【五輪に愛され続けた男・野村忠宏17】(後編)

 一本背負いで3回戦へ進むと肩車で一本、4回戦は大外刈りで一本。心技体がそろった最強の状態を象徴するように、準決勝は背負い投げで有効を奪って決勝に進出した。

 決勝は韓国の鄭富競(チョン・ブギョン)との対戦。22歳、4年前のアトランタでの自身を眺めるような若さと勢いを持った選手だ。

 互いに内股の応酬から、鄭がそれをかわすためにバランスを崩す。さらに崩そうと動くと、何もかけていないのに鄭の体が浮き、飛ばされた。そのまま一本。心技体が充実した五輪を象徴するかのように、「空気投げ」とも呼ばれる「隅落とし」という、まれに見る技で連覇を果たした。

 五輪最強の「ペア」田村亮子はこの時、野村の直前、3度目の挑戦で悲願の金メダルを手にした。4年前の空港からの出発時を思い起こさせるように、カメラマンたちはまたもや田村初の金にレンズを向け続けるばかりに、野村の勝利の瞬間、後ろの畳を振り返り「え?」と、あ然とした。

 「野村様、大変失礼いたしました!」

 カメラマンたちをそう謝らせたほどの、鮮やか過ぎる14秒での決着だった。

 「表彰式では、ああこれでカッコよく引退できる。最高の終わり方だ。そう思っていました」

 しかし、連覇は始まりだった。その後15年も続く柔の道の。

=敬称略=