「10坪以下で細長い造り。1本カウンターで自分ひとりでも目が行き届く店が理想だった」と語るのは、2010年7月、恵比寿の明治通り沿いに「ビストロ エビス」をオープンした平尾光司さん。

「レカン」「ラ・ブランシュ」などで研鑽を積み、パリでは二ツ星の「ミシェル・ロスタン」で修業した平尾さんがめざしたのは、わざわざドレスアップして出かけるフレンチではなく、〝近所の人がふらっと来てくれるようなぬくもりのある店〞だった。

「そりゃあ、これまで修業してきたグランメゾンには憧れますが、一介の料理人には資金的に無理(笑)。これまで学んできたことを、自分なりの形で表現したのがこの店なんです」と平尾さん。

カウンター10席だけのこぢんまりとした規模だが、椅子の間隔を広めにとってゆったりとした造りにした。カウンターの奥行きも広く、白い壁に焦げ茶のカウンター、グレーの床で、庶民的なビストロのイメージを覆す洗練された雰囲気だ。

おまかせでなく
アラカルトで提供

調理はひとりで担当するが、あえておまかせコースは導入していない。食べたいものを食べたいだけ味わってほしいと20数種のアラカルトだけを用意。サラダやグラタン、自家製ソーセージや煮込み料理など、ほっとくつろげる料理が中心だ。カツオのたたきをイメージした戻りガツオのカルパッチョなど、誰もが親しみやすい料理も用意する。

しかし、そこは名だたる名店で修業してきた平尾さんの料理。グラタンといえども、かつてパリでまかないとして食べていたアンディーブのグラタンだったり、ブレス産の鶏とモリーユ茸、ヴァン・ジョーヌで作るサヴォワ地方の郷土料理を換骨奪胎した鶏のブランケットなどを提供している。

1000〜2000円台のメニューが中心の同店では、当然、ブレス産の鶏やモリーユ茸、ヴァン・ジョーヌは原価的に使えない。白ワインとキノコのフォンでしみじみとぬくもりを感じさせる味に仕上げているのは、しっかりとした基礎に裏打ちされているからこそだろう。

とはいうものの、ひとりで調理をするのは大変だ。満席でのスタートにならないようにお客の予約時間をずらしてもらったり、スープやソースはオーダー後、すぐ温められるように鍋に仕込んでおくなどの工夫をしている。

「実はまだまだ手いっぱいで、お客さまと会話をする余裕がないんですよ。会話を楽しめるようになるのが当面の目標ですね」と、平尾さんは笑う。

戻りカツオのカルパッチョ1600円
おなじみのカツオのたたきをワインに合う一品に。軽く炙ったカツオの上に細かく刻んだ紅芯ダイコンとショウガ、ミョウガ、シソをのせ、ガーリックオイルと塩、シェリービネガーで軽やかな味付けに仕立てた。

グランメゾンで培った力をカウンターで発揮

オーナーシェフの平尾光司さんは1975年兵庫県生まれ。ホテル勤務の後上京、「レカン」「ラ・ブランシュ」を経て渡仏。パリ「ミッシェル・ロスタン」で修業後、2010年7月に同店をオープン。マダム兼ワイン担当の原有紀さんとは息の合った雰囲気。

鶏のブランケット 2200円 
フランスで学んだサヴォワ地方の郷土料理をアレンジ。ヴァン・ジョーヌの代わりに白ワインで鶏肉とキノコを煮込み、ストウブのココットで炊き上げたニンジンピラフを添えた。ほっとする優しい味わいだ。

その日のおすすめのグラスワインは、カウンターに置いたワインクーラーでボトルごと冷やしてプレゼンテーションしている。

明治通りに面した外観。通り沿いのはめ殺しの窓は、お客の顔は見えないが店内の様子は垣間見られるような絶妙の位置に設けられている。

ビストロ エビス
東京都渋谷区東3-15-8
☎03-6427-3789
●18:00〜 0:00LO(日と祝は22:00LO)
●月休
●予算6000〜8000円程度。アラカルトのみ

text : Toshie Shimizu / photo : Yuko Uehara

本記事は雑誌料理王国197号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は197号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。