ドイツはようやく夏本番。日本の夏につきもののまとわりつくような湿気もなく、快適な陽気が続きます。今回はそんなすっきりとした夏空の下、6月17日から18日にかけて行われたクラシックカーイベント、「Retro Classics meets Barock(レトロ・クラシックス・ミーツ・バロック)」をレポートします。

クラシックカーイベント「レトロ・クラシックス・ミーツ・バロック」とは?

ポルシェやメルセデス・ベンツの故郷、シュツットガルトから北に15分ほど列車で向かうと、そこにLudwigsburg(ルートヴィヒスブルク)という町があります。人口は9万人ほど。あまり馴染みのない地名だと思いますが、ベートーヴェンの交響曲第9番「合唱付き」の原詞を書いたことで知られる劇作家、シラー生誕の地であり、クルマ好きの方にはトランスミッションのメーカー・ゲトラグ創業の地、といえばイメージできるでしょうか。そしてなにより、この町には現存するドイツ最大のバロック様式宮殿、Residenzschloss Ludwigsburg(レジデンツシュロス・ルートヴィヒスブルグ)があります。

エーベルハルト・ルートヴィヒ公爵が1704〜1733年にかけて建設。長い歴史の中で幾度も改装され、バロック、ロココ、新古典主義と複数の様式が混在しています。部屋数は452にものぼり、敷地内に数々の庭園や劇場、教会、美術館を抱える壮大な宮殿(レジデンツシュロス)です。かつてナポレオンも訪問し、2度にわたる世界大戦においてもほとんど被害を被らずに残ったこの宮殿の中庭で、「レトロ・クラシックス・ミーツ・バロック」は開催されました。


▲宮殿をバックにワインを楽しむ人々

地元の方に聞いたところ、おすすめは「トロリンガー種の赤ワイン!」だそうで、筆者もお土産に買って帰りましたが、とても美味でした。フレッシュなのに味がしっかりしていて軽い飲み口なのにキレのある、一度飲んだらクセになる味わいです。


▲レトロ・プロモーション社のゼネラル・マネージャー、Susanne Kirschbaum(ズザンネ・キルシュバウム)氏。ご多用のところ、ミーティングや準備の合間を縫って、お話を伺うことができました

「レトロ・クラシックス・ミーツ・バロック」は2004年から毎年行われ、今年で14回目とのこと。メインイベントは貴重なヴィンテージカーが集うコンクール・デレガンスで、同時にクラシックカーによるラリーイベントの終点にもなっているそうです。また、夜にかけて食事会やコンサートも行われるのだとか。「素晴らしいロケーションと美しいクラシックカーたち。ドイツで最もファンタスティックなイベントのひとつだと思います」とキルシュバウム氏。プレスパスと豪華なカタログを渡してくださった後、「これがあれば会場内のすべての飲食店で注文できますからぜひ使ってください」といって、メインディッシュ、デザート、ドリンクのチケットまでいただきました。たまたま近くを歩いていたレストランの料理長に「シェフ!この方、わざわざ日本から来てくださったんですよ!」とご紹介していただいたり、とても親切に、気さくに対応してくださいました。ありがとうございました!


▲クレープ販売車は、なんとシトロエン・タイプH!こんなクルマが現役で活躍していると、無性に嬉しくなりますね


▲軽快なディキシーランド・ジャズを鳴らしていた楽団。片手にはやっぱりビールジョッキ!


▲ラリーイベントのゴール地点での一幕。水玉ワンピースの女性が記念品を手渡して一緒に記念撮影します。オーナーの誇らしげな表情が印象的ですね

まさに美の競演。戦前の珠玉のクルマたちが集結


▲1908年製Delage Phaéton Sport Type J(ドラージュ フェートン スポール タイプJ)


▲1929年製Delage Type DM(ドラージュ タイプDM)


▲1934年製Delage Type D8(ドラージュ タイプD8)


▲1938年製Delage Coupé Sport Type D6-70(ドラージュ クーペ スポール タイプD6-70)


▲1936年製Delage Cabriolet Type D8-120(ドラージュ カブリオレ タイプD8-120)

戦前のフランスで高性能車の頂点に立っていたのがこのドラージュ。日本ではD8-120がトヨタ博物館に収蔵されていますが、この台数が一堂に会する機会は世界でも珍しいのではないでしょうか。GPレースで大活躍していた一方、贅を尽くした高級車を生産していました。D8とD6-70はLetourneur et Marchand(レトゥノール・エ・マルシャン)、D8-120はHenri Chapron(アンリ・シャプロン)のコーチワークによるもので、細部まで配慮の行き届いた優雅で美しいボディーワークに思わず溜息。


▲1926年製Peugeot 5CV(プジョー 5CV)

トランプの柄のようなサイドの塗装が印象的。写真だとわかりにくいのですが、実は非常に小柄なクルマで、外国の方が狭い車内に隣り合って座っているのを想像するとちょっと面白いです。写真のタイプ172Rは水冷4サイクル4気筒720ccエンジンから11psを発生、車重が軽いので思いのほかキビキビと走るそう。


▲1936年製Mercedes-Benz 540K(メルセデス・ベンツ 540K)

人だかりが常に絶えなかったのが、この540K。それもそのはず、前モデルの500Kと540Kを合わせてたった6台しか生産されていないAutobahnkurier(アウトバーンクーリエ)タイプ、その内の1台だからです。2016年1月にアメリカ・アリゾナ州で行われたオークションで、540Kスペシャルロードスターが990万ドル(約11億6,000万円)で落札されて話題になりましたが、仮にこの個体が出品されたら、一体どれほどの値が付くのでしょうか?


▲1939年Horch 853A Sport-Cabriolet(ホルヒ 853A シュポルト・カブリオレ)

当時のアウトウニオン・グループの中で、最高級車を担当していたホルヒ。アウディでお馴染みのフォーリングスがグリルの前についているのがわかるでしょうか。直列8気筒4,944ccエンジンは120psを発生。先ほどご紹介した540Kと並んで、この時代のドイツを代表する高級車でした。


▲1940年製Lancia Artena(ランチア アルテーナ)

当時のミドルクラスセダン、アルテーナは1936年に生産終了になっていましたが、第二次世界大戦が始まるとイタリア軍の要請によって生産が再開され、写真のシリーズ4は1940年から2年間の間に507台が製造されたそうです。ちなみにドイツ人は仮装、というかコスプレが大好きで、写真のように衣装で遊ぶオーナーもたくさんいらっしゃいました!


▲1938年製BMW 327/28

思わず「これは渋い」と呟いてしまったのがこのモデル。どちらかというとエレガントな性質を与えられていた327に、スポーツカーである328の直列6気筒1,971ccエンジンを搭載し、140km/hまで引っ張り上げる性能を持たせたスポーティバージョンです。生産台数は482台。

戦後すぐに生産されたクルマ、その独特の美しさ


▲1947年製Triumph 1800 Roadster(トライアンフ 1800 ロードスター)

トライアンフが第二次世界大戦後に最初に作り上げたのが、戦前からのクラシカルな雰囲気を受け継ぐ1800ロードスターでした。戦争直後で鉄鋼が不足していたので、ボディは飛行機の生産で余ったアルミニウムから作られているのだとか。思わず撫でたくなるような、美しいフェンダーラインですね。


▲1947年製Alfa Romeo 6C 2500 Super Sport(アルファ・ロメオ 6C 2500 スーパースポーツ)

こちらも戦後間もなく、アルファ・ロメオが作り上げた美しいカブリオレです。コーチワークを担当したメーカーは様々だったそうですが、この個体のボディを製作したのはカロッツェリアの名門、ピニンファリーナ。1995年にイタリアでレストアされてから現在まで素晴らしいコンディションを維持しています。フロントからサイド、リアに通じる美しいラインは、戦争直後に作られたとはにわかに信じられません。


▲1962年製Ferrari 250 GTE(フェラーリ 250 GTE)

250シリーズの中で唯一の2+2、かつ950台を生産し、それまでのフェラーリの歴史で最も成功を収めたモデルがこの250GTEです。無駄な抑揚を抑えたクリーンなボディラインは、ピニンファリーナの手によるもの。250テスタロッサや250GTOの流れをくむ2,953ccV型12気筒エンジンは比較的大人しいチューンが施された、とはいえ240psを発生。クラシック・フェラーリの持つオーラは圧倒的ですね。一生に一度でいいですから運転してみたいものです……。


▲1967年製Lamborghini 400GT 2+2(ランボルギーニ 400GT 2+2)

1966年からの2年間にわずか224台しか生産されなかったランボルギーニ黎明期の高性能GTです。長いノーズの下に収まるのは、320psを誇る3,929ccV型12気筒エンジン。市販のフェラーリに先駆けてDOHCが採用されています。カロッツェリア・ツーリングの手によるボディも独特の魅力と美しさにあふれていますね。


▲1963年製Fiat Abarth 850 TC(フィアット・アバルト 850 TC)

息が詰まるような怒涛のクラシックカーたちの中にあって、筆者が愛らしさにほっと一息つけたのが、この850TC。チェッカーフラッグ模様のルーフもアバルトでは定番ですね。実際は、コロンとした丸っこいフォルムの下にサソリの毒を隠し持っていて、「ジャイアント・キラー」としてヨーロッパ中のレースを荒らしまわったのは、読者の方々もよく知るところだと思います。


▲1960年製Borgward Isabella(ボルグヴァルト イザベラ)とコンクール・デレガンスの審査員の方々

かつて1961年に倒産したボルクヴァルト。2015年のジュネーブショーで54年ぶりに復活することが発表されたのも記憶に新しいですね。イザベラは写真のクーペとセダン、カブリオレ、エステートワゴンが用意され、20万台以上が生産されました。ちなみに、コンクール・デレガンスの審査員は揃いのジャケットと蝶ネクタイで、普段あまりフォーマルな服を見かけないドイツでは新鮮な装い。審査について話し合いの真っ最中、といった感じでしょうか。


▲1961年製Mercedes-Benz 190SL(メルセデス・ベンツ 190SL)

最後にご紹介するのは、これは新車?と思ってしまうほどのコンディションを誇る190SL。シルバーの外装も滑らかで美しく、内装のメッキパーツにも曇りひとつありません。同時に発表された300SLと違い、よりシンプルで安価、扱いやすい190SLは、2万5千台以上を生産する大成功を収めました。現地の方からも人気は抜群で、みなさんひっきりなしに写真を撮っていました。

ヨーロッパでは80年以上の歴史を持つ、コンクール・デレガンスを含む「クルマと文化の祭典」。その一端に触れて、筆者は言葉を失うほどの感銘を受けました。周囲を取り囲む宮殿も、集まっているクルマも見たことのないほど豪華なものでしたが、その場にいる人々はとてもフレンドリー。イベント自体の入場料は無料でしたし、着飾って楽しんでいる人も、ツーリング中にたまたま通りかかったから入ってきた、という風情のサイクリストたちも、散歩のついでといった感じの普段着の老夫婦も、みんな一緒にのんびりとお酒と食事と美しいクルマを楽しむ。2度の世界大戦を経ても、きっと変わらずに続いている光景が目の前に広がっていました。

かつては日本でも東京コンクール・デレガンスが行われていましたが、2010年に第3回が開催された後は「多くの自動車産業、高級ブランド、金融業界の各社の厳しい予算削減によって、資金面での環境が変わったこと」が理由で中止に。ここに集ったクルマたちと人々の笑顔を見ていると、ぜひ日本でも復活してほしいと願わずにはいられません。

[ライター・カメラ/守屋健]