【仰木彬外伝17】(前編)

 1988年6月7日、首位・西武を追撃する立場の仰木近鉄に、衝撃的な事件が勃発した。4番を任せていたリチャード・デービス(※)が大麻不法所持で現行犯逮捕されたのだ。デイリースポーツは翌8日の1面で『近鉄デービス逮捕 大麻所持 衝撃!!初の不祥事』と大きく掲載した。

 プロ野球史上初となる現役選手の現行犯逮捕に、球界全体が大揺れに揺れた。現場を預かる仰木の心中も大きく波立っていた。「4番逮捕」当日は、日生球場でロッテ戦が行われたが、小川−牛島の継投の前に打線が沈黙し、0−2と完封負けを喫してしまった。

 いつもは温和な表情で試合を振り返る仰木だが、報道陣から「デービスがいたらと思いましたか?」という質問を受けるや、顔色を一変させ「おらんもんはおらんに決まっとるだろう」と声を荒らげた。突然消えた4番打者の穴など、埋めようがない。仰木はここから暗たんたる日々を過ごしながら、今後の対策をどう講じるか頭を悩ませた。

 そんな仰木にヘッドの中西太が「顔の相が変わった。ようやく監督らしくなってきた」と言ったという。監督経験者の中西は仰木の苦悩を察していた。盟友・中西がそばにいることが、仰木には何とも心強かった。