【内藤國雄・人生自在流5】(後編)

 ただ、アマチュア初段に過ぎない少年を「プロ八段になる」とはなかなか言えないセリフ。「家族を説得するためのハッタリでは…という気がした」のも分からぬではない。

 しかし、ハッタリでないのは後年に分かった。國雄が八段になった時、師匠は「これで、おふくろさんとの約束を果たすことができた」と涙を流して喜ぶ姿を見たからだ。

 プロ志望した内藤少年は、師匠に連れられて大阪の「日本将棋連盟関西本部」に足を運んだ。その日は、奨励会(プロ棋士の養成機関)の手合(対局)日で、その見学が目的だった。

 古い二階家で、玄関を上がった畳の部屋に、海坊主のような人が着物姿で座っていた。角田三男六段(当時)だった。

 「角田はん、将来の名人を連れてきましたで。内藤、挨拶しいや」と師匠から言われ、内藤少年は廊下から「こんにちは」と頭を下げた。

 すると海坊主は「ふじうっつあん。この子、足悪いんでっか」とギョロリと目を向いた。

 内藤少年はあわてて畳に手をついて挨拶をし直した。礼儀に厳しい棋界の一面をのぞいた思いだった。

 「角田六段は実は見かけによらず非常に心の優しい人。それが分かったのは後のことだった」と内藤少年。恐ろしい野武士のような人との出会いは、初めての社会的試練だった。=敬称略=