな味わい。夏野菜の甘味とハーブの香りで、ゴリアットサラミの塩味や豚肉のおいしさを引き立てる。パプリカやズッキーニなどの野菜はコンフィで甘さを引き出している。しっとりした食感もゴリアットサラミのやわらかさとよく合う。

ウィンターサラミの製法はピック社の創業当時(1869年)から引き継がれている。白豚のみを用い、秘伝のスパイスと混ぜてから2年間かけて乾燥させたハンガリー産のブナ材で約10日間スモーク。その後90日間サラミ塔で熟成する。

一方、燻製をかけてから90日間の熟成を経て作られるウィンターサラミは、白身魚と合わせてロティに。マトウダイのフィレに薄切りにしたウィンターサラミを貼り付けて焼く。加熱することで、旨味が凝縮し、素材においしさをまとわせやすくなる。さらにサラミの付け合わせの定番、コルニッションにミントを加えて香りを出し、マンゴーで甘みを添えて、味に洗練と広がりを与えた。

「ゴリアットサラミはやさしい味なので、料理に応用しやすい。ウィンターサラミはフランスのソシソン・セックなどと比べるとクセがなく、扱いやすい食材ですね」と飯塚シェフ。今回のように、冷製で味わいを引き立てることもできれば、加熱して旨味を凝縮し他の素材にまとわせることもできる、といったように、ハンガリー産のサラミは、シェフたちに多様なインスピレーションを与える魅力的な食材といえそうだ。

サラミは縦に薄切り、最初に焼いて脂を出す
サラミは輪切りにせず、縦に薄切りにすることで素材とのなじみがよくなる。サラミを先に加熱して脂を溶かし、魚の身に旨味をまとわせていく。

【レシピ】夏野菜とゴリアットサラミのプレッセ バジルの香り 

ゴリアットサラミの薄切りを彩り豊かな夏野菜のコンフィで挟み込んだ。左から赤ピーマン、黄ピーマン、黄ズッキーニ、ゴリアットサラミ、ナス、ゴリアットサラミ、トマトコンフィ、ゴリアットサラミ、ナス、ゴリアットサラミ、緑ズッキーニ、黄ピーマン、赤ピーマンが層を成している。サラミに塩けがあるので、凝縮した野菜の甘さと調和するように分量を調整する。酸味と甘味の効いたトマトのエスプーマが全体をまとめ、花穂紫蘇やバジルの香りがほどよいアクセントとなっている。

材料(4人分)
ゴリアットサラミ…20ℊ
◦野菜のコンフィ
トマト…2個/赤パプリカ…1.5個/黄パプリカ…1.5個/長ナス…2本/ニンニク(薄切り)…2片分/タイム…4枝/エクストラヴァージンオリーブオイル、塩、白コショウ…各適量
◦ズッキーニのソテー
緑ズッキーニ…1本/黄ズッキーニ…1本/
エクストラヴァージンオリーブオイル…適量
◦トマトのエスプーマ
フルーツトマトの果肉…500ℊ分/塩…適量/シャルドネビネガー…10㏄/ゼラチン…9ℊ
◦仕上げ用
バジルオイル、バジルの葉、花穂、塩、白コショウ…各適量

作り方
1.ゴリアットサラミは薄切りにする。
2.野菜のコンフィを作る。トマトは湯むきにして1/4に切り分け、種を取る。塩、白コショウをふり、材料にある1/3量のニンニクとタイム1枝をのせてエクストラヴァージンオリーブオイルをかける。80℃のコンベクションオーブンで3時間加熱し、コンフィにする。

  1. 赤と黄のパプリカはバーナーで皮を焼いて取り除き、種を除いて板状にする。塩、白コショウをふり、材料にある1/3 量のニンニクとタイム1枝をのせてエクストラヴァージンオリーブオイルをかける。80℃のコンベクションオーブンで30分間加熱し、コンフィにする。
  2. 長ナスは皮をむき、縦にスライスして軽くソテーする。塩、白コショウをふり、材料にある1/3量のニンニクとタイム1枝をのせてエクストラヴァージンオリーブオイルをかける。80℃のコンベクションオーブンで20分間加熱し、コンフィにする。
  1. 緑と黄のズッキーニは皮を切り落とし1㎝幅に切り揃える、エクストラヴァージンオリーブオイルで皮をソテーする。
  2. 12㎝×8㎝の型に2 〜5の野菜類と1のゴリアットサラミを重ねて重石をし、冷蔵庫に入れてひと晩おく。
  3. トマトのエスプーマを作る。湯むきして種をとったフルーツトマトの果肉をミキサーにかける。シノワで漉し、塩、シャルドネビネガーで味をととのえる。
  4. 7の一部を取り分けて温め、ゼラチンを溶かして全体に混ぜ合わせ、氷水で冷やす。
  5. 冷えて固まり出したらサイフォンに入れ、ガスを充てんする。
  6. 盛り付けをする。6を切り分けて皿に盛る。9のエスプーマソース、エクストラヴァージンオリーブオイルにバジルのみじん切りを加えたバジルオイル、バジルの葉、花穂を添える。

【レシピ】マトウダイにウィンターサラミを纏わせてミントの香るコンディメントを添えて

マトウダイのフィレに薄切りにしたウィンターサラミを貼り付けてローストする。サラミの塩けと旨味が淡泊な白身魚の味わいと調和する。サラミとは定番の組み合わせのコルニッションを細かく刻んでハーブや青唐辛子、マンゴーと合わせ、洗練されたコンディメントに。

材料(2人分)
マトウダイ切り身…2枚/ウィンターサラミ(縦に薄切り)…2枚/塩、白コショウ、オリーブオイル…各適量
◦コンディメント
ギンディージャ(スペイン産青唐辛子の酢漬け)…12g /タマネギ(みじん切り)… 5 g /コルニッション(2〜3㎝の角切り)…10g /ケッパー…10g /ショウガのコンフィ…5 g /エクストラヴァージンオリーブオイル…30g /塩、レモン汁、ミントの葉(きざむ)、イタリアンパセリ(きざむ)…各適量
◦仕上げ用
ハーブ(セルフィーユ、ディル、エストラゴン、ミント)、ペリカンマンゴー…各適量

作り方
1.マトウダイに塩、白コショウ適量をふり、ウィンターサラミを貼り付ける。
2.オリーブオイルを熱してサラミを付けた面から鉄板で焼き、脂が出たら裏返して表面を焼きつけ、グリラーに入れて中まで火を通す。
3.コンディメントを作る。ギンディージャをみじん切りにし、タマネギ、コルニッション、ケッパー、ショウガのコンフィ(ショウガをみじん切りにして、エクストラヴァージンオリーブオイルで火を入れたもの)を混ぜ合わせる。
4.3にエクストラヴァージンオリーブオイル、塩、レモン汁、ミントの葉、イタリアンパセリを加えて混ぜる。
5.盛り付けをする。2を皿に盛ってハーブを上にのせ、4ときざんだペリカンマンゴーを散らす。

Ryuta Iizuka

1968年新潟県生まれ。94年に「タイユバン・ロブション」のオープニングスタッフとして働く。その後渡仏し、二ツ星、三ツ星レストランで修業。2005年に「ラトリエ ドゥ ジョエル・ロブション」シェフに就任。5年間シェフを務め、2011年「レストラン リューズ」をオープン。同年、ミシュラン一ツ星、その翌年に二ツ星を獲得。

レストランリューズ
Restaurant Ryuzu

東京都港区六本木4-2-35 アーバンス
タイル六本木B1F
☎03-5770-4236
● 12:00〜15:30(14:00LO)
18:00〜23:30(21:30LO)
●月休(日不定休)
●コース 昼3600円〜、夜8000円〜
●30席 http://restaurant-ryuzu.com/

問い合わせ
ピックサラミハンガリー社

www.picksalami.jp


株式会社協同インターナショナル
☎044-866-5975
www.kyodo-inc.co.jp/food/

伊藤由佳子=取材、文 星野泰孝=撮影

本記事は雑誌料理王国241号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は241号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。