東京・銀座
「銀座 小十」 奥田 透

日本料理にもっと格好良さと色気を出していきたい

魚の活〆や熟成方法など、日本料理の技を海外に広め、パリのトップシェフをも驚嘆させてきた奥田さんだが、「肝心の日本人が和食の魅力に気づいていない」と嘆く。この解決が急がれる課題。奥田さんがコロナにもへこたれないのは、今後の日本料理界の設計図をひくことに夢中だからなのだ。

個性的な器とのコラボレーションも奥田さんの楽しみのひとつ。最近では「料理を盛るスペースがないじゃない」と思わずつぶやいてしまうような、加藤委さんの器の斬新さが気に入っている。

「銀座 小十」の店名は、唐津焼の名手、西岡小十氏の名前に由来する。店内には西岡氏が手掛けた数々の作品が並ぶ。

奥田さんの職人技が間近に体感できるカウンター席。座ると目の前には、季節の花や器が飾られている。

昨春、コロナの影響で人の姿が消えた銀座。ほとんどの店がシャッターを閉めるなか、「お客さまが来なくても構わない」との覚悟で店を開けていた1軒に、「銀座 小十」があった。「感染症によるダメージは初めての経験。みんなどうしたら良いかわからなかった。とにかく自分なりに不安を解消する行動をとったのでしょう」と奥田さん。デリバリーやネット販売を始めて忙しく働いて気を紛らわせる人もいれば、やむなく長期休業を決めた人もいた。奥田さんとって一番の不安解消は〝店を開けて、そこにいること〞だったのだ。「従業員はみんな自転車通勤なので交代で出勤させて、また生産者さんも苦しんでいたので食材の仕入れも続けて、お客さんが来なくても、いつも通り厨房に立っていました」。

スピーディに融資が受けられたのは救いだったが、その後の追加融資と合わせると相当な額の負債を負った。「今も出血多量の状態が続いています」と言いつつ、その表情にかげりが見られないのはなぜか――。

「おそらく経験値の違いでしょう。リーマンショック、震災、独立や移転、パリやニューヨークへの海外進出など、多くを乗り越えてきましたから。物事には常にリスクが伴うということが骨身にしみているんですね」。

これからもウイルスとの共存は続くだろうが、自分には料理人としてまだやるべきことがある。「このまま経済が止まってしまうわけはなく、海外からゲストが訪れる日も近いだろうから、悲観はしていない」と語る。トップとしての度胸と覚悟、懐の深さは従業員たちにも受け継がれ、現在ふたりの弟子が、コロナ禍でも独立準備を進めているという。

実は奥田さんには、コロナ以前から抱えている問題がある。それは、次代を担う若者たちが、日本料理に魅力を感じていないことで、「コロナの影響以上に深刻かも」と続ける。

「車でいえばフェラーリ―のような格好良さと色気のようなものをフランス料理やイタリア料理、ワインや洋菓子の世界に強く感じるんでしょうね。でも、日本料理だって負けてはいないと知ってほしい。日本人としてもっと和食に自信と誇りを持ってほしいんです」。

そのためには何をすべきか――。「和食の可能性や魅力を料理で示そうと、今年の1月からは特に新作料理に力を入れています」。50歳を過ぎての挑戦だが、恐れず、大胆に。ただしふれ過ぎたら戻る潔さも心得ている。

「器もね、ありきたりじゃなくて変なものを作ってごらんよと、作家たちにハッパをかけ、この1年でずいぶんたくさんの器を購入しました」。〝変なものを作れ〞とは、料理人に迎合せず、〝感性を大切に〞との励ましだ。それによって奥田さんの感性もまた震える。

大変な時にこそ感性を磨き、広い視野で物事を見つめていこう。日本料理の魅力と同時に奥田さんが後輩に伝えたいメッセージだ。

今回の料理はいずれも実際に店で提供している新作で、「殻雲丹 アスパラアイス 昆布出汁ゼリー」もそのひとつ。器に氷を敷いたら、まずアスパラガスをすり流しにして固めたアイスを置き、その上に雲丹と、柚子風味の昆布出汁ゼリーを重ねた。アスパラアイスには乳脂肪分を一切加えていないため、さわやかな味わい。すべてを一緒に口に含むと雲丹の濃厚さが際立つ。器は荒川尚也作。

日本の住環境から床の間や畳が消えつつあり、日本料理店にもテーブル席が増えたが、「銀座 小十」にはくつろげる和室がある。

鱧といえば、お椀がおいしいし、それを期待する常連さんも多いでしょう。でも、今年は鱧をお椀で出さないことに。なぜなら去年もやったし、ほかの店でも味わえるから」と奥田さん。

鱧湯引き じゅんさい 紫蘇そうめん
色彩豊かなひと品で、湯引きした鱧の白さを引き立てているのは、たたいた梅肉、紫蘇を練り込んだそうめん、おくらのすり流し、あられ切りにしたコリンキーや長芋、じゅんさいなどだ。おくらのすり流しには麺つゆを加え、コリンキーと長芋は塩味をつけた昆布出汁に漬けた。さまざまな風味に加え、食感の多彩さでも人気の新作料理。器は市川和也作。

奥田 透さん

「変えずに貫くことが日本料理の美学だが、時には大胆な変化も恐れずにゲストを魅了する」

銀座 小十
東京都中央区銀座5丁目4-8 カリオカビル4F
TEL 03-6215-9544
12:00〜13:00LO
18:00〜21:30LO
日休、祝は不定休

text: Kurumi Kamimura photo: Gaku Yamaya

本記事は雑誌料理王国318号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は318号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。