カレントライフ読者の皆様の中には「将来、自動車の仕事に就きたい」という希望を持つ10代の学生さんもいらっしゃるのではないでしょうか。今や自動車業界も若い技能者の確保に苦労しているというニュースを時折耳にします。そんな中、自動車産業を主要産業に据える東海地区で自動車関連企業に技能者を輩出しているのが、この中日本自動車短期大学です。

中日本自動車短期大学ってどんなとこ?

実は筆者の愛車セリカLB2000GTの整備、車検、レストアを手掛けた株式会社東海自動車(http://ptoukai.ec-net.jp/)の西真澄社長も中日本自動車短期大学出身で、筆者のセリカをはじめとする沢山の国産クラシックカーを整備している東海自動車の整備ノウハウもまた、源流をたどればこの学校がもたらしたものといっても良いのかもしれません。

日本自動車短期大学が6月25日オープンキャンパスを開催するとのことで、実は中日本自動車短大には別件で取材したい物もあり(これについては後程)、取材目的での参加も大丈夫なのか問い合わせたところ、OKが出たのでオープンキャンパスに参加してきました。

中日本自動車短期大学は愛知県から県境をまたいで岐阜県に入ったあたりの岐阜県加茂郡坂祝町に位置します。通学手段としては最寄り駅からスクールバスも出ているそうですが、そこはやっぱり自動車の整備を学ぶ学校、学生用の駐車場も完備。自慢の愛車で通学して自動車について学ぶ、クルマ好きの学生には夢のようなキャンパスかもしれません。

ちなみに、このキャンパス周辺は山に囲まれているため尾張パークウェイ等、ワインディングロードもあり、学校帰りに気持ちよくドライブができそうですね。(くれぐれも安全運転で)


▲まずは「OBがフルレストアした」セリカLBを前に正門で1枚

オープンキャンパスは定期的に開催されており、進学を考えている学生さんは勿論、自動車業界志望のお子さんを持つ親御さんや、筆者のように単純に中日本自動車短期大学はどういう学校なのか?という興味を持っているだけでも参加は可能です。


▲オープンキャンパス入口は教職員入口、ここはまだ普通の学校ですが……

いきなりあのクルマが出迎えてくれた……

オープンキャンパス参加者用の駐車場は教職員用駐車場とのことで、教職員用の入り口に回ります。講演会等何かの機会で大学などに行くとそのたびに何ともいえない郷愁にかられます。もっとも筆者の場合、昔のクルマとアニメと深夜ラジオが好きなネクラなオタク少年だったので、甘酸っぱい思い出とは無縁だったのですが(苦笑)それでもなんともいえない懐かしさがあることには変わりありません。ところが、校門をくぐりキャンパス内に入ると……


▲これらは「実習用の教材車」(!)です

なんといきなり、フェラーリ2台とBRZがお出迎え!ちなみにこの車両はこの日のためにどこかのショップから借りてきた訳ではありません。この学校の整備実習の教材車です。

それだけはありません。なんと中日本自動車短期大学は先日インディ500で優勝した佐藤琢磨氏を客員教授に迎えている等モータースポーツ教育にも力を入れています。

オープンキャンパスの受付で受け取った冊子の中には今回のパンプレットや学校の概要のほか入学願書もありました。オープンキャンパスの挨拶はランチもかねて食堂で開かれました。若い人は勿論、親御さんと思しき方や、中には若い女性もいました。ちなみにこのオープンキャンパスはこの後の見学会、および食事も付いて全て参加は「無料」です。


▲お楽しみの食事はビュッフェスタイル


▲なんと、こんなランチョンマットまで!この上に料理を乗せるのが勿体ない?


▲やっぱり若い学生のための食事とあってボリュームがあります

一通りの説明の後、お楽しみの食事ですが、流石若い人が集まる短大のランチとあってボリュームが違います。自宅を出る直前に朝食をとった事を後悔したくらいでビュッフェメニューに関しては流石に辞退しました。(苦笑)

自動車産業の課題に果敢に挑む学校

ランチが終わった後は教室のある棟に行き、全体説明を受けます。ちなみにこのオープンキャンパスは何度でも参加可能で、過去にも参加した事のある人はそのまま、オープンキャンパスのイベントが始まるまでキャンパス内を自由に散策とのことでした。

全体説明では山田弘幸学長から、

「自動車産業はまさしく日本の基幹産業であり、日本が世界的にリードしている技術でもあるが、今この業界でも一番の悩みは若い人材の確保が困難になっている事。現在、国交省、自動車業界、我々教育機関が協議し4年になるが、まだまだ解決にはなっていない。自動車産業は勿論、(自動車を直せる人がいないのでは)地球環境にも良くない、なんとか若い人にこの業界に入ってもらえるよう、待遇面の見直しも始めている。一方自動運転や電気自動車等様々な新しい技術が登場し、間違いなくこれは日本がリードすることになるため是非若い人に支えて欲しい。

一方でクルマはモータースポーツ等楽しむクルマ文化も重要であり、私共のモータースポーツエンジニアリング学科ではより高度な技術を享受することが目標で3年制を設けている、先程クローズアップ現代の映像を見ていただいたが、佐藤琢磨さんは客員教授として招聘して5年目になる。インディ500での優勝は快挙であり、我々教員や学生に勇気を与えてくれた。アメリカ、日本もそうだがモータースポーツの繫栄は文化としてやっていかなければならない、クルマという文化を支えていって、いい物を世界に供給していきたいなと思っている。若い皆さんに期待している事は沢山ある、是非とも来年4月、本学に入学していただいて色んな取り組みを我々教職員とやっていけたらなと思う、疑問に思った事は教員になんでも聞いていただいて来年4月の入学を待っている」

という旨の説明がありました。

通常の座学の講義を受ける教室棟はこの通り、ごく普通の学校の教室と廊下、筆者にとっては、最早はるか遠いノスタルジィすら覚える光景ですが……

ハイレベルな実習用設備たち


▲実技実習用の「教材」の中にはロータリーエンジンも!

実習棟はこの通り、まるで本物の整備工場と見まごうような、学校とは思えない本格的な整備実習設備が充実しているのは圧巻でした。基本的なエンジン部品の基本構造と各種計測機器の使い方を覚える事から始まり、最終的には実習用の車両を使って実際の整備工場のような設備で実践に即した自動車整備を学びます。一度、社会人になってから中日本自動車短期大学に入学したという人と話したことがあるのですが、これなら一度、学校を出て就職した人がまたここで学び直したくなるというのも納得がいきます。

基本は2年制の二級整備士ですが、さらに上を目指すのであれば車体整備専攻の3年制、一級整備士の場合は4年制となっているそうで、2年制を卒業して4年制の大学に編入という進路も選べ、卒業後は自動車整備士だけでなく、レースメカニックやメーカーの開発、設計、実験、評価、更には自動車整備関連のITシステム開発や、保険のアジャスター等幅広い分野の進路を目指すことが出来るそうです。


▲ジャガーには「整備実習」のプレートが……


▲フルレストアされた岐5ナンバーのダイハツコンパーノ


▲これから「教材」になるであろうクジラクラウン


▲実習課題で製作したという、某アニメの主人公の愛車のメルセデスベンツSSKをモチーフにしたワンオフ車両。その後ろには希少なVG20もしくはVG30系センチュリー


▲このマセラティボーラも実習課題でレストアした車両です


▲天下のフェラーリ様もこの学校では教材の一つです

キャンパス内にあるクルマはほぼすべて実習用の教材車。中日本自動車短期大学は自動車整備関連の学校の中でも教材車の保有台数では全国でも最多で、一番の売りは自校内にフェラーリの教材車を保有し、さらにイタリア国立フェラーリ技術学校とも提携しイタリアでの一か月留学でフェラーリ専門の整備工場でインターンとしてフェラーリの整備に携わることが出来ることで、時にはF40のようなスペチアーレモデルの整備や250GTのようなヴィンテージフェラーリのレストアに携わることができるそうです。


▲イタリア研修旅行、イタリア短期留学というプログラムもあり、イタリア本国でフェラーリの文化を学ぶ事も出来ます

世界最古のあるものがこの学校にはある

ところで、今回筆者にはこの学校でどうしても取材したい「教材車」がありました。きっかけは昨年末、朝日新聞で見た「ベンツ製はしご車、半世紀ぶり雄姿? 岐阜の短大が修繕」(http://digital.asahi.com/articles/ASJDJ4HRJJDJOHGB00G.html)という小さな地元記事でした。「岐阜の短大」という見出しですぐ、中日本自動車短期大学の事であるというのはわかりました。同短大がオープンキャンパスや見学会を定期的に開催しているのは知っていたので何かの機会に実際に見てみたいと思っていたのですが、その数か月後、カレンライフでの執筆のお話を頂き、いずれ中日本自動車短大のオープンキャンパスとこの消防車を取材をしようと考え、今回の記事を書くに至りました。


▲1935年型メルセデスベンツ製はしご車の「教材車」

生憎、筆者にとって夢の象徴ですらあるシュテルンのマスコットは外されていましたが、オールドメルセデスを「上がり」のクルマと考えている筆者にとって畏怖の対象以外の何物でもない車両が目の前にありました。

この車両は、名古屋市に高層ビルが建ち始めた当時、国産車に高層ビル火災に対応できるはしご車が無く、県と市、市民や高層建築関係者の寄付により1935年に72,500円で購入したものだそうです。ちなみに当時の乗用車の価格はトヨダAA型が3,350円、フォードが3,700円、シボレーが3,810円、これらの乗用車の金額があれば当時は豪邸が建ったという話もあるのですが、1932年には白木屋火災もあり、高層建築に対応した消防車両の導入は急務だったのでしょう。部品調達の問題から1968年に退役し、消防学校に保管されていたとのですが、退役後も有志によって静態保存され不動状態ではあるもののボディそのものは素晴らしいコンディションを保っていました。

ドイツのメルセデスベンツ本社に問い合わせたところ、ここまで古いメルセデス製はしご車が現存していたというのは他に例が無いとのことで、世界最古のメルセデスベンツ製はしご車の現存車である可能性もあるそうです。


▲M68型直列6気筒サイドバルブエンジン、実は筆者にとって人生の最後はサイドバルブエンジンの170Vリムジーネをと思っています

名古屋市消防局としては、実動状態にレストアするだけでなく、登録証も残っているようで、車検を受け公道走行可能な状態で保存し出初式等の式典で実走行させ、市民に防災の意識を高めてもらうという意向だそうです。(但し今ついてるナンバープレートはダミーで愛8ナンバーは返納してしまったようです)


▲リムにクラックが入ってると思ったら実はタイヤをはめるために元々こういう構造になっていたとか分からないことばかりだそうです

50年間不動状態だったため、エンジンや駆動系がどういう状態なのか全くわからず、ここまで古いメルセデスではさすがに整備ノウハウも無く、標準状態がどういう物なのかも分からないため修復にどのくらいかかるのかは全くわからないとのことでした。


▲日本に入荷してから取り付けられた腕木式方向指示器。「やっぱりアポロ製ですか」?と尋ねたら「ええ、アポロ製です(笑)」(かつて日本では「アポロ」が方向指示器の一般名称になるくらいアポロ社製の腕木式方向指示器がシェアを占めていました)

日本でも若い人たちが戦前型のメルセデスでレストアを学ぶ、なんとも頼もしい話です。筆者自身も個人的に微力ながら何か協力できれば……と思っています。このはしご車のレストアに関してはカレントライフでも進捗を報告できればと考えています。


▲一方で、体育館ではラジコンドリフト大会が開催されていました。後で知ったのですが学生寮には屋内ラジコンサーキットもあるそうです

オープンキャンパスのラストはフェラーリのデモ走行。F360と348が快音をたててキャンパス内を走行していました。学業としてフェラーリを運転できるというのですから、この短大の学生が羨ましくも思えてきます。


▲フェラーリ348の車内


▲フェラーリF360の車内

デモ走行後はなんとご自由に乗車してくださいとのアナウンス、タコメーターを見てわかると思いますが、エンジンがかかっている状態で振動と音を体感しながらドライバーズシートに身をゆだねるという体験も……筆者は流石にそんな勇気はなくせいぜいスロットルペダルに足を乗せるくらいしかできませんでしたが、中にはブリッピングをしてフェラーリサウンドを堪能している方もいました。

地元にこういう短期大学があるというのは知っていましたが(本当のことをいうと筆者も高校生の時ここに進学する事も考えたのですが、両親の意向に従い四大に進学したという過去があります)まさか、ここまで自動車に特化した短大だとは思ってもいませんでした。

また体験入学、オープンキャンパスに参加することで入学金20万円のうち10万円免除になり、各種奨学金もあります。遠方の方でも学生寮や指定下宿先(なんと屋内ガレージ付きの物件も!)も充実しています。自動車の職業に就きたいと考えてる学生の読者の皆さん、クルマ好きのお子さんをお持ちの読者の皆さん、是非、中日本自動車短期大学への進学も進路の候補に入れてみてはいかがでしょうか。

【取材協力】
学校法人中日本自動車短期大学
住所:〒505-0077 岐阜県加茂郡坂祝町深萱1301
TEL:0120-500-885
公式サイト:http://www.nakanihon.ac.jp/

[ライター・カメラ/鈴木修一郎]