筆者の住む東海地区にはクルマをコンセプトにしたカフェが点在すると以前書きましたが、今回はその一つドゥ・クール・ショコラを紹介したいと思います。ドゥ・クール・ショコラがあるのは愛知県から県境をまたいだ三重県桑名市にあります。

詳細は後程書きますが、このお店のオーナーもまたミニクーパー1275SMK.1やフィアット500(現行ではなく空冷リアエンジンのチンクです)を所有し、普段はスマートを使用するという筋金入りのエンスージアストで、エンスージアスティックなガレージライフとカフェというのは相性が良いのでは、と思える事があります。


▲いかにも「カフェ」という店構えではなくやっぱり隠れ家的なお店というのはクルマをコンセプトにしたカフェの不文律なのでしょうか?

カノカレかふぇの時と同様、ドゥ・クール・ショコラもまた住宅街の路地の奥にあります。コート・ダジュールやシチリアあたりの建物を思わせるお店に着くとまずはミニバンがお出迎え。


▲よく見るとドアノブが両口スパナ(!)こんな所でクルマ好きの心に刺さる小技が効いてます

しかしここで驚くのはまだまだ早いです。クルマ好きがこのお店のスイーツメニューを見たら、まず言葉を失うか、人目をはばからず驚嘆の声を上げてしまうのは間違いないでしょう。

お店のクルマ好き度が伝わってくる驚くべきスイーツたち


▲「コルサ」は流石にターセル・コルサ・カローラⅡの「コルサ」では無いですよね(苦笑)

この通り、ここのケーキの名前にはクルマやモータサイクルにちなんだ名前が付けられています。


▲ドゥ・クール・ショコラにはなんとミニを模ったチョコレートが載っています。1台横転している所見るとミニミニ大作戦のカーアクションをモチーフにしてるのでしょうか?

そして圧巻なのはドゥ・クール・ショコラの名物とでも言っても良い「ショコラのガレージ」で、主にヨーロッパの小型車を模ったトミカサイズくらいのチョコレート、「1台」300円。このお店の店長のお菓子とクルマへの愛が伝わってきます

随所に散りばめられた「見る人が見ればわかる店内」

一見するとヨーロッパのカフェテリアをイメージした店内で、実は表のミニ以外、クルマの写真やミニカーがこれ見よがしに飾ってあるといういうわけでもなく、この日も普通に近所の方がきて賑わっていたのですが、クルマが好きな方であれば古いミシュランのポスターやオイル缶のディスプレイでガレージをイメージした店舗であることは一目瞭然では無いでしょうか。

クルマに興味のない人からすれば普通の南欧風のカフェにしか見えなくても、この見る人が見ればわかる(それもかなりマニアックなツボを突いてる)というさじ加減にこのお店の粋なセンスを感じます。


▲カウンター脇には古いロゴのカストロールの看板が


▲店内ディスプレイにはさりげなくSUキャブレターが


▲商品ポップのスタンドもモーターサイクル用のキャブレターと思しきパーツが使われてます

一体どんな方が店長なのか、レジの方にオーナーにお話しを伺えないか尋ねたところ「仕込み中で1時間ほど離れることが出来ない」とのこと。クルマがコンセプトとはいってもここはあくまでも本格的な手作りスイーツのカフェであることを再認識させられました。

この日は友人とお店に来たのですが、モーターサイクル好きの友人がこのヴェスパに惹かれてこちらのテラス席に。オーナーの遊び心がそこかしこに見え隠れします。

既に各地から猛暑のニュースが入るこの季節、いくら室内とはいえガラス張りではこのドアからではエアコンの冷気は入ってこないかなぁと思っていたのですが……

実はこの「BMC(ブリティッシュ・モーター・コーポレーション)」のロゴが入った戸棚のような箱の中にエアコンが仕込まれていました。日常の生活臭のする物をこうした小物で隠してしまうあたり、このお店の雰囲気づくりは本当に徹底しています。


▲よくよく見るとミニカーで有名なコーギートイズの看板があったり(きっと、近所の奥様からは「あら可愛いワンちゃんの看板」くらいにしか思われてない事でしょう)


▲チャンピオンプラグの看板の後ろにはさりげなくビブがいたり

アバルトのサービス工場と思しき看板もありました。所謂、エンスー系のクルマがコンセプトのカフェにありがちな、これ見よがしにミニカーやクルマのポスターやパーツがディスプレイされてエンスー系の自動車雑誌や輸入車の専門書が本棚に平積みになってるというタイプのお店ではなく、むしろ違ったアプローチで「エンスージアスト」と呼ばれるタイプの人を喜ばせるお店です。

さらに紅茶をオーダーするとサンプルの茶葉を持ってきて、まず銘柄ごとの香を試してから選ぶという徹底ぶりです!

ちなみに私は小さなクルマ(スバル360とミニ)繋がりでジョン・クーパーとアールグレイ(実はアールグレイにも色々種類があったのですが、どのアールグレイか失念してしまいました)を選びました。

自分の好きな物をアピールする方法のヒントになるのでは?

でこのお店、普通にご近所の奥様方が来ているということは、町中を走ってる自動車を見てもトラックと乗用車くらいの区別しかつかないような奥様方が当たり前のように、

「私はジョン・クーパーがお気に入りなの」
「あら、今日はブガッティが売り切れちゃったの?じゃあトライアンフにするわ」

とか、このカフェにケーキを買いに行く時に、ごろ寝しながら自動車雑誌を読んでる旦那さんに、

「パパ〜!ちょっとそこまで、ガヤルド買いに行ってくるわね。」

といって旦那さんが慌てて起き上がるという会話がくり広がられていると考えると本当に遊び心に溢れたお店だと思います。

クルマに限らずですが、どうしても趣味人というのは知らず知らずのうちに自分の好きな物に関して押しつけがましくなって相手をドン引きさせてしまったり、その趣味の人でなければ近寄りがたい雰囲気を作ってしまったりするという失敗をしてしまうものですが、ドゥ・クール・ショコラはそういう他人に対して、自分の好きな物のアピールの仕方ということを本当に考えさせられました。

もしかしたらこのお店に来たことがきっかけで、それまで値段だけ見て買っただけで、自分が乗ってるクルマの車名すら知らなかった近所の奥様が、何かのきっかけでここのスイーツの名前の意味やディスプレイの看板の意味を知って、ちょっとしたガイシャ通になってしまうなんてこともありうるかもしれません。自動車メディアの末席に身を置くものとしてもクルマに興味のない人にどうやってクルマの面白さを伝えるかというヒントを見た気がします。

ちなみに筆者の友人は英国車、筆者はドイツ車好きなのですが、この日は珍しくイタフラ車の話で盛り上がり、「ドゴール首相のシトロエンDSが出てくる昭和48年発行(生憎初版から半年後の15版でしたが)の帯付きハードカバーの当時の『ジャッカルの日』のハードカバーの古本を手に入れた」とか「ランチアのマルティーニカラーとアリタリアカラーが云々」というたわいのない会話をしているうちに、店長さんの仕込み作業がひと段落し、合間の10分ほどなら店の外でしたらお話できますと店員さんから伝言があり、お勘定をすませてお店の外へ出る事にしました。

このときになって知ったのですが、実はこのお店、丘の上に建っていてこの木戸の建物、てっきりガレージだと思っていたのですがここが仕込みの作業場で、ガレージはこの真下にありました。


▲みんなこのカラーリングでアバルトだと思われるらしいのですがノーマルのフィアット500だそうです

店長のこのお店に対する想いとは?

当初は、こういうクルマをコンセプトにしたカフェにありがちな、手広く事業をしていて趣味でこういうコンセプトカフェを始めたというパターン(所謂「名古屋の喫茶店」ではよくあるパターンです)なのかと思っていたら、店長さんから出たのは全く真逆の言葉でした。

「生活や家族のために稼がなきゃいけないからこの店を経営してるんです」

てっきり手広く洋菓子販売みたいなこともしているのではないか?と思ったら、本当に店長自ら自家製の工房で手作りのケーキを作ってこのお店で売るという本物の手作り洋菓子工房のカフェでした。当然生活がかかっている以上、採算を考えずマニアだけを相手にした商売で済むというわけにはいきません。普通にスイーツカフェとして特にクルマに興味のない人からも評価されなければなりません。まったくクルマに興味のない人にも押しつけがましさが一切なく、自然に入れてそれでいてマニアックなクルマ好きが見れば驚嘆するようなあの絶妙なセンスの店舗にも納得がいきます。ただ一方で、

「でも、大変だけどこういう店を作ったからこそ仕事を頑張れる、あなたもあのセリカLBに乗ってるから頑張ろうと思うでしょ?それと同じですよ」

とも仰っていました。むしろ、店長にとってはこのお店の経営は生活の糧であると同時に人生の糧でもあったのです。そして改めて店長のお菓子とクルマへの深い愛も感じました。本来ならクルマのカフェとしてでなく、純粋にスイーツカフェとして評価すべきなのですが、筆者の味覚の方の表現力では上手く評価できないのが申し訳ないと感じたくらいです。

桑名にドライブ旅行などでいらした際は、是非お立ち寄りすることをお勧めします。クルマのカフェというより、純粋にスイーツカフェとして素晴らしいお店です。

【取材協力】
ドゥ・クール・ショコラ
http://www.deux-chocolat.com/
住所:三重県桑名市星見ヶ丘9−110
電話番号:0594-32-8032
営業時間:9:00〜19:00(ラストオーダー18:30)
定休日:月曜日(祝日の場合は営業)

[ライター・カメラ/鈴木修一郎]