【五輪に愛され続けた男・野村忠宏11】(後編)

 2年前のインターハイではその力強さに逃げ回って負けた。「ここでまた負けたら、この階級、生涯2番手で終わる」。自分にそんな重圧をかけ徳野との準決勝に臨む。背負い投げをかけるなら、自分より大きな相手のほうがかかりやすく、低い姿勢の徳野に対して、背負う体勢に入るのは難しい。野村は一瞬の隙をついて、磨き続けた伝家の宝刀、背負い投げで一本を奪って徳野を下した。

 決勝は、前年の体重別学生選手権、講道館杯に続き、園田との対戦となった。園田は野村の組み手を防御し、互いに技をかけ合う接戦で判定へ。五輪最終選考会で候補2人を直接対決で下しついに優勝した。柔道では、慣例として体重別の会場ですぐに選考委員会が始まる。

 控え室で待機していると、86キロ級の吉田秀彦(明大出身)、78キロ級・古賀稔彦(日体大出身)ら五輪の金メダリストたちが冷やかしに来る。

 「何でお前がここにいるの?園田でしょう」。野村はその言葉に「当然だ」と、帰ろうとしたが、吉田と古賀のいたずらを知った広報が慌てて「まだ決まっていません!」と引き止めに来た。それから数十分後、代表決定の知らせを聞く。喜びや感激より「ヤベェ、オリンピック代表になってもうた」。それが正直な感想だったという。=敬称略=