日本ではまだ知られていない「本当の羊肉のおいしさ」

ニュージーランドの食肉大手「アンズコフーズ」。その日本法人の社長まで務めた金城誠さんが、より手間をかけ、選び抜いた肉を生み出したい、との思いで、去年自らの食品企画・開発企業「アンブロジア」を設立。自らが目利きしたニュージーランドの信頼できる農場に委託して育てた羊と牛を卸売する他、レストランのコンサルティングなども行なっている。

そんな金城さんの監修で、この度、麻布十番に新しくオープンしたのが「マタカナ(Matakana)」店名はニュージーランドのワイン産地の名前から。

場所は元々、アンズコフーズのアンテナショップとしてオープンした「ワカヌイ(Wakanui)」1号店の跡地。ワカヌイでも人気だった、自慢の牛肉を提供するのはもちろん、金城さんがここで力を入れるのが、ラムとマトンの間、1年以上飼育された「ホゲット」。日本ではまだ知られていない「本当の羊肉のおいしさ」のあるホゲットを広めて行きたいと語る。

金城さんは、羊肉を扱って20年。「日本では、高度成長期に、質のあまりよくない羊肉が安い肉として入ってきたため、羊といえば臭い、というイメージが強く、いかにその匂いを消すか、ということが注目されてきた。でも、本当の羊は、脂の香りが上品で、肉質も柔らかく、しっかりと旨味のある、塩だけでおいしくいただけるものなのです」

元々、肉だけでなく羊毛をとるためにも飼育されてきた羊。「人間よりも羊の数が多い」と言われるほどの羊大国であるニュージーランドでは、過去には羊毛の質や、育てやすさなど、味とは別の理由で、品種が選ばれてきた部分も。

金城さんが選ぶのは、毛が短い、純粋な肉用種である100%純血のサフォーク種。通常ニュージーランドでは、長毛で羊毛も取れるなど、一石二鳥の他の経済性が優先され、サフォークを名乗っていても、交配種がほとんどなのだとか。このマタカナで特に力を入れているホゲットは、金城さんが繁殖農家から生後1年未満のメスを選別し、6ヶ月間、牧草のみで肥育したものだ。

「一口に牧草と言っても、種類は様々。カロリーの高いクローバーは、出荷前の肥育期間中に、逆に成長期の若い羊やお産の前の母羊は、急激に太りすぎないように、カロリーとタンパク質のバランスが取れた種類の牧草を食べさせるなど、工夫をしています」。時期によって放牧地を変え、牧草にも工夫を重ねた結果、ラムの柔らかさはありつつも、グッと肉に旨味が乗った肉を生み出した。

「脂肪代謝に重要なアミノ酸、L-カルチニンの多い健康的な肉でもある、羊肉の本当のおいしさを、多くの人に知ってほしい」。より妥協のない羊と牛を求めて、金城さんの挑戦は始まったばかりだ。

マタカナのシグネチャー肉料理を2品紹介

さて、それではこの度、金城さんと長年の信頼関係を築くPJ Partnersがオープンした、マタカナのシグネチャー料理を紹介していこう。エグゼクティブシェフは、アロッサ銀座のシェフを経て、ニュージーランド料理に深く関わってきた岡野孝明さん。塊肉の扱いも熟練の技。
この日特別に用意されたラムラックならぬ「ホゲットラック」は、柔らかい肉質、赤身の部分に、しっかりと旨味が乗っている。脂はとろけるようで、香りも抜群。ラックやチョップはスプリングラムを使用している。

そのまま塩焼きにするだけでも十分おいしいホゲットだが、このマタカナで使うのは、金城さんの中学時代の後輩でもある、クリスマス・アイランド21の児玉貴之さんが扱う、赤道直下に浮かぶサンゴ礁の島、クリスマス島でとれた「クリスマス島の塩」。この島の塩田で、天日干しで作られる塩は、えぐみが少なく、肉の色を保ち、保水性が高いのだとか。
マタカナで使うのも、基本的に全てこの塩、テーブルサイドにはこの塩の他にも、ワサビ、醤油、胡椒なども置かれていて、好みでアクセントに加えることもできる。
もう一つの名物が、ホゲットレッグ(もも肉)3キロもの塊を、100度のオーブンで3時間じっくりと焼き上げてから、備長炭で仕上げます。スネ肉ならではの、さらにしっかりとした旨味が堪能できる。

穀物肥育を行わず、栄養価の高い牧草で肥育する、純血アンガス種の3〜10歳経産牛のみにつけるブランド「マッキンジービーフ」も将来的に提供予定。現在試験的に10頭のみ飼育されている。

この日は、そのリブアイが、ビステッカのように表面をカリッと焼き上げて提供されていたが、柔らかい肉質と、濃厚な赤身の旨味が楽しめた。
オープニングイベントにはヘイミッシュ・クーパー駐日ニュージーランド大使も参加、本物のニュージーランドの味が楽しめると太鼓判を押した。
「羊らしさを消す」調味が多かったかつての羊料理。しかしここマタカナでは、定番の羊料理、ジンギスカン一つとっても、素材の良さを生かす味付けになっているのが印象的。

新しい羊肉のおいしさを、様々な形で楽しめるマタカナ、「羊肉が苦手」という人も、ぜひ一度食べてみてもらいたい。

text・photo:仲山今日子

ワールド・レストラン・アワーズ審査員。
元テレビ山梨、テレビ神奈川ニュースキャスター。シンガポール在住時、国営ラジオ局でDJとして勤務。世界約50ヶ国を訪ね、取材した飲食店や食文化について日本・シンガポール・イタリアなどの新聞・雑誌に執筆中。