定員5人の「ペレグリーノ」は、今や予約の取れない店の筆頭に挙げられるが、店主の高橋隼人さんは決して気難しい人ではない。むしろ誠実で気遣いの人だ。だが、それゆえ自分にも人にも――
もちろん味にもごまかしがきかない。常に究極を追い求め、たどり着いたのが現在のスタイルだが、これが到達点ではない。「ペレグリーノ」の進化は、これからも続く。

ひとつの空間に調理スペースとテーブル席とが向かい合う「ペレグリーノ」の店内は、これぞオープンキッチンという雰囲気。店の中央では、ピカピカに磨かれた生ハム用の大きなスライサーが存在感を放つ。この店内に一度に入れるゲストは5人まで。オーナーシェフの高橋隼人さんは、「お客様の前に立つのは自分ひとり。納得のいく仕事をするには、今のところこれがベストです」と言う。
その理由のひとつに〝アドリブ〞がある。コースに予定していなかった料理を突然出して、ゲストを楽しませるのだ。

シブダイの紀州備長炭の炭火焼き

脂ののった鹿児島県産のシブダイを紀州備長炭による絶妙の火入れで焼き上げたひと品。ほどよく皮の食感を残しつつ、身はレアに仕上げた。付け合わせのフランス産のアスパラソバージュは、さっと塩をして加熱。シブダイにふりかけた酸化熟成ワインの風味と自家製サルサベルデのフレッシュ感が魚の上質な脂をより繊細に感じさせる。

「急に思いついてしまうのですから仕方ないですよね」と笑う。しかもサプライズとして出したいので、仕込みはゲストに気づかれないように進める必要がある。オープンキッチンでこうしたフレキシブルな変更をチームでこなすのは、ほぼ不可能に近い。高橋さんが店をひとりで切り盛りするのは、頭の中で刻々と変わるイメージを素早く具現化するためでもあるのだ。

今回も本誌に掲載予定の3品を作りつつ、ひそかに手打ちパスタの用意も進めていた。「営業中だとすると、たとえばこのパスタがサプライズ。メニューになくても〝これを食べてほしい〞と思ったら気づかれないように調理して、さっとお出しするんです」。



食材についても自分がその時々でベストと思えるものを使いたいので、特定の生産者にこだわることなく臨機応変に仕入れ、店の営業形態についてもルールは決めていないと言う。その言葉通り、高橋シェフが最初に西麻布に開いたレストランは12席だったが、それから6年後の2015年、恵比寿に移転すると「もっと完成度の高い仕事がしたい」と席数を一気に半分以下にまで減らした。

ぎたろう軍鶏のブロード

厳選された飼料と水を与えられ、放し飼いによって肥育された信州産「ぎたろう軍鶏」を丸ごと25時間かけて煮出したブロードは、高橋シェフのスペシャリテのひとつ。コース料理のスターターとしても欠かせない。香りとコクを損なわないように65℃で提供。仕上げに入れるフランス産の塩の量にも細心の注意を払う。

さらに昨年からのことをこうも振り返る。「コロナ前から、夜の営業をやめて昼だけに絞ろうと思っていたところでした。だから緊急事態宣言を機に、しばらくは昼の営業だけに絞ってみることにしたんです」。健康重視の現代には、昼にコース料理を味わってもらうシステムのほうが合っているのではないかと考えたからだ。おまけに営業は週3日のみ。

「だからといってほかの日は休んでいるわけではありません。料理人の仕事は、
お客様に料理をふるまう以外にもいろいろあるんです」。それは、シェフ自身が何かを感じ、考え、発想すること。高橋シェフが常にゲストを思い、フレキシブルであり続けるために欠かせない時間なのだ。


食べ手はもちろん、作り手側も「常にワクワクしていたい」と語る高橋シェフ。互いのときめきが響き合っている限り、どんな状況下でも「ペレグリーノ」はお店として愛され続ける。

ペレグリーノ
東京都渋谷区恵比寿2-3-4
TEL 03-6277-4697
12:00〜、19:15〜(料理は一斉スタート) 
火〜木のみ営業(要予約)

text: Noriko Hara photo: Gaku Yamaya