2人の偉大なアスリートが広島を去った。JTサンダーズを初優勝に導いた越川優選手と広島ドラゴンフライズの佐古賢一ヘッドコーチである。

 2人が通った中華料理店の店主は、意外にさばさばとしていた。「残念だけど仕方ないよね。越川選手が来てくれてJTも優勝できました。でも、いつまでも“おんぶにだっこ”ではいけません。佐古さんだって自分の人生もあるでしょう。契約のことはようわかりませんが、今度は、佐古さんにチャンスや縁をもらった選手に頑張って欲しいです」

 広島市南区にある中華料理店「北京」の城川喜代登さん(62)は大のスポーツファンである。選手に叱咤(しった)激励をする姿は「料理人の域」を超えてはいるが、愛情もあれば練習もつぶさに見ているので、異論も反論も出ない。全日本のキャプテンを務めたチームリーダーやMrバスケットボールに最大限の敬意を払いながらも、城川さんは「おんぶにだっこ」になってはいけないと考えてきた。

 26年前の開業当時、城川さんはチャーハンと鶏のピリ辛を軸としたランチを提供し、店の売り上げを飛躍的に伸ばした。しかし、そこに頼り切らず、季節の食材を研究し、今やメニューは80種前後になった。だからこそ、地域に長く愛されるのである。

 「中華の話とスポーツは別物よ」と否定するが、一方的なこじつけにも、まんざらではない表情である。

 「越川選手には東京五輪という夢がある。だからビーチバレーに転向して挑戦する。応援したいねぇ。佐古さんはバスケットでオリンピックに携わって欲しい。ほら、もう3年しかないよ」

 城川さんの発言はいつもポジティブである。通ったアスリートは、この元気を求めて店を訪ねたのかもしれない。

 「わしの夢。そうね、今は庶民的な店でやっているけど、宴会とかをメインにした店をしてみたいね。にぎやかなのが好きだから」

 五輪を控えた「東京の夢」と、フライパンが金属音をたてる「北京の夢」。まったくのこじつけではあるが、どちらも前向きだから応援したくなる。

 前進あるのみの人から学ぶことは多い。「出会い」は悪くない。そして、「別れ」もそんなに悪くない。

 坂上 俊次(さかうえ・しゅんじ)1975年生まれ、兵庫県出身。99年RCC入社。RCCカープナイターでテレビ・ラジオの野球中継を担当。これまで広島・野村謙二郎、前田智徳、ヤクルト・宮本慎也と3度の2000安打達成の場面を実況。著書「カープ魂 33の人生訓」(サンフィールド)がある。2級ファイナンシャルプランニング技能士の資格を持つ。