【五輪に愛され続けた男・野村忠宏20】(前編)

 03年大阪世界選手権60キロ級3回戦で、野村忠宏は当時世界チャンピオンだったルニフィ(チュニジア)と対戦した。ポイントで先行しながら、最後に体力を消耗しきって逆転負けを喫する。しかしルニフィは、「技、そこに向かうバリエーション、どれも野村の柔道は素晴らしく、組んでいて楽しかった」とユニークなコメントを残した。

 恐らく、五輪連覇を果たした男の柔道は、2年のブランクを経てこの時、本人も気付かぬ円熟という域に達していたのだろう。それを、組んだライバルが最初に指摘していたのかもしれない。

 野村は、ミキハウスの地元・大阪で行われた世界選手権でのこの一戦を、後も続く長いキャリアの中でも「忘れられない敗戦だった」と振り返る。復帰後、最初の国際大会優勝を狙って臨みながら3回戦敗退。しかも、体力負けのような「心を折られるような」敗退に、控室に戻り気持ちが切れた。この時の心境をインタビューでこう話している。

 「世界選手権優勝を自信にアテネにつなげるのがベストだと思っていました。でも世界選手権という舞台で、日本の軽量級の意地があった。気持ちを切り替え、ここで銅メダルを取らなければと使命感のような気持ちが湧きました。もうひとつ、とにかく自分に腹が立って仕方がなかった。怒りさえ込み上げる中、一方では冷静に試合ができた。負けからいかに多くを学ぶか、優勝だけでは得られないものがある、と改めて知った敗戦です」