運営元:外車王SOKEN
著者 :守屋 健



ドイツの各ブランドで、いまだに数多くラインナップされ続けている「ステーションワゴン」。ドイツでも世界的なSUV流行の波にのまれつつあるものの、メルセデス・ベンツ、アウディ、BMW、フォルクスワーゲン、オペルの現地のウェブサイトを見ると、日本よりはるかに多くの選択肢が残されているのがわかります。

ドイツでは、なぜこれほどまでステーションワゴンが多いのでしょうか? 現在でも需要と人気が高いのでしょうか? 今回のドイツ現地レポは、ステーションワゴンが今ドイツでどのような立ち位置にあるのか、その実情をレポートしていきます。

■ステーションワゴンは保守的で年寄りくさい乗り物なのか?

ステーションワゴンが最初に登場した頃は、ほとんどが3ドアで「商用車」としての扱いでした。しかし、ドイツにおいては1990年代前後にメルセデス・ベンツ、アウディ、BMWの各社がステーションワゴンを「セダンよりも荷物が載せられるエレガントなクルマ」として宣伝し始め、自家用車としての5ドアモデルが主流となります。

ステーションワゴンは流行期を迎え、ドイツではこの時期にスバルやボルボのステーションワゴンも数多く輸入されました。ところが、今度はSUVの流行とともにステーションワゴンは衰退し始め、世界のマーケットから姿を消していきます。1990年代は日本でも人気があったステーションワゴンですが、現在はトヨタ、ホンダ、マツダ、スバルの各メーカーに1〜2モデルずつ残るのみという状況です。

ヨーロッパ全体でもステーションワゴンの人気があるのはドイツくらいで、その他の国では「保守的で年寄りくさい乗り物」とみなされています。なぜ、ドイツはそれほどステーションワゴンの人気が高いのでしょうか?

■長期休暇の相棒として理想的

ステーションワゴンが今も高い人気を保つもっとも大きな理由は、長期休暇の存在と、その楽しみ方にあります。

ドイツでは1年間のうち有給休暇が約1か月間与えられ、かつ毎年必ず消化しなければならないと定められています。人にもよりますが、この有給休暇をまとめて取得する場合が多く、その間を旅行に費やすのがドイツの人々の大きな楽しみとなっています。

長期休暇を、バスや電車ではなく、行き先と時間が限定されない自家用車で移動する人は少なくありません。そうした人たちに選ばれているのがステーションワゴンなのです。

家族4〜5人と多くの荷物を同時に載せられる。SUVよりも車高が低いため横風の影響を受けにくい。セダンほどのボディ剛性と静粛性は望めないものの、より大きなバンやワゴンなどに比べると乗り心地と運動性に優れる。こうしたメリットを持つステーションワゴンは、1日に1000km以上移動するのが当たり前のドイツで、今でも根強い人気があります。

一例としてフォルクスワーゲン・パサートを挙げましょう。パサートには「バリアント」と呼ばれるステーションワゴンと通常のセダンがラインナップされていますが、2020年の売上では「バリアント」の割合がなんと70%以上を占めているのです。

一方の「バカンス大国」であるフランスと比較すると、荷物満載で1日1000km以上移動する、という休暇のスタイルは共通していますが、大きな違いは「移動の速度」です。フランスの高速道路は制限速度が130km/hですが、ドイツには「速度無制限区間」があるため、平均速度はフランスよりも速くなります。そのため、ルノー・カングーに代表されるような背の高いフルゴネットよりも、重心が低いステーションワゴンがドイツでは好まれているのです。

■社用車としての万能性もステーションワゴンならではの魅力

もうひとつ、ドイツでのステーションワゴン人気を支えているのは「社用車としての利用」です。使い方としては「営業車として荷物を載せて長時間走る、一方で空港や駅への送迎も同じクルマでやってしまおう」というシンプルかつ欲張りなもの。

こうした場面に選ばれているのは、やはりメルセデス・ベンツ、アウディ、BMWといったプレミアムブランドのステーションワゴンです。その中でもハイエンドに位置するBMWアルピナ、AMG、アウディのRSシリーズなどであれば、大馬力を活かしてアウトバーンの移動も余裕でこなしつつ、会社の重役を送迎しても失礼に当たらない、というわけです。

■暗雲が立ち込める「ステーションワゴンの未来」

ところが、ドイツにおけるステーションワゴンの先行きは、あまり盤石とは言えないのが実情です。今年に入り、メルセデス・ベンツは2030年にはステーションワゴンをラインナップから排除する、とドイツの主要自動車雑誌が報じました。理由は、アメリカと中国でステーションワゴンがまったく売れないからです。

世界的に見てもステーションワゴンが売れているのはドイツ、強いて言えばイギリスくらいで、その2国にもSUVの流行の波が押し寄せています。さらに、時代の流れが一気にEVに向かっていることも、ステーションワゴン衰退の要因のひとつとなっていると考えられています。

ドイツの人々のステーションワゴンに対する愛情は、筆者から見てもかなりのものなのですが、ドイツの各メーカーはメルセデス・ベンツの動きに追従していくのでしょうか。ステーションワゴンがドイツの地で生き残れるのかどうか、今後も目が離せない状況が続きそうです。

[ライター/守屋健]