【五輪に愛され続けた男・野村忠宏18】(前編)

 軽量級初となる連覇の感動を表彰台でかみしめながら、「ここで引退するのが引き際の美学というものだろう」と、野村忠宏は考えていた。しかし会見でも、囲みの取材でも進退について口にしていない。五輪直後、帰国してからの記者会見の一問一答がある。

 −前人未到のオリンピック3連覇にチャレンジするんでしょうか、それとも引退するおつもりでしょうか。

 「正直、まだ何も考えていません」

 −いつ頃までに決断するんでしょうか。

 「急かされて、やります、辞めます、というような話じゃありませんから、時間が欲しいと思っています」

 −どのくらいの時間ですか。

 「自分で決めたい時に…」

 やり取りにはもちろんほかにも言葉が肉付けされているし、受け答えはていねいだったが、それでも勝負師の太い骨の部分で、メディアのこうした目標の押し付けは相当のストレスではないかと映った。同時に、新たな目標を追うにせよ、引退を選択するにせよ、これまでの4年とは全く異なったアプローチが必要だろうと容易に想像できた。

 五輪翌年の2001年、充実した技、自信に満ちあふれた精神力、研ぎ澄まされた肉体、もうこれ以上持ちようがないと思われた強さに、また新たな「強さ」がもたらされる。