【五輪に愛され続けた男・野村忠宏14】(後編)

 表彰式ではその金メダルを噛(か)んで、アトランタ出発時に自分を突き飛ばしたカメラマンたちに向かってポーズして見せた。「日本人でメダルを最初に噛んだのは野村」と言われるが、実際には野村の2日前、71キロ級でアトランタの日本男子で最初の金メダルを獲得した中村兼三も「噛んで」いる。

 五輪前、最も注目度の低かった2人は、取材対応に追われるほかのスター選手たちを尻目に、お互いを「ジミーズ(地味)」と呼び合い、むしろそんな状況を楽しむ余裕さえ持っていたという。選手村に配られた新聞で、中村がうれしそうに金メダルを噛んでいるのを見て「兼三先輩、金メダル噛んでいましたね。自分も噛みます」と、ジミーズコンビ最大のアピールを約束した。

 一方中村は中村で、後に「あれは、自分のオリジナルではなく、外国選手の写真を見て真似をしました」と、率直に明かしている。

 どの五輪で初めて選手が金メダルを噛んだのかは定かではないが、五輪で代表撮影などを行ってきた海外メディアでは、1988年、ソウル五輪男子競泳200メートル優勝のダンカン・アームストロング(豪州)が「純金製か確かめたくて」噛んだとされる。噛んで確かめようとした金メダルは、オリンピック憲章で「少なくとも純度1000分の925の銀製で、6グラムの純金で金張りを施す」と定められている。

 金メダルの中身はほとんどが銀、そして金メッキ。メッキなので噛まない方がいいだろう。=敬称略=